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 IT企業の社内でも、おかしなやり取りが頻繁に飛び交う。 「そろそろ『クラウドに移行しませんか』と上司に提案したら、猛反発された。ベテラン社員も反対。聞けば、セキュリティ面に不安があるからだって」

 中堅のシステムインテグレーターに勤めるBさんはため息混じりにこう語り、肩を落とす。クラウドサービスを提供している会社の社員が、何を言っているんだか。ウソのようなホントの話だ。

 セキュリティが不安だから、クラウドの導入に二の足を踏む。顧客企業の人が言うのなら、まだ理解できる。しかし、今や金融機関や官公庁、自治体でもクラウドサービスを利用し始めている時代だ。売り手であるIT企業がセキュリティやガバナンスを「言い訳」にして、導入の検討すらしないのはいかがなものか。それでいいはずがない。

 Bさんは以前、テレワークの導入を提案したこともある。しかし課長からは、その場で却下された。「職場にいない社員を信頼できない。仕事をサボりたいだけじゃないの?」。よくこれでITの商売ができているなあ。

 こうしたIT企業でも、社内では経営者がイノベーションやチャレンジを強調していることが多い。それでも現場のIT職場は正反対の態度。新しい技術を試したくても、管理職や年配社員に反対される。笑うに笑えない話である。

セキュリティとガバナンスを言い訳に、新技術の導入をためらうIT職場の問題地図
(出所:あまねキャリア工房)
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 経営者がイノベーションやチャレンジを叫べば叫ぶほど、実態とは程遠い現場の景色に社員は幻滅する。仕事へのモチベーションも下がる。IT企業なのに、新しい技術もワークスタイルも試すことが許されない。

 新技術や新サービスに対して興味を失ったら、エンジニアとしてオシマイだ。当然、顧客からも見放される。その危機感をIT企業の管理職は持っているのだろうか。セキュリティやガバナンスを盾に何でも反対する前に、会社の存亡リスクにもっと敏感になったほうがいいと思う。

 ここで一句。 「イノベーション、叫べば下がるモチベーション」