米国のイラン核合意からの離脱に対し、欧州は合意を守り抜く決意を表明し米国とたもとを分かった。欧州企業への制裁も懸念される。価値観がずれてしまった同盟国と、どう関係を築き直すのか。
米トランプ政権は、オバマ前政権時代の国際合意を覆し続けてきた。ただ、地球温暖化防止のための枠組み「パリ協定」からの離脱は、カリフォルニアなど米国の多くの自治体が協定履行を支持し、実害はさほど多くはない。
これに対し、イラン核合意からの離脱は、欧州と距離的に近い中東の安全保障に直結する。米国はイランと対立するイスラエル、サウジアラビアに肩入れし、中東の力関係を不安定化させている。
離脱で米国は対イラン制裁を再発動する。イランと取引がある第三国の企業も制裁対象としているため欧州の企業をも直撃し、米欧関係に決定的な影響を及ぼす。
米英仏独ロ中がイランと三年前に結んだ核合意では、弾道ミサイル開発規制が含まれていないなどの不備も指摘され、離脱決定を支持する意見もある。
しかし、イランとの交渉に関わったドイツのフィッシャー元外相はシュピーゲル誌とのインタビューで「最大の脅威になりかねない核開発問題に集中した。イランを平和的な方法で取り込むことが目的だった」と説明している。核兵器開発疑惑のあったイランとの緊張を緩和し、国際社会との対話の席に着かせた点で、大きな意義のあった合意と評価すべきだろう。
欧州連合(EU)は今月の首脳会議で、米国抜きの合意堅持を確認した。EUのトゥスク大統領はトランプ米政権を「気まぐれ」と批判し、米国頼みという「幻想」は捨てるべきだと、強い言葉で米離れを宣言した。
マクロン仏大統領、メルケル独首相は今月、相次いでロシアのプーチン大統領と会談、メルケル氏はさらに中国の李克強首相とも会談し、核合意支持で一致した。しかし、覇権主義的な中ロへの接近には懸念も残る。
EUは欧州企業が米国の制裁対象になった場合の保護策や、イランでの事業への融資などを検討するが、実効性は不透明だ。この危機に結束を取り戻し、さらなる知恵を生み出してほしい。
北朝鮮問題も米国に振り回されている。トランプ氏に対する日本の楽観主義は、突出しているとの指摘もある。欧州の悪戦苦闘は対岸の火事ではない。
この記事を印刷する