高齢ドライバーの運転ミスによる悲劇が後を絶たない。認知症ばかりが事故の原因ではない。社会の著しい高齢化を踏まえれば、運転免許証の更新のハードルをもっと引き上げるべきではないか。
神奈川県茅ケ崎市で先週、九十歳の女性が運転する車が交差点を横断中の四人をはね、死傷させる事故があった。警察の調べに「赤信号と分かっていたが、歩行者は渡り始めておらず、通過できると思った」との旨を述べたという。
長年の運転経験から過信や慢心が生じ、自らの反応力の衰えに無自覚だったのではないか。あるいは、気づきながら高をくくっていなかったか。
七十五歳以上の運転者は、三年ごとの免許更新時などに認知機能検査を義務づけられ、認知症と診断されると、免許の取り消しや停止の処分になる。この女性は昨年十二月に検査を無事にパスし、今年三月に免許を更新していた。
一月に前橋市で、自転車の女子高校生二人を車ではねて死傷させた八十五歳の男性も、認知機能検査を経て免許を更新したばかりだった。低血圧による意識障害が原因とされ、医師の注意に背いて運転していたという。
五月には、二年前に東京都立川市の病院で車を暴走させ、二人をはねて死なせた八十五歳の女性に禁錮二年の実刑判決が出た。認知機能の衰えはなく、アクセルとブレーキの踏み間違えという操作ミスが厳しく断罪された。
高齢ドライバーの事故を防ぐには、認知症かどうかを見極めるだけでは足りない。運転技能をチェックする仕組みを強化すべきだ。
更新時などの手続きでは認知機能検査と併せ、高齢者講習が義務づけられる。質疑応答を交えた講義、視野や夜間視力、動体視力をみる運転適性検査、実際に車を運転させたり、その記録映像を用いたりしての安全指導が行われる。
だが、受講すれば更新が認められる仕組みなので、かねて実効性を疑問視する声がある。もはや実車試験を課してハードルを引き上げるべきだろう。
同時に、自動ブレーキや加速抑制装置を備えた車のみを、特定の地域と時間に限り運転できるといった条件付き免許の導入を急ぎたい。
もちろん、免許証の自主返納は効果的といえるが、殊に公共交通網が発達していない地方では、手厚い移動支援が欠かせない。高齢ドライバーを事故の加害者にしない社会へ向け、官民で知恵を絞らねばならない。
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