清水英斗(サッカーライター)
フリーキックの守備局面では、フィールドプレーヤーが並んで壁を作り、GKとコースを分担して守るのがセオリーだ。一般的には壁がニアサイドに立ち、GKはファーサイドを守る。このときファーサイドのことを、GKサイドと呼ぶこともある。
なぜ、並べられたフィールドプレーヤーを『壁』と呼ぶのか。それは壁の機能を果たすことが求められるからだ。壁であるからには、その間をボールがすり抜けることは、本来あってはならない。そんな事態が起きれば、コースを分担するという守備の前提が崩れてしまう。
その視点を持った上で、コロンビア戦を振り返ってみよう。前半39分、DF長友佑都のクリアミスからMF長谷部誠が与えたファウルにより、コロンビアはフリーキックを獲得した。キッカーは、MFフアン・キンテロ。左足で蹴ったボールは壁の下をすり抜け、ゴールを割った。前半3分にPKから先制した日本だが、数的優位を生かせないまま、互角で試合を進めてしまい、ついには1-1の同点に追いつかれてしまった。
強いシュートではなく、角度も正面ではなかったので、「何となく防げそうな感じ」がするのだろう。「何だよ! 川島!」と、まるでGKが犯したミスかのように嘆く声が聞こえてくる。そのシーンについて、川島本人は次のように語る。
「壁の下を抜けた時点で、かなり厳しいなと。なんとかゴールラインぎりぎりのところで捕れると思っていたけど、難しかったですね」
川島は決して、自分のミスから逃げるような選手ではない。むしろ、積極的に向かい合おうとするタイプだ。その彼がこの失点を自分のミスとは言わず、「厳しい」「難しかった」と表現した。
振り返ってみよう。日本の壁に入った選手たちは、キンテロが蹴る瞬間にジャンプしている。これは相手キッカーが頭越しにカーブさせ、ニアサイドに落とすキックを得意としているからだ。しかし、キンテロはその裏をかき、跳んだ壁の下を狙った。
壁が担当したニアサイドは破られてしまったのである。こうなると、壁の存在はGKにとってはむしろ、目線をさえぎる邪魔者でしかない。川島は反応のタイミングが遅れた。
付け加えるなら、キンテロのキックは、ファーサイドを狙う身体の向きのまま、最後に足首や身体をひねり、インサイドキック気味にニアサイドへ引っ張っている。シュートに勢いがなかったのは、そのためだ。バチーンと足の甲でストレートに蹴れば、もっと強いシュートになるが、その蹴り方はコースを読みやすい。キンテロは蹴り方でも、GKに対して駆け引きを仕掛けていた。
-壁の下を狙ってくるのは予想していなかった?
川島 チームの中で話はしていたが、実際にゲームの中では起きてしまった。それは修正できることだし、今後の相手とも駆け引きになってくる。うまく自分たちで生かさなければいけないと思います。
-壁はジャンプしてOKだった?
川島 それは今後の試合もあるので言わないです。
この点については、DF昌子源が細かく説明したようだ。日本としては、相手が壁の下を狙ってくるのは予想しており、本来はつま先立ちで背伸びする格好で、壁を作る約束事だった。ところが、試合のテンションに流されたのか、壁は思いっきりジャンプしてしまった。壁が壁の役割を果たしていない。川島としては想定外の行動だった。シュートはその下を抜けてきたのである。