森友文書改ざん問題で財務省が公表した調査報告や処分は耳を疑う。国会や国民を欺き、民主主義の根幹を揺るがす行為を一部官僚の主導と矮小(わいしょう)化して幕引きを図る。どこまで国民を愚弄(ぐろう)するのか。
「当時理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官が『政治家名が記載された文書を外に出すべきでない』と発言し改ざんを主導した」
「安倍晋三首相が夫妻の関与を全面否定した国会答弁を契機に、森友側との交渉記録を廃棄した」-報告書の要点をまとめると、こんなところなのである。
先月二十三日に国会へ交渉記録を提出した際の説明から新たな事実はないといっていい。抜け落ちていた「二〇一四年四月二十八日」の記録(安倍昭恵氏が「いい土地だから進めてください」と言ったとされる)など真相は結局、やぶの中のままだ。
安倍首相は先月、国会で改ざんや廃棄は自身の答弁と無関係だと説明しており、この点は今後国会の焦点になり得るだろう。
ただ、国民に知らせるべきは、国民共有の財産である国有地がなぜ八億円も値引きされたかの真相である。昭恵氏の存在や、籠池泰典前理事長が「神風が吹いた」と形容したものは何かなどの疑問は解消されていない。
そもそも国会審議を停滞させないためだとして一官僚の判断で公文書を改ざんするだろうか。逆にいえば、そんな官僚を高い倫理観が求められる国税庁トップに据えて「適材適所の人事だ」と言っていたのは誰だったか。麻生太郎財務相であり、安倍首相である。
処分も、佐川氏を最も重い停職三カ月相当として退職金を減額するが、麻生財務相の続投はどうしても理解できない。改ざんに関わり自ら命を絶った近畿財務局職員の無念は一体何だったのか。
一九九八年の旧大蔵省接待汚職では三塚博蔵相が引責辞任した。官僚ら七人が有罪となった刑事事件と単純に比較はできないが、ことは公文書という行政の手続きを検証するための貴重な史料を改ざんしたのである。
さらに虚偽答弁により一年以上にわたって国会や国民を騙(だま)し続けた。民主主義を歪(ゆが)め、その罪深さは一年分の閣僚給与(約百七十万円)返上で済む話ではあるまい。
麻生財務相は「私のリーダーシップの下、信頼回復に努める」というが、どれだけの国民が納得するだろうか。これでは「ウミを出し切る」という安倍首相の言葉も空(むな)しく響くばかりである。
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