せめて、皇帝らしく   作:亭々弧月
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幕間のような前フリのような そんな話。











神機妙算

「アインズ様、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「どうした、デミウルゴス。」

咄嗟のことで軽く返事を返してしまったことをアインズは少し後悔する。相手はナザリック随一の知者たるデミウルゴス。何を聞かれるか分かったものではない。

 加えてこのエ・ランテルの執務室にはアインズ当番のメイド以外には誰もいないためいつもの手が使えない。

 とはいえ断るわけにもいかず、覚悟してデミウルゴスの言葉に無い耳を傾ける。

 

「私の見立てでは王国より帝国を優先して属国にしようとした場合、例えアインズ様の力をお借りしても一か月程度かかるはずでした。しかしアインズ様は帝国に赴かれて三日と経たないうちに皇帝の心を打ち砕かれております。いったいどのような策を用いられたのですか?」

 

 聞かれるなどと夢にも思ってなかった問い、されど抱いて当然の疑問にアインズは狼狽える。

(まずい。────どうする?───どうすれば)

 たまたま闘技場に行ったら偶然ジルクニフがいて、挨拶したら何故か急に属国になりたいと言ってきた、などと言える筈がない。

 

 アインズが策謀の全容を言うべきか迷っているように見えたのかデミウルゴスは跪き首を垂れながら願い出る。

 

「神機妙算の主たるアインズ様の秘策を教えてもらおうというのは出過ぎた真似かもしれません!しかし今後のナザリックの繁栄のためにもその雄略のヒントだけでも頂けないでしょうか!」

 

 どこからどう見ても真剣で本気のデミウルゴスを見て逃げ場がないことを悟る。

(どう答えたらいいんだ………ん?ヒント?───そうか、もしかしてデミウルゴスならそこであった出来事を要約して話すだけでうまいこと繋げられるのではないか?それにもしこの手法が上手くいけば今後も使えるし試す価値はあるかもしれない)

己の閃きに感謝しながらアインズは無い口を開く。

 

「ふむ、そうだなデミウルゴスよ。私があのとき何をしていたかを今からかいつまんで話すのでそこから考えてみるとよい。」

 

「おぉ…ありがとうございます!」

 

 デミウルゴスの嬉しそうな様子を見てアインズは少し安堵する。しかしここからが本番だ。それっぽくヒントが隠されているかのように話さなければならない。

 

「…あの時私は冒険者組合長とともに帝国の闘技場を訪れていてな。この前話した魔導国の冒険者の件で帝国の冒険者を引き抜こうと考えたのだ。それには力を見せつけるのが一番良い。だから帝国最強と言われていた武王を打ち負かし宣伝しようと計画した。…ここまでは分かるな?」

 

デミウルゴスは頷き、より一層真剣に一言一句聞き逃すまいと全神経を眼前の偉大な主人に向ける。普段はあまり自分の考えを口には出してはくれない主人が多くを語ってくれるまたとないチャンスだからだ。その智謀の一端でも掴むべく全身全霊の努力をしなければならない。

 

「そして試合の日、偶然にもジルクニフがその場にいたのだ。偶然な。…そして挨拶に向かったところ、どこぞの使者か誰かが皇帝と一緒に貴賓室にいたのだ。いくつか書類が机の上に散らばっていたのを記憶しているが、おそらく何かを話し合っていたのだろう。そういえばあの時ジルクニフは体調が悪かったのか顔色が良くなかったな…。まぁそれはいい。そして試合を終えて再び挨拶をしに行ったときに彼は従属を願い出てきた。というわけだ。」

 

 窓の外を眺めながら、必死にさほど中身のない一日を意味深な雰囲気で語ったアインズが恐る恐る視線を戻すと、そこにはこちらを凝視し口を半開きにしながら体を震わせているデミウルゴスがいた。

 

(え?もしかして余りにもくだらなさ過ぎて呆然としているのか?まずい、どうしよう。もしそうならヤバいぞこれは……)

 

 2,3度精神鎮静化を繰り返したぐらいでデミウルゴスが口を開く。

 

「───なんと………アインズ様はそこまで見通されていたのですか……。完璧なタイミングで相手の急所を抉るということですか……。それほどまでに張り巡らされた智謀にはただただ感激することしか出来ません。───このデミウルゴス更なる忠節を捧げさせていただくつもりです!」

 

(あれ?もしかしてうまくいった…?)

「う、うむ。日頃からお前には本当に助けられている。今後も頼むぞ」

 アインズはデミウルゴスの言動から自分の作戦が上手くいったことを薄々感じ取り鷹揚に頷いた。

 

 ただでさえいつも姿勢の良いデミウルゴスが更にシャキッとしているように見える。そしてその顔には清々しいまでの満面の笑みが浮かんでいる。彼の中でどう理屈付けがなされたのかアインズ自身が一番知りたがっているのだが、当然聞ける筈がない。仕方なく話題を変える。

 

「それはそうとそのジルクニフだが、今度ナザリックで歓迎でもしようと思ってな」

 

「ほう、()()ですか。それは面白そうですね」

 

「あぁ折角闘技場の一件で武王を手に入れたのだ。今度はアンフィテアトルムでハムスケと戦わせてみようと思ってな。私たちにとっては少々つまらないが、人間には良い見世物になるだろう。」

 これはいわばアインズなりの歓迎パーティーだ。

 今回の出来事を例えるならバハルス帝国は魔導国という企業の子会社になるといったものだろう。鈴木悟だった頃の世界では大企業の子会社になった所は大抵いいようには扱われなかったと記憶している。

 

 しかしアインズはそんな酷いことをするつもりはない。ハッキリした上下関係が先に出来てしまったのが少し惜しまれるが、魔導国の傘下に入れば豊かな暮らしが送れるというテストケースにするため帝国には今まで以上に繁栄してもらうつもりだ。

 そこでエ・ランテルでの会談という名目でジルクニフを呼び、サプライズパーティー的な感じでジルクニフとの親交を深めようという計画である。親会社の本社ビルに行くとなれば緊張もするだろう。そこでこの歓迎があれば緊張もほぐれ、一歩踏み込んだ信頼関係も築けるに違いない。

 

 帝国の闘技場で見た限りジルクニフは武王の大ファンだ。そしてその相手がアダマンタイト級冒険者の従える魔獣ともなれば箔が付くだろう。これほど良い余興があるだろうか。

 

 そんな計画の狙いは明かさぬようにしてアンフィティアトルムでの観戦を余興とすることについてのみを伝えると、デミウルゴスは先ほどの清々しい笑顔ではなく不敵な笑みを浮かべた。

「素晴らしいご計画です。成功すればきっと魔導国と帝国の関係は一層揺るぎないものになるでしょう。あの皇帝がどのような顔をするのか今から楽しみで仕方ありません。」

 

「うむ、日取りは追って伝えるので細かい調整は頼んだぞ?」

 

「はっ、このデミウルゴス、アインズ様のご期待に必ずや応えて御覧に入れましょう」

 

(…デミウルゴスの顔に浮かんだ邪悪な笑顔がちょっと気になるけど、素晴らしいと言ってくれたので問題ないだろう)

 

 

 自信に満ちた歩き方で執務室から退出するデミウルゴスを視線で見送りながらアインズはサプライズパーティーの成功を夢見るのだった。

 

 

 

 

 




神機妙算=神算鬼謀


手柄を横取りしたことでアインザックに多少の罪悪感を抱いてる描写を入れたかったのですが自分の拙い文章力が故に上手く入りませんでした。申し訳ありません。







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