SERIESThe Young and the Reckless ・Ⅶ


PERSON A
マイクロソフトから来た男

Xboxアンダーグラウンド」のメンバーは
それぞれ勝手な行動を始め、バラバラになっていった。
ポコラたちは極秘に起訴されたことを知らず
これまでの幸運を頼りに
ついに強盗にも加担することになった。
暗いフロアを進み始めると、動作感知装置作動し、
いきなり部屋じゅうに光があふれた。
(本連載は毎日20時に公開します)

ポコラがゲームデヴェロッパー(開発企業)のハッキングにのめり込んでいくにつれ、カリフォルニア州のハッカーアンソニー・クラーク[第3回記事]との関係は気まずくなっていった。

ふたりはかつて、マイクロソフトのテスト用ネットワーク「PartnerNet」に侵入して改造ゲームを楽しむ仲だった。だが、結局、軍事シューティングゲーム「Call of Duty」の改造ビジネスに、スタッフを採用するかどうかをめぐって対立するようになった。ポコラは貪欲そうな人間を何人か採用したが、クラークは使いたがらなかったのだ。

こうした衝突にうんざりし、彼らはそれぞれ別の事業へと向かっていった。ポコラはハッキングツール「Horizon」を使ったXboxの不正サーヴィスを重点的に行った。Horizonは友人たちと片手間でつくり上げたものだ。

ポコラはHorizonを気に入っていた。この不正は、オンラインコミュニティ「Xbox Live」上では機能せず、技術面や法律面をほとんど心配しなくてよいからだ。

一方、クラークは仮想通貨の闇取引を始めた。天才プログラマーのネイサン・ルルー[第6回記事]がサッカーゲーム「FIFA2012」のために開発した仮想通貨のマイニング技術を改良したのだ。

クラークの新しい事業には、インディアナ州の高校生、オースティン・アルカラが参加した。ゲームデヴェロッパーのゾンビスタジオ(Zombie Studios)をハックしたり、のちに「Xbox One」として発売される開発機「Durango(デュランゴ)」の偽造に関わっていた人物だ。

20歳になったポコラは、大学に通いながらHorizonの運営に励んでいた。そのころ、オーストラリア在住のハッカーで、ポコラに見限られたディラン・ホイーラーは神風特攻隊と揶揄されるような向こう見ずな行動を続け、注目を集めようとしていた。

ホイーラーがネットオークションサイト「eBay(イーベイ)」で詐欺行為を行い、メディアの注目を集めた直後、マイクロソフトはマイルズ・ホークスという私立探偵をパースに送った。ホイーラーと接触させるためだった。

ホイーラーは、「ミスター・マイクロソフトマン」と会ったことをTwitterに投稿し、ハイアットホテルでランチを食べながら、仲間に関する情報提供を迫られたと書き込んだ。ホイーラーによれば、ホークスは法律上の影響については心配しなくてよいと言ったという。マイクロソフトの興味は「本当のクソ野郎ども」を追うことにしかないということだった(マイクロソフトはホークスがそう言ったことを否定している)。

2012年12月、FBIがニュージャージーのゲーマー、サナドゥデ・ネシュワットの家に踏み込んだ。ネシュワットは捜索令状の原本をオンラインで公開した。これを見たホイーラーは、捜査員たちの個人情報をネット上の公開フォーラムでさらし、人々に攻撃するよう呼びかけた。また、殺し屋を雇い、令状に署名した連邦判事を殺させるとおおっぴらに吹聴した。

あらゆる状況をエスカレートさせようというホイーラーの奇怪な衝動は、連邦検察を動揺させた。検察は11年6月に軍事アクションゲーム「Gears of War」がリリース前に市場に出回って以来、ハッカーたちの立件を入念に進めていた。

しかし、捜査を指揮する連邦検事補のエドワード・マクアンドリューは、チームの仕事のペースを上げる必要があると感じた。ホイーラーが本当の暴力に走るのを懸念したからだ。

2013年2月19日の朝、オーストラリアはパースの家族の家で作業をしていたホイーラーは、窓の下に広がる庭での騒ぎに気づいた。見てみると、軽装の戦闘服に身を包み、グロック社製の拳銃をホルスターに入れて携帯した男たちが、家に近づいてきていた。

ホイーラーは慌ててコンピュータをすべてシャットダウンした。これで、ハードウェアを調べようとする奴らは少なくとも、パスワードを解読しなければならない。

その後、数時間をかけてオーストラリア警察はコンピュータ機器を運び出していった。ホイーラーの推定で2万ドル(約220万円)以上にもなる資産だ。しかし、大切なハードディスクドライヴを誰も帯電防止袋に入れようとせず、ホイーラーはむっとした。

その日のうちに投獄されることはなかったものの、ハードディスクドライヴからはホイーラーに不利な証拠がたっぷり出てきた。彼はハッキングの功績をよくスクリーンショットに撮っていたからだ。なかには、ゾンビスタジオのサーヴァーで「ファンをメチャクチャ困らせるクレイジーなプログラム」を実行しようと投稿したチャットもあった。

同じ13年の7月、ポコラは古くからの友人で、顧客のひとりでもあったジャスティン・メイに連絡し、ラスヴェガスで開かれる毎年恒例のハッカーの集まり「Defcon」にもうすぐ参加すると言った。ポコラがカナダと米国の国境を越えるのは、数年振りのことだった。

7月23日、連邦検察のマクアンドリューらがポコラとネシュワット、ルルーに対し、16項目の起訴状を極秘に提出した。内容は通信詐欺、なりすまし、企業秘密の窃盗を共謀したことなどだった。

ホイーラーと、彼にゲームデヴェロッパーのエピックゲームズ(Epic Games)のパスワードリストを最初に提供したGamefreak(ゲームフリーク)は、未起訴の共謀者として名前が挙げられた(アルカラも4カ月後、被告人として加えられることになる)。

その起訴状から明らかになったのは、当局の主張のほとんどが「A」という人物から提供された証拠に基づいているということだった。その男はデラウェア在住で、Durangの偽物をレルーの家で受け取り、米連邦捜査局(FBI)に渡したとされていた。

検察は被告人たちを「Xboxアンダーグラウンド」のメンバーだと書いてもいた。ホイーラーの刑務所ギャングのジョーク[第5回記事]はもはやジョークではなくなっていた。

極秘起訴については何も知らなかったものの、ポコラはあまりに忙しく、「Defcon」への参加を直前でとりやめた。FBIは、先に米国人の共謀者たちを逮捕するとポコラが逃走するのではないかと懸念し、ポコラが国境を越えるまでは一団を追い詰めないことに決めた。

2カ月後、ポコラはスウェーデンのメタルバンド、カタトニアのライヴを聴きにトロントのオペラハウスへ行った。前座が激しく演奏しているとき、電話がかかってきた。インディアナ州フィッシャーズの高校3年生、アルカラからだった。

彼は興奮してクスクス笑っていた。Durangoの最新のプロトタイプをふたりに提供してくれる人を知っているというのだ。彼らが前年の夏につくったような偽物ではなく、本物のプロトタイプだという。その知り合いは、ワシントン州レドモンドにあるマイクロソフト本社の建物に侵入し、それを盗む気があるということだった。

その強盗は引き換えに、マイクロソフトの関連デヴェロッパーのネットワークのログイン認証情報と数千ドルを要求していた。ポコラはこの野心的な男の不敵さに戸惑い、「こいつはバカだ」と思った。しかし、何年も運に恵まれ続けてきたポコラには、もはや自分の良識に耳を傾けるという習慣など残っていなかった。そしてアルカラに「そいつらに接触しよう」と言った。

強盗を企てたのは高校を出たばかりのアーマンという男で、界隈では「ArmanTheCyber」として知られていた。彼はラストネームを明かさないという条件で話を聞かせてくれた。

アーマンは1年前、マイクロソフトの社員証をコピーした。母親のボーイフレンドのものだ。以来、そのRFIDカードを使ってレドモンドの本社を探検していた。頭のてっぺんからつま先まで、全身をマイクロソフトの盗品で固めており、社員として通用したという。

マイクロソフトの主張によると、アーマンは社員証をコピーしたのではなく、盗んだのだという。18歳のアーマンはすでに自分用にDurangoも1台、盗んでいた。再び盗みに戻るのは不安ではあったが、若さゆえの無謀さにあふれてもいた。

9月も終わりにさしかかったある夜の9時ごろ、アーマンはカードを機械に通し、Durangoが保管されている建物に入った。数人のエンジニアがまだ廊下をふらついていた。アーマンは足音が聞こえるたびに、仕切られたブースに潜り込んで隠れた。

階段を上り、どうにか5階にたどり着いた。その階のどこかにDurangoが隠されていると聞いていた。暗いフロアへと進み始めると、動作感知装置が彼の存在を検知し、いきなり部屋中に光があふれた。おびえたアーマンは弾丸のように駆け出し、すごい急いで階段を下りた。

結局、探していたDurangoは3階の2つのブースに分けて置かれていた。一方のDurangoのケースの上には、ピンヒールのパンプスが1足置いてあった。アーマンは2台のゲーム機を巨大なバックパックに入れ、その派手な靴はカーペットの上に残していった。

盗んだDurangoをポコラとアルカラに送った1週間後、アーマンのもとに驚くべき知らせが届いた。マイクロソフトのヴェンダーからだった。アーマンが夏に提出していた応募書類をようやくチェックし、品質保証テストの担当者として採用することにしたという。

しかし、その仕事は数週間しか続かなかった。捜査官にDurango窃盗犯であると特定されたからだ。階段の吹き抜けに設置されたカメラが、建物を出るアーマンをとらえていた。

法律上の影響を最小限にするため、アーマンはポコラとアルカラにゲーム機を送り返してほしいと頼んだ。また、自分用に盗んだDurangoも返還した。少しでも遅れたら、取り返しのつかないことになるところだった。嫉妬したハッカーたちが彼の家をネットで調べ、盗みに入ろうとしていたからだ。

ポコラは冬の間じゅう、Horizonを使って「Xbox360」用のゲームのハッキングをしていた。しかし14年3月、トロントの雪解けが始まったころ、週末に時間ができた。そこで、フォルクスワーゲンの愛車「ゴルフ」用に注文したバンパーを受け取りに、デラウェアに行くことにした。

「あのさ、逮捕される可能性があるんだけど」

出かける準備をしているときに、ポコラは父親に言った。父親は何のことかさっぱりわからず、薄く笑っただけだった。悪い冗談だとしか思わなかった。

※次回は6月21日(金)20時に公開予定。

ブレンダン・コーナーBRENDAN KOERNER
『WIRED』US版コントリビューティング・エディター。元『ニューヨーク・タイムズ』コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院が発行する『コロンビア・ジャーナリズム・レヴュー』で「注目の若手ジャーナリスト10人(Ten Young Writers on the Rise)」に選ばれたこともある。著書に、米国における航空機のハイジャックの歴史を描いた『The Skies Belong to Us: Love and Terror in the Golden Age of Hijacking』など。

本シリーズについて
「WIRED.jp」で6月14日(木)より毎日20時、9日間にわたって掲載する。出典は『WIRED』US版の特集『The Young and the Reckless』で、US版ウェブサイトでは2018年4月18日、同本誌では2018年5月号に掲載された。

The Young and the Reckless
https://www.wired.com/story/xbox-underground-videogame-hackers/
記事の一覧をみる