うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

『阪急電車』各駅停車の旅(4) 小林駅の昭和ストリート

そして、娘が一番楽しみにしていた小林駅。

 

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小林と書いて「こばやし」ではなく「おばやし」と読むのはかなりの難読駅名になるのではないか。私も大学の時に下宿を探しに入った不動産屋で初めてこの駅名を聞いた時、なんてへんてこな名前なのかと思い、同時に私の名字がまさに「小林」なので、ここに住んだらネタとしてなんとなく面白いなーと思って、できればこの駅の近くに住みたいと思ったアホ丸出しの記憶がある。「住みやすいとこですよ」と不動産屋にも勧められたのだが、私は国立と私立を併願していたせいで第一志望の国立大にはっきり落ちるまで下宿を探すことができず、そのせいで不動産屋を訪れた時には既に近隣のめぼしい物件はすべて埋まってしまっていて、結局、「今まさに建設中で5月に完成する予定」という仁川のワンルームを予約することになったのであった。

 

娘がこの駅を最も楽しみにしていたのは、『阪急電車』で、小林が「いい駅」として紹介されており、なおかつ周辺の様子が最も詳細に描写されているからだ。改札を出るとアスファルトの道があり、すぐに左に入る小道がある。その奥にスーパーとドラッグストアがある、という描写は本当にその通りで、とりあえず私たちはそのスーパーに入っておやつにパピコを買った。

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小道を抜けるたところで目に入ったのは、新しいきれいな建物だ。エントランスを見ると「宝塚市立西図書館」とある。小説には描写されていないが、わたしも娘も図書館が大好きなので迷わず入る。「床がやわらかいじゅうたんであることが神戸市の図書館との大きな違い」であると娘はいう。貸出カウンターあたりに目立つように貸し出し用の音楽CDがたくさん置かれていて、特に宝塚歌劇シリーズが充実しているのも宝塚らしくてよい。最近父親の影響でクラシックを聴くようになった娘が「いいなー」とうらやましがる。

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図書館で少し涼んだあと、線路の西側にわたってみる。こちらは緑豊かな斜面に沿って、意匠を凝らした住宅が建ち並ぶ品のよい住宅地だ。いきなりの急坂を少しのぼると、足元で小さいものを何か踏みそうになる。雀の巣立ちヒナだ。

 

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まだずいぶん幼いようで、くちばしのまわりの黄色いラインがかわいらしい。頭上で鋭く鳴いているのは、わが子を心配する親鳥だろうか。写真を数枚撮ってその場を離れる。

 

再び線路沿いまで戻ってみると、線路を越えるらしき立体的かつ複雑な構造の古い歩道橋があったので、迷路のようなその道をいく。そして振り出しに戻って改札前。次はヒロインが服を買ったという「4階建ての大きなスーパー」をめざして東に下る。間違いなく私の学生時代からあったイズミヤのことである。

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小林駅周辺はに、いわゆる日本の地方のまちに共通する一般的な古さをたたえた昭和な風景が広がっていて、沿線風景の中ではちょっと異質な空気感がある。その前後の駅はもっと分かりやすく洋風なのに、なんでここだけこんなに飛び地みたいに昭和で和風なんやろか。

 

たとえばこれ。小林の109か? この看板のロゴのセンス!

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しかし、この建物についてはなんとなく記憶がある。仁川のローソンでバイトしてたとき、一度この中の店でスタッフの飲み会をしたことがある。当時はローソンを含むダイエーグループは(特に神戸では)すごく勢いがあって、ホテルもゴルフ場もレジャー施設も大学も持っていた。店舗経営に全然興味なさそうにひょうひょうと店長業をこなしていた50代の社員店長に(その店はフランチャイズではない直営店だったのだ)「就職活動なんかせんと、うちに就職したらええねん。どんな施設でも持っとるから福利厚生ええで」なんて言われたりしていたものだ。今は昔やな……。

 

たとえばこれも。「プレジデント宝塚」って!

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イズミヤでは、ヒロインが服を買って着替えたという2階フロアを2周ぐらいして、さらにヒロインが歩いたという、イズミヤの周囲の道をぐるりと1周して、その間に、ヒロインが見たのとよく似た、住民に大事にされているツバメの巣をいくつか見かけた。また、このわずかな散策の間にも、妊婦さんを何度も見かけた。公園も広いし、保育所も立派だったし、いい感じに空気がゆるいし、確かに「いい駅」って感じがするなーとわたしも思った。

 

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娘は「本に書いてあった通りものがあった! でも頭で想像してたのと全然違うのがすごい」と高揚し、「有川浩はほんまにここに来て、ここを歩いたんやな」と、わたしなんかは「そりゃそうやろー」と思うことをすごく大事なことみたいに反芻して、ぎゅっと握りしめているようだった。

 

(つづく)

 

 

阪急電車 (幻冬舎文庫)

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