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【社説】

米輸入車関税 問われる安倍経済外交

 トランプ米大統領が輸入車関税引き上げの検討を指示した。貿易ルールを壊しかねない保護主義策は認められない。日本経済を支える自動車での揺さぶりに安倍政権は腰を据えた対応が必要だ。

 秋の中間選挙を控え、支持層へのアピールの側面も強いのだろう。米国の乗用車市場一千七百万台の四割超を占めている日本やドイツ、メキシコなどとの二国間交渉を有利に進める材料にしようというトランプ流の狙いもはっきりしている。

 鉄鋼・アルミの輸入規制や中国との経済交渉のように駆け引きを繰り返し、貿易戦争にはつながらない妥協点、落としどころを探ることになるのかもしれない。

 ただ、自動車の輸入、自動車産業の弱体化が米国の安全保障を脅かすという検討理由は、世界貿易機関(WTO)のルール違反の疑いが強い。交渉材料として使うだけでも批判は免れない。

 自動車は日本の最重要産業のひとつ。米国には高級車を中心に年間百七十万台を輸出し、多くの関連企業、雇用を抱えている。

 関税が引き上げられれば影響は深刻で、経済の土台を揺るがしかねない。危機感は官房長官や経済産業相のこれまでにない強い調子の米国批判が示している。

 戦後の日米の経済関係は、日本が安全保障で事実上、米国の庇護(ひご)の下にある中で展開されてきた。日本が経済力で台頭した一九八〇年代から九〇年代にかけての深刻な経済摩擦、八五年の大胆な為替協調であるプラザ合意など、その後の日本経済に大きな影響を残した交渉、政策協調も安保体制が前提になっている。

 その一方で、米国が主導する関税貿易一般協定(ガット)やWTO体制の下、米国という自由で開かれた市場で日本も大きな利益を得てきた。

 しかし米国第一主義の大統領はWTO体制そのものを批判し、安倍晋三首相が米国の復帰を待つ環太平洋連携協定(TPP)にも関心を示さない。狙いは日本との二国間交渉である自由貿易協定(FTA)での米国の利益にあり、交渉に安保をからめてくるのではないかとの指摘もある。

 トランプ大統領と安倍首相の個人的な信頼関係が良好というのであれば、日米の妥協点は見つかるはずだ。

 安倍政権には対米貿易黒字を減らす具体策とともに、欧州との連携を強化する新たな経済外交の展開が求められている。

 

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