サバイバル・オブ・ザ・モモンガ   作:まつもり
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第五話 発見

巨大ゴキブリを倒して今日の分の狩りを終えたモモンガだったが、まだ朝方であり、ただ待機して魔力の回復を待つというのも勿体無いと森の周囲を歩いてみることにした。

 

土の匂いを含んだ朝の清々しい空気があたりに溢れており、空も澄み渡っている。

モモンガは森に沿って左回りに歩き始めた。

 

(あれは山か。 相当遠いが、この暑い季節に頂上が白くなっているという事はかなり高い山のようだな)

 

北の方角の地平線の近くに、大きな山が連なっているのが見える。

距離はかなり遠いようで、歩きならば数日間はかかりそうだ。

 

遠くを見渡してみると、この広い草原の中にも、ぽつりぽつりと小規模な森が点在しているようで、ここはそういった森の内の一つらしい。

 

モモンガは今まで見た記憶から頭の中に簡素な地図を描いた。

 

(現状分かっていることは少ないが……。 ここから北に山脈、西に都市らしきもの、そして今の地点は草原に点在する森の一つのようだな)

 

モモンガは山脈にはそれ程興味は引かれていなかったが、この世界の情報を得る為に都市にはいずれ行く必要があると考えている。

 

この世界にもユグドラシルと同じような生物がいるのか、またスキルや魔法が存在するのか。

今のモモンガは深い霧に包まれた場所を手探りで歩いているような状態であり、他にも知りたいことは無数にあった。

また今は危険な生物の恐怖に常に気を張りながら、安全とは言えない場所で魔力の回復を待っているが、都市に潜り込むことが出来れば、落ち着くことが出来る拠点が手に入るかも知れない。

 

(ただまあ……、その為には解決しなくてはならない事も沢山あるんだよな)

 

まずは外見。

この世界の知的生命体がアンデッドに対し敵意や忌避感を抱かない場合はこのままでも良いが、そうでなくては変装しなくてはならない。

変装自体は、モモンガがレベルアップにより習得していた第一位階魔法に《ディスガイズ・セルフ/変装》という幻術があり、それを使えば可能だろう。

だが、この呪文で変えることが出来るのは肉体の姿のみであり、衣服は別に用意しなくてはならない。 それに、幻術としては低位のものでマジックキャスターや優れた感覚の持ち主であれば見破ることは難しくは無いため、この呪文に頼りすぎるのは危険性が高い。

 

それ以前に、あの都市に住んでいるであろう存在の容姿が分からなければ変装しようが無いのだ。

 

加えて言語の問題、もし正体が露見した場合の対応などの問題も山積みだった。

しかし危険を恐れすぎていては、いつまで経っても情報など得られない。

 

モモンガは歩きながら、そのことを考え続けた。

 

(まず、いきなり都市に行くのは流石にまずい。 この世界の住人と出来るだけ安全な状況で接触して、最低限の情報や出来れば衣服や通貨も得たい。 服や通貨という文化が存在しない場合もあるが……、都市を作る知恵があるならばその可能性は低いだろう)

 

次に考えを巡らせるのは強さのことだ。

果たして、住人に接触する前にどれだけレベルを上げておけばいいのだろうか。

 

今は狙う相手がごく弱いこともあって装備無しの状態でも何とかなっているが、更に強い生物を倒すとなれば、装備は必ず必要になる。

特にスケルトンメイジの場合、戦士職や白兵戦向きの亜人種、異形種と比べると身体能力の上昇値が低い為、高レベルになるほど、自分と同格のレベルを持つ肉弾戦型のモンスターなどとの身体能力の差は開いていく。

 

その分の不利は魔法で補うことは出来るが、近接戦闘に持ち込まれれば詠唱する暇も無く、あっという間にやられてしまうリスクもある。

モモンガとしても、まともな装備も情報も無く戦えるのは、ごく低レベルの内だけだと考えていた。

 

(第一位階の魔法が揃うだけでも、隠密や攻撃、デバフなど少しは不測の事態に対応しやすくなる。 取り敢えずの目標は黒の叡智によるものを除く第一位階魔法を全て覚える、レベル七だな。 そこで出来るだけ万全を期してこの世界の住人との接触を試みて、次は……、いや、後のことはもっと知識を得てから考えるか)

 

そうやって考え事をして暫く歩いた頃。

モモンガは、森の中を動く灰色の影を見つけた。

 

影は一つでは無く、少なくとも二体以上。

それがモモンガの気配を察知したのか、三十メートル程離れた場所から一気に距離を詰めてきた。

 

(まずい……、速さからして獣か? しかしそこまで大きくは無さそうだな)

 

モモンガは初めは逃げようともするが、相手の速度が明らかに自分よりも速い為に諦めて、その場に留まる。

しかし下手に攻撃魔法を撃てば、ただ興奮させるだけの結果になるかも知れない……、と考え結局何もせずに接近を許した。

数秒後森から躍り出てきたのは、灰色の体毛を持つ三匹の狼だった。

 

三匹はモモンガから十メートル程度の距離を置き、明らかに敵意を含んだ唸り声を上げてきた。

 

(三匹か……。少し多いしMPも心もとない今戦闘は避けたいが……)

 

だがモモンガはこの世界に来たばかりの頃とは違い、僅かではあるが場数を踏んでいる。

故に危機に置かれたこの状況でも、冷静な思考力を保っていた。

 

そもそもモモンガは何の考えも無く先制攻撃をせずに接近を許した訳でなく、蛇と戦った時の経験から牙による噛み付きや爪による攻撃ではそこまでのダメージは入らない、と考えていた。

故に恐らく獣、それも単純な筋力だけでモモンガを葬ってしまいそうな大型獣では無い相手なら、対応の仕様もあると考えていた。

 

だが今はMPも心もとなく、例え噛み付きによる直接的なダメージは避けられても地面に引き倒されて乱戦になれば、モモンガが不利となる可能性が高い。

 

その為モモンガは、何とか戦いを避ける方法を模索していた。

 

(《スモッグ・オブ・ファティーグ/疲労の霧》で自分に近づきにくくしてから、ゆっくりと距離を取るか。 しかしユグドラシルでは狼はかなり低レベルのモンスターだった筈だが、この世界ではどのくらいの強さなのか……。 やはり、MPは出来るだけ温存して、普通に距離を取るか)

 

モモンガがそのように逃げる手立てを考えている時、狼の一匹が急に、怒りとはまた違う声を上げた。 その声に他の狼も反応し今にも飛びかかろうするような姿勢を崩して、やや浮き足だったようになる。

 

そして狼はモモンガが何をすることも無く、身体を翻して森へと戻ってしまった。

急な狼の行動にモモンガは疑問を抱くが、一先ず距離を取る事を優先しその場から離れる。

 

また歩き出しながら、あの狼の行動の理由を考えたモモンガは、もしかしたら狼は獲物と見て自分を襲おうとしたが、接近したところで自分は食料にはならないことに気がついたのでは無いだろうか、という結論に達した。

 

(元々狼が自分を襲ったところでメリットは特に無い筈だしな。 あの蛇に襲われたのも、縄張りに踏み込んでしまったか、あるいは単に動いているものを獲物と認識したからかも知れない)

 

とにかく、うっかり下手に刺激しなければ獣が自発的に、襲いかかってくる可能性は低いという事が知られただけでも収穫はあった。

 

そしてモモンガの体感にはなるが、歩き始めて三十分程経っただろうか。

どうやら歩き始めた場所から見て森の反対側にたどり着いたらしく、最初に思った通り、そこまで大きな森では無いことが分かった。

 

(……ん? あれは……、何だ?)

 

森の反対側を周り、今までと同じように森に沿って歩いていたモモンガだったがその途中で、二~三キロ離れた草原の中を移動している物体を発見した。

 

遠すぎてはっきりとは分からないが一定の速度でゆっくりと動いており、ここから見えるという事は大きさもそれなりにあるようだ。

 

しかもそれは一つでは無く、一直線に並んで複数の物体が同時に動いていた。

 

(動物にしては妙……。 もしかしたら何か大きな物を運んでいるのかも知れないな。 動かしているのはこの世界の住人か? 近寄って……、いや、しかし……)

 

モモンガは少し逡巡した後に、やはり接近はリスクが高すぎると判断し、今は関わらないことにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(しかし気になるな、アレは)

 

あれから特に変わったことも無く元の場所へ戻ってきたモモンガは、道中で見かけた遠くを動く影の事を考えた。

レベル七に到達するまで、現地の知的生命体との接触は控えると決めたモモンガではあったが、実際に気になるものを目の当たりにしてしまうと、決心が揺らぎそうになる。

 

確かめるべきか、無視するべきか。

草原に座りながら暫く悩みぬいたが、警戒心と好奇心とのせめぎ合いは、好奇心がほんの少し上回る結果となった。

 

(そうだな。 何レベルだったかは忘れたが透明化の魔法を覚えたら、確認できる程度の距離まで近寄って見ることにするか。 接触しないで、ただ見るだけなら……、うーん、しかし危ないかも……)

 

その後もリスクを恐れては何も出来ないと奮起したり、やはり最大限危険は回避すべきかも知れないと警戒心が呼び覚まされたりするが、結局は透明化の呪文の習得を待って偵察を行うことに決定した。

 

モモンガとしては草原という地形と相手からかなり距離をとっての偵察であることから、透明化看破の魔法を使われれば姿が丸見えになってしまう透明化より、隠密効果は透明化より低いが魔法により看破されづらい《カモフラージュ/溶け込み》を使用したいのだが、モモンガの魔法習得リストにその魔法は無い。

 

しかし、ユグドラシルでは《カモフラージュ/溶け込み》のスクロールは店売りされている物の一つだった事を思い出して、モモンガは絶対正義の証を使った。

 

(第一位階魔法のスクロールは百五十金貨、か。 という事は五点分。 レベル五以上、二十以下のモンスターを五体倒せば手に入る点数だが……、この世界の生物を倒すことで点が入るのかも確認できていないしな)

 

絶対正義の証は運営からの通達、そして特殊コンソールから読み取れる情報から考えればユグドラシル内でしか効果を発動出来ない。

 

どうせならば攻撃系のワールドアイテムを持ってくることが出来れば、このような弱いモンスターにも怯える苦労をせずに済んだだろう、とモモンガは心中でため息を吐いた。

 

今日はもう魔力の回復を待つだけであるため、モモンガは暇つぶしにコンソールに店舗の一覧表を呼び出す。

 

(薬品店、道具店、魔法店、書店に……、ああ、役場も利用できるのか。 どんな物が売ってたっけ)

 

興味を引かれたモモンガは役場の項目を押してみた。

 

(クラン設立用書類とか、街中での路上販売許可証とか今は役に立たないものばかり……、ああ、こんなのも売ってたか。 役場なんて最後に利用したのは少なくとも数年前だから忘れていたが、始めたばかりの頃は買うこともあったかな)

 

例え体力は万全であっても、魔法詠唱者はMPが無くては戦うことは出来ない。

モモンガは退屈を堪えながら魔力の回復を待ち続けた。

 

 

 








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