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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

米国、強制不妊手術の優生保護政策を国を挙げて発展させた「暗黒の歴史」

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 米独の学者間の交流も活発だった。前述した米国のダベンポートは戦前から戦中にかけ、ナチスドイツのさまざまな研究所や出版物と関係があった。米国の学者たちから助言を受けたナチスの優生学者は、ユダヤ人をはじめとする「劣等民族」に対するヒトラーの弾圧に手を貸し、強制不妊手術や安楽死、大量虐殺に関与していく。

ナチスの動きを称賛した米国


 こうしたドイツの動きを米国の優生学者は少なくとも当初、批判しなかったどころか、むしろ称賛した。カリフォルニア州ではナチスの宣伝文書を再配布し、研究結果を展示さえした。ドイツで不妊手術が月間5000人を超えた1934年、バージニア州のある病院長は「ドイツにお株を奪われそうだ」と嘆いた。

 1940年、ナチスがガス室で多数の障害者を殺害し始めたときでさえ、米優生学協会の幹部は「米国が煮え切らないのに、ドイツは白黒はっきりさせている」と言い放った。

 ジャーナリストのアダム・コーエンによると、戦後ナチスの指導者たちが裁かれたニュルンベルク裁判で、あるナチスの幹部は前述したホームズ判事の判決文を引用し、自己弁護した。優生保護を最初に合法としたのは米国の最高裁であるにもかかわらず、なぜ自分たちだけが罪を問われるのかと抗弁したのである。

 ナチスの残虐行為が広く知れわたるとともに米国で優生学は支持を失うが、その一方で、州によっては1970年代頃まで断種法は存続し、それに基づく強制不妊手術も行われていた。

 優生学がナチスの生んだ特殊な思想だと誤解したままでは、今の日本には縁のない問題だと軽くとらえてしまうだろう。しかし実際にはその根は深い。20世紀初めの米国のように、社会を守るという大義名分の下、日本や世界が再び優生学の熱に浮かされない保証はない。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

<参考文献>
Black, Edwin. War Against the Weak: Eugenics and America's Campaign to Create a Master Race
Cohen, Adam. Imbeciles: The Supreme Court, American Eugenics, and the Sterilization of Carrie Buck

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