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ソフトバンクグループがユニー・ファミマHDの買収を提案していたことがわかった。孫正義氏が直接乗り出したが、筆頭株主の伊藤忠商事に断られた。幻となったソフトバンクのコンビニ進出。その狙いは購買データにあった。

写真 購買データの獲得を狙う3者
ファミマを巡る争奪戦があった
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 ソフトバンクがコンビニ進出に意欲を見せていたことが日経コンピュータの取材で判明した。

 2017年12月20日、東京都港区にある伊藤忠商事の東京本社にソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の姿があった。お忍び訪問の相手は伊藤忠の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)だ。

 孫氏は岡藤氏にユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)の共同買収を提案したという。具体的には筆頭株主の伊藤忠と共同でユニー・ファミマHDにTOB(株式公開買い付け)を仕掛ける内容だ。

 結果的に岡藤氏は孫氏の提案に応じなかった。ユニー・ファミマHDの株式を手放すどころか、買い増す決断を下した。お忍び会談から約4カ月後の4月19日、伊藤忠はユニー・ファミマHDの子会社化を発表。約1200億円を投じて2018年8月ごろにTOBを実施し、ユニー・ファミマHDへの出資比率を41.45%から50.1%に引き上げると決めた。

 岡藤氏はユニー・ファミマHDの子会社化について、2018年5月2日に開いた決算説明会で次のように説明していた。「きっかけは去年、ある人から『一緒にファミリーマートを子会社化しないか』という提案があったことだ」。ある人の正体はソフトバンクの孫氏だったようだ。

 「セブン&アイ・ホールディングスの時価総額は4兆2000億円~4兆3000億円あり、50%買おうと思ったら大変な金額になる。ローソンはすでに三菱商事さんの子会社。時価総額が1兆円くらいのファミリーマートはみんなが狙っている」。こう危機感を募らせた岡藤氏は、ユニー・ファミマHDの子会社化を決断した。

コンビニは購買データの創出源

 ソフトバンクはなぜユニー・ファミマHDを手に入れたかったのか。そして伊藤忠はなぜそれを拒んだのか。疑問を解決するカギは共通ポイントを巡る熾烈な競争にある。言い換えると購買データの争奪戦だ。

 ソフトバンクとヤフー、ファミマはともに、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が展開する「Tポイント」に加盟する。ソフトバンクの携帯電話を使うとTポイントがたまるほか、ソフトバンクの子会社であるヤフーのEC(電子商取引)サイトでもTポイントをためられる。

 ソフトバンクとヤフー、ファミマは単なる加盟会社ではなく、Tポイントの運営会社の株主でもある。つまりCCCとTポイント陣営を率いる中心メンバーだ。仮にソフトバンクがユニー・ファミマHDの経営に参画していたら、Tポイントを軸に両社のデータベースマーケティングを融合していた可能性が高い。

 IT企業からすれば喉から手が出るほど欲しい、リアル店舗を抱える小売店の購買データ。ソフトバンクの狙いはここにあった。

 ソフトバンクはサウジアラビアの政府系ファンドなどと組んで10兆円規模の投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を運営し、世界のITベンチャーに出資を重ねている。2016年にはIoT(インターネット・オブ・シングズ)の時代を見据え、英半導体設計大手のアーム・ホールディングスを約3兆3000億円で買収した。

 孫氏は2018年5月9日の決算説明会で「AIとIoT、スマートロボティクスが一番関心のあるところ」と述べた。投資先は海外企業が中心である。その孫氏が国内の、しかも成熟産業といえるコンビニに手を伸ばすのは一見すると違和感がある。

 だがコンビニを小売業ではなく購買データの創出源とみなせば、話は違ってくる。米ウーバーテクノロジーズや中国の滴滴出行など世界のライドシェア大手に出資して人々の移動データの創出源を握るのと同じ理屈が成り立つからだ。