地方は医師不足が深刻だ。都市部などに医師が集まる偏在が問題となっている。その対策を盛り込んだ医療法などの改正案が国会で審議されている。対策を担う主役となる都道府県の責任は重い。
医療は生活に不可欠だ。医師はそれを支える重要な存在であり、医師がいなくて必要な医療が受けられなければ地域は成り立たなくなる。地方ではその問題に直面している。
医師は約三十二万人いる。大学医学部定員枠を広げてきたことで増えてきた。これからの人口減社会を考えると医師数を増やすことには限界がある。
問題は、専門的な医療に携われる都市部に集中していることだ。地方間にも偏在はある。都道府県別の人口十万人当たりの医師数は最多の徳島県や京都府と最少の埼玉県では二倍の開きがある。同じ県内でも地域で違う。診療科も産科、外科が少ないなど偏りがある。
実は医師の四割が地方で働く意思がある。二十代では六割になる。大学医学部の入学者で地元出身者は卒業後もその地域への定着率は高い。一方で、労働環境やキャリア形成への不安が定着を阻んでいる。こうした不安を取り除き、地方勤務に魅力を感じられたら地域で働く医師を増やせる。
厚生労働省の解消策は、国がデータを基に偏在の「見える化」をする。都道府県がそれを活用し「医師確保計画」を作る。それに基づき地域の大学医学部に対し、地元出身者の入学枠や、地域で一定期間働くことを条件に入学できる「地域枠」の設定を要請できる。卒業後の研修先を決める権限も国から都道府県に移す。
偏在解消の役割を都道府県に託すことで対策を進めることを狙う。地方が権限を持ち主体的に取り組むことは当然である。
自治体の力量が問われるが、人材育成など課題が残る。医療関係者との協議での調整力を持ち、県域を超えた連携などを実現する人材が不可欠になる。都道府県はその責任の重さを自覚してほしい。人材確保に国も支援すべきだ。
医師が働きやすい環境整備も求められる。働き過ぎ防止のための交代派遣や周囲の医師の相談支援、出産・育児などへ配慮した勤務形態の実現などにも取り組む。こうした支援も都道府県の役割は大きい。個々の医師のニーズに応える目配りが必要だ。
医療関係者も地域医療に責任を持っている。その魅力を若い医師に伝える努力をしてほしい。
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