(魚食普及の推進と今後の方向性)
日本人の水産物の消費量は、近年、減少傾向が続いているものの、諸外国との比較では、依然として高い水準にあります。我が国の消費者の中には魚の知識と調理技術に優れ、家庭内で魚を調理して食べる者も比較的多く、世界的に見ても「魚食のレベル」が高いと言えます。
しかしながら、国民のライフスタイルの変化に伴い、消費者の多くが調理の簡便化志向を強め、家庭で日常的に作られていた魚料理が親から子へ伝承されなくなるなど、魚食の伝統も薄れつつあります。このような状況の中で水産物の消費を促進するためには、魚食について消費者の関心を高め、日本人の魚食レベルの維持・底上げを図ることが重要です。
(消費者に魚食のおいしさ、楽しさ、良さを伝える魚食普及活動)
消費者の多くが魚を食べることが健康に良いことを認識し、魚の消費を増やしたいとの意向を有しています。このような潜在的なニーズを実際の消費行動につなげるためには、消費者に魚食のおいしさ、楽しさ、良さを伝え、その理解を促進することが重要です。そのためには、関係者(食文化の継承を推進する民間団体、地方公共団体、農林漁業者・食品関連事業者やその組織する団体など)が連携して行う魚食普及活動が今後とも重要です。
また、幼少期から魚本来の味を楽しむ味覚を養う食育や水産物の栄養特性に関する教育・指導(教育関係者や栄養指導関係者による取組)、学校給食の食材として水産物を提供・販売する取組も引き続き重要です。さらに、水産物の栄養特性、栄養バランスに優れた日本型食生活や水産業に関する幅広い情報を消費者に提供することも重要です。
(消費者の購買行動につながる魚食普及活動の必要性)
食の簡便化志向等が進むなど大多数の消費者の水産物へのニーズが変化してきていることを踏まえ、今後の魚食普及活動における消費者へのアプローチの方法を考えていく必要があります。
魚食普及活動は、魚の栄養特性、魚料理の方法、魚を食べる意義等の知識を消費者に普及するものですが、これを知識だけにとどめることなく、魚の消費に結びつけていくことが求められます。この視点に立って、これまでに各地で実施されてきた魚食普及活動をもう一度見直してみる必要があるものと考えられます。
(ア)水産物に関する最近の消費者ニーズを意識した効果的な訴求方法が採用されているか、(イ)生産者と流通業者が連携するなど、消費者の購買意欲を喚起する形の活動となっているか、等の見直しを行い、各地の魚食普及活動がより効果的なものとなるよう工夫して取り組むことが重要です。
コラム:イカナゴのくぎ煮が家庭に普及した理由

女性部のメンバーが活躍する
福戸市漁協の鮮魚直売イベント
イカナゴのくぎ煮(*1)は、神戸市から東播磨地域にかけての郷土料理であり、イカナゴ漁が最盛期を迎える3〜4月には、多くの家庭でくぎ煮が調理され、辺りに香りが漂うことから、「兵庫の春の風物詩」と呼ばれています。
しかし、イカナゴのくぎ煮を各家庭で作るという習慣は以前からあったものではなく、くぎ煮が家庭に浸透した要因として神戸市漁業協同組合女性部による普及活動の成功が挙げられます。同女性部による普及活動は、平成元(1989)年に始まりました。当時、神戸市漁協に水揚げされたイカナゴのシンコ(全長3〜5cm程度の当歳魚)の出荷先は「釜揚げ」や「チリメン」を製造する加工業者に限られており、加工業者の処理能力を超える水揚げがあった場合には、安い値段で取引されていたことから、イカナゴの新たな需要を創出することが課題となっていました。同女性部では、家庭におけるイカナゴ料理の普及のため様々な調理法を検討し、その中から、簡便性と保存性に優れた、「くぎ煮」を普及活動の主対象に選びました。そして、同女性部メンバーの各家庭に伝わっていたくぎ煮のレシピを研究して統一レシピを確立し、そのレシピを使った「くぎ煮」の講習会を、神戸市、コープ神戸、小中学校や自治会・婦人会等と連携しつつ開催することで、家庭の主婦を中心とする「くぎ煮」のファンを着々と増やしてきました。また、このような活動がメディアに取り上げられたこともあって、春に新鮮なシンコを買って家庭で調理するという、新しいイカナゴの需要を作り出すことに成功しました。
JF神戸市漁協女性部長の井上二三枝さんは、くぎ煮の普及活動が成功した要因として、①イカナゴのシンコという季節限定の前浜物で消費者の関心を刺激したこと、②子供や女性が好んで食べる味だったことを指摘しています。同女性部では、このような経験を踏まえつつ、消費者が購入しやすい前浜物を中心とする魚食普及活動に取り組んでいます。
*1 イカナゴの「シンコ」を醤油、みりん、砂糖、土しょうがで味付けして煮詰めた佃煮。出来上がりの様子が錆びた古釘のように見えること、あるいは、実際に釘を入れて炊いたことから、「くぎ煮」と呼ばれている。
出典:神戸市水産会「神戸いかなごくぎ煮学 認定試験テキスト(平成23年度版)」
(我が国の魚食文化を世界に伝えていくことも大事)
我が国の魚食文化は、その素材の味を生かし、また、素材を余すことなく使用するという点で特徴的です。このような魚食文化を世界に伝えることを通じ、日本産水産物の品質の高さ等について海外の消費者・実需者の認知度を高め、海外市場の開拓に繋げていく取組も重要です。
海外における日本食ブームや世界的な魚介類価格の上昇、さらに平成24(2012)年末以降、為替相場が円安の傾向で推移していることは、日本産水産物の輸出における追い風となっています。
コラム:米国を中心に人気が高まる日本のブリ

「ハマチのカルパッチョ・アボカドソースのせ」
(カナダ・バンクーバーで営業する
レストランのメニュー)
日本産のブリ(ハマチ)は、主にフィレー(三枚おろし)の形で輸出されています。従来は、航空便を使った生鮮品の輸出が多くを占めていましたが、ここ数年間、生鮮フィレーの輸出は減少している一方、冷凍フィレーの輸出が大きく伸びています。平成24(2012)年における冷凍ブリフィレーの輸出は数量で4049トン、金額で58億円となっており、平成20(2008)年に比べ、数量が約4.7倍、金額が約4.3倍となっています(平成24(2012)年における輸出先は米国が数量・金額ともに9割以上)。このようにブリの冷凍フィレーの輸出が伸びている背景には、冷凍品は生鮮品に比べ、鮮度管理が容易であり、かつ、船便で輸送されるため生鮮品よりも安価であるという点が指摘されています。
ブリは、欧米ではほとんど養殖されていない魚ですが、その脂の乗った食感が海外の消費者に好まれています。米国では、主に日本食レストランにおける刺身や寿司のネタとして用いられ、マグロ、サーモンに次いで人気の高い魚だと言われています。このほかにも最近は、カルパッチョやセビーチェ(*1)といった日本食以外の料理の食材として使われるケースも増えてきていると言われています。
*1 生または軽くゆでた魚介類を玉葱、トマト等の野菜とライム(又はレモン)の果汁・塩・香辛料等で和え、味をなじませたもの。ペルーやメキシコ等でよく食べられている料理。