学術、産業分野に新境地をもたらすポテンシャル CMOSセンサー
キヤノンは、民生用のデジタルカメラ用途とは別に、超高感度CMOSセンサーや超高解像度CMOSセンサーを開発。学術分野や産業分野で新たな可能性を掘り起こしています。
世界最大・超高感度のCMOSセンサー
デジタルのカメラやビデオで撮影する際には、一定の光量が必要であり、不足すれば、感度不足となり撮影することはできません。
キヤノンは、撮像素子の感度のさらなる向上を追求するなかで、素子の高感度化と大型化を高速読み出し性能を保ったまま実現することにチャレンジし、約20cm角という世界最大級のCMOSセンサーの開発に成功しました。現在、CMOSセンサーに加工されるウエハーの直径は12インチ(約30cm)が標準です。20cm角はそこから製造できる最大サイズであり、35mmフルサイズのCMOSセンサーの約40倍に相当する大きさとなります。
CMOSセンサーの大型化には、光から変換された電気信号の伝送遅延や歪みという難題が伴います。キヤノンは並列処理回路に加え、伝送方法自体にも工夫を凝らすことでこれを解決。その結果、わずか0.3ルクス(満月程度の明るさ)の照度で1秒60コマの動画を撮影することを可能にしました。
この超高感度CMOSセンサーの用途としては、夜間の天体や動物、オーロラの動画撮影、夜間監視カメラなどが考えられます。
東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所にある口径105cmのシュミット望遠鏡に、この超高感度CMOSセンサーを搭載して撮影したところ、これまでは写らなかった、10等級相当の暗い流星を世界で初めて動画撮影することに成功しました。その結果、今まで推定で求められていた微光流星の発生頻度が理論値通りであると実証されることとなりました。流星の観測記録・解析が従来よりも詳細になされることで、今後は流星が地球と生命の進化に及ぼしてきた影響について理解が進むことが期待されています。
1億2,000万画素の超高解像度CMOSセンサー
一方で、キヤノンは長年、CMOSセンサーの画素サイズの小型化にも取り組んできました。その技術は、画素サイズ2.2μm角、総画素数が約1億2,000万という驚異的なレベルに達しています。開発に成功したCMOSセンサーの撮像画面はAPS-Hサイズ(約29×20mm)で、同サイズの既存製品搭載センサーに比べ、約7.5倍の画素数と2.6倍の解像度を持っています。
このCMOSセンサーは、多数の画素を高速に読み出すために並列処理を行いますが、読み出し回路のタイミング制御方法を工夫することで、大規模なセンサー信号を高速に読み出すことに成功しました。その結果、超高精細画像でありながら、1秒間に最高約9.5コマのスピードで連続撮影することもできるようになりました。
この高解像度CMOSセンサーを使えば、フレーム全体に微細な画像がとらえられているため、一部分をトリミングして拡大しても鮮明な画像が得られます。したがって、産業分野での用途は幅広く、大判プリントのポスター撮影用カメラを始めとして、精密部品の画像検査装置用カメラや航空宇宙カメラ、全方位ビジョン撮影カメラなどさまざまな応用が考えられています。
1億2,000万画素という高解像度が、従来にはなかった産業シーンを生み出す日も近いかもしれません。