クベルカ‐ムンク関数の導出
科学実験の解析にしばしば用いられる関数の一つにクベルカ‐ムンク関数がある.この関数は,物質の反射率を,物質固有の吸収の指標となる値(吸収係数/散乱係数)に変換する関数であって,以下のような関係式で表される.
(Kubelka
and Munk, 1931)
は物質の層の厚さを無限大と仮定した時の反射率,
は吸収係数,
は散乱係数である.
本来,粉末試料は吸収を直接測定するのが難しいものであるが,この関数を用いることで,反射率の測定から間接的に粉末試料の吸収を議論できるようになる.そのため,鉄の酸化物の定量等にこの関数を利用した研究がいくつか報告されている(Nagao et al., 1992; Nagano and Nakashima, 1989 など).
しかし,クベルカ‐ムンク理論には多くの仮定が含まれているため,この関数を利用する際にはその成り立ちをよく理解しておくことが必要である.そこで,これからクベルカ‐ムンク関数を勉強する人に役立ててもらえるよう,以下にその導出過程を解説した.
まず,クベルカ‐ムンク関数を導出するための仮定を導入する.
ある平らな土台の上に粉末試料の層が広がっているものを考える.この層をより薄い単位層の積み重なりと考え,単位層の吸収や散乱の特性が試料粒子の特性に依存していると仮定する(図1).単位層の厚さは,層全体の厚さ
と比べると十分小さく,また試料粒子の粒径よりは十分大きいと考える.単位層の位置
は土台に接する面を基準(
)とし,層最表面では
である.さらに,ある単位層に上面から下向きに入射する光束を
とし,下面から上向きに入射する光束を
とする.
図1. イメージ図
まず,一つの単位層における,
の変化量
,
を求める.単位層上面から下向きに入射した光束
は,厚さ
の層を通り抜ける間に
だけ吸収される,と同時に
は層中で散乱され,進行方向が上向きになる.上向きの成分は光の上向き成分
に加えられる.ここで,
を吸収係数,
を散乱係数と呼ぶことにする(一般に用いられている吸収係数、散乱係数とは性質の異なることに注意).一方,単位層の下面から上向きに入射した光束
は,
と同様に層中で
だけ吸収され,
は散乱されて下向きになる.これらを式にまとめると以下のように表すことができる.
(1)
(2)
の前に負符号がついているのは,
の進行方向が
の増加方向と逆であるためである.
この2式より,反射率と吸収及び散乱係数の関係を導くことができる.以下、式変形の過程を記す.
(1),(2)式の両辺をそれぞれ,
で割ると,
(1)’
(2)’
となる.(1)’,(2)’式の両辺をそれぞれ加えると,
(3)
となり,単位層での反射率を
として(3)式の左・右辺それぞれを変形すると,
これらをまとめると以下の式になる.
(4)
次に(4)式を変形して変数分離形にする.
(5)
ここで,
とおいて,(5)式の両辺に積分を施す.
(6)
ここに現れるは試料層最表面
における反射率
,
は試料と土台との境界
における反射率である.
これから(6)式左辺を変形していく.まずはここに現れる分母を因数分解する.
とおくと,
という解が得られるので,
となり,(6)式は変形されて以下のようになる.
(7)
次に,
(8)
という分解を考える.
(9)
ここで,(8)式が(7)式の全積分領域において成り立たなければならないことを考慮すると,(9)式はの恒等式であることが必要となる.(9)式の両辺において
の係数を比較すると,
この連立方程式を解くと,
となる.これを(7)式に代入すると,
(10)
簡単のため,着色剤層の厚さが無限大という特別な場合を考える.このときの試料最表面での反射率を
とする.また,試料と土台との境界での反射率
は
と考えることができる.ゆえに,
(11)
試料厚さより,(11)式右辺は無限大となる.等号が成り立つには左辺ln内の分母がゼロでなければならない.
(12)
これで,試料層厚さ無限大のときの反射率と,試料の吸収係数
及び散乱係数
が関係付けられた.
さらに (12)式を変形していくと,
となり,これで冒頭に示したクベルカ‐ムンク関数が導かれた.
参考文献
Kubelka, P. and Munk, F. (1931) Z. Tech. Phys. 12, 593.
Nagano, S., and Nakashima, S. (1989) Study of colors and degrees of weathering of granitic rocks by visible diffuse reflectance spectroscopy: Geochem. J. 23, 75-83.
Nagano, T., Nakashima, S., Nakayama, S., Osada, S. and Senoo, M. (1992) Color variations associated with rapid formation of goethite from proto-ferrihydrite at pH 13 and 40℃: Clays and Cray Minerals, 40, 600-607.
http://www.ppfrs.org.uk/ianson/paper_physics/Kubelka-Munk.html