森友学園への国有地売却を巡る決裁文書改ざんで、佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官ら関係者を大阪地検が不起訴とした。刑事責任追及は見送られるとしても、これで問題の幕引きとすることは許されぬ。
財務省は、国有地の大幅な値引き売却が明らかになった昨年二月以降、十四件の決裁文書で改ざんが行われたことを認めている。
当時、理財局長だった佐川氏の国会答弁と整合性を取るためだったとされ、安倍昭恵首相夫人や複数の政治家に関する記述、学園側との取引を巡る「特例的な内容」「本件の特殊性」といった文言が削除されていた。
虚偽公文書作成などの罪を問うには文書の趣旨が大幅に変わったとの裏付けが必要になるが、検察は、根幹部分が変わったとはいえないと判断したという。
近畿財務局の担当者らが告発された八億円余の値引きを巡る背任容疑についても、国に損害を与える意図は認められないとして不起訴とした。
その結果、一連の森友学園問題では国側の刑事責任が問われずに捜査が終結することになるが、捜査の過程で浮き彫りになった行政のゆがみを考えれば、当然のことながら、不起訴だから問題なし、と片付けることはできまい。告発していた弁護士グループらも、不起訴処分を不服として検察審査会に申し立てを行う見通しだ。
政府は、いわば官僚の不始末として改ざん問題などの幕引きを図る構えで、財務省は週明けにも調査結果を公表して佐川氏や関係職員を処分する方針という。
しかしながら、公文書の改ざんは、言うまでもなく民主主義の根幹を揺るがす暴挙である。そうした暴挙がなぜ起きたのか、という最も大事な問題をうやむやにしたままでよいのか。
麻生太郎財務相は、文書の改ざんは、佐川氏のこれまでの国会答弁と齟齬(そご)がないようにするためだったと説明している。佐川氏は、国会での三月の証人喚問では「刑事訴追の恐れがある」を連発して証言を拒み、真相は何も語らなかった。
佐川氏はなぜ、国会で虚偽答弁をしなければならなかったのか。
政治主導をうたい、官僚の人事を内閣人事局が握っている以上、公文書への信用を根底から覆した改ざん問題の責任を財務省だけに押しつけるわけにはいくまい。
検察には検察の、政治には政治の責任がある。「なぜ」の解明なしに、信頼回復はありえまい。
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