暗澹冥濛
鮮血帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=二クスはいつも通り頭を抱えていた。
端から見ても情けない姿をしているであろうということは想像に難くない。
自身の率いてきたバハルス帝国が魔導国の属国になるということに対して改めて様々な感情が湧いては次々と心に重くのしかかっていく。
かつての皇帝達に胸を張れる国が出来上がる道が見えてきた矢先、かの至大至剛にして蓋世之才を持つ超越者アインズ・ウール・ゴウンが現れたのだ。あのアンデッドによって己が計画をこれまで悉く完膚なきまでに粉砕されてきたジルクニフにとって魔導王はもはや恨みや憎悪の対象から外れ、打つ手など無いと匙を投げてしまいたくなるほどであった───いや属国となることを願い出てしまった時点で匙はもう投げてしまったようなものかもしれない。
魔導国の属国となることが伝わった時は自国内の神殿勢力だけでなくスレイン法国からも国家に対する公式文書でここまで罵倒できるものなのかと驚くほど激しく糾弾され、騎士団では皇帝はかの大虐殺の前に既にあの魔王に魂を売り渡していたなどという噂が真しやかに語られていた。
しかし現在、秀外恵中と自他ともに認めるジルクニフは己の政治手腕、容姿、人脈を今まで歩んできた苛烈な人生すら楽に思えるほどに最大限活用し、彼らに「あの強大な魔導王の前では仕方がないことで虐殺の矛先が向くよりはマシではないか」とある程度思わせることに至っている。
そんなジルクニフにとって救いといえば、魔導国によるバハルス帝国の統治が存外平和なものになりそうなことと、引き続きジルクニフに帝王の座に君臨することが認められ、ある程度の自治権が与えられそうなことだ。
その後に聞かされた全種族平等という魔導国の方針や、伝説にも謳われるアンデッドによる国内の警備、
「っ...また胃が痛むか」
もう日課となった胃痛に、これまた日課となったポーションの服用を慣れた手つきで済ませる。自室のソファーに座り、足を投げ出し虚空を眺める。
「──ついにこの日が来てしまったか...」
この頃独り言が増えたと自分でも思うが、それも仕方ないだろう。なにせ今日はバハルス帝国が魔導国に膝を屈したことを晒すことになる恥辱の日なのだから。
エ・ランテルにて開かれる魔導国との会談───会談とはいえ魔導王の意向により簡易なものになるとは聞いているが、バハルス帝国皇帝という権力の頂点にいた者がアンデッドの前に跪くということはエ・ランテルに住まう人間にとっても帝国臣民にとっても大きな意味をもつ。それをさせるのがあの魔導王の狙いなのだろう。
しかし、例えあの死の権化に首輪を嵌められ手綱を握られることになろうとも自分がバハルス帝国皇帝であるという肩書は変わらない。会談とやらに向けて所有している衣服や装飾品の中でも最高級のものを身に着けていくつもりだ。
(まぁ奴の身に着けているものに比べれば安物なのだろうが……)
ジルクニフはあの墳墓の神々しい玉座の間で見たアインズ・ウール・ゴウンの格好を思い出す。あれほどの装飾品やマジックアイテムは誰が作り出したのか、あの居城にいつから住んでいるのかなど気になることは山ほどある。そのような疑問の数々に思案を巡らしているうちに予定の時間が訪れた。
今回の会談に際しては魔導国による転移の魔法で帝都アーウィンタールとエ・ランテルを繋いでいるため直ぐに向こうにつく手筈となっている。便利かもしれないが今のような状況ではあまり嬉しくはない。
(魔導王め、私に心の準備をさせるまでもなく会談に臨ませその上揺さぶるつもりか……)
転移の魔法などというものは元主席宮廷魔術師のフールーダ・パラダインのような英雄級の
しかし、もうなるようにしかならない───どうせ自分が何を考えていようと先手を取られるのだろう。ならばむしろ何も考えないほうが良いのではないかとさえ思えてきた。
一応護衛として四騎士のバジウッドとニンブルが同行するが、
ここ最近のあらゆる変化に対してある種の諦めが浮かんできたがそれを振り払い決心する。
「─よし、行くか」
ありがとうございました。
暗澹冥濛(あんたんめいもう)・・・暗くてはっきりせず先が見えないようす。前途に希望のないことのたとえ。
投稿テストも兼ねた文字数少なめの投稿ですが、今後もおそらくこのぐらいになるかもしれません。