「法律違反だが犯罪ではない」が成立する中国

「1円盗んでも罪は罪」の日本人には飲み込みにくい

2018年6月19日(火)

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 「スジ」の日本、「量」の中国という切り口の連載も5回目、今回は少し違った角度から話をしたい。

 連載の初回で「こういう“スジか、量か”という基本的な判断基準の違いは、現実社会のあらゆるところに影響している。やや大げさに言えば、国家や社会の成り立ちそのものを規定しているとさえ言ってもいい」と書いた。

 そういう視点から今回は中国の法律にからむ話をする。いわば「量と法律」である。

 端的に言えば、日本社会は「スジ」を基準にものごとの判断をするので、「何が犯罪か」は明確だ。法律に違反することは即、犯罪である。
 一方、中国は?

 「え、ということはまさか」と思うかもしれないが、「量」を基準に判断をする傾向が強い社会なので、「犯罪であるか、ないか」は犯した行為の「量=大きさ」に影響を受ける。

 わかりやすく言ってしまうと、中国社会では「法律に違反しているが、社会的影響が大きくない」ことは「犯罪」ではない――という考え方をするのだ。

 例えば、中国で少額のお金を盗むのはもちろん社会通念として悪いことであるし、違法行為だが、それを刑法の論理では「犯罪」とは見なさない。一定以上のお金を盗んで初めて「犯罪」になる。

 普通の日本人が聞いたら、まさしく「えっ」と思うような話だと思う。が、本当である。これは私が言っているわけではなく、中国の刑法学者の皆さんが言っていることだから間違いない。

 スジと量の違いが、お互いに最も飲み込みにくい部分かもしれない。
 本日はこのへんの話をしたいと思う。

「たいした金額でなければ警察は来ない」

 刑法学が専門の一橋大学法学研究科、王雲海教授(法学博士)の著書の中に興味深い一節がある。王教授は中国と日本の刑法に精通し、その政治的、文化的背景を深く理解している研究者である。著書の一部を引用する(太字化は筆者)。

 中国へ旅行して泥棒に遭い、相手を現行犯として捕まえて警察に通報したら、どのような反応が返って来るであろうか。「すぐ行きます」と答えて、警察が犯人を逮捕してくれると思う人が多いであろうが、実はそうではない。

 多くの場合、警察は、どれくらい盗まれたのかをまず聞くのである。貴重品や高額な金であれば、警察は飛んで来て犯人を逮捕してくれるかもしれないが、大した金額でなければ警察は普通来ないし、来ても犯人を逮捕してくれない。こうした対応は、中国の警察が責任感が薄く、厳粛な法執行を行わないからではない。中国における犯罪と刑罰の特徴やパターンから来る、ごく自然な対応なのである。

「日本の刑罰は重いか軽いか 」(集英社新書) 174ページ

 盗んだことが明らかでも、金額が少ないと警察は来ないという。なぜこのような対応になるのか。

 その根底には「量」を基準にものごとを判断する傾向がある中国社会の発想がある。「犯罪であるか、ないか」自体を決めるのに、「出来事の大きさ」が大きく影響するのである。

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「「法律違反だが犯罪ではない」が成立する中国」の著者

田中 信彦

田中 信彦(たなか・のぶひこ)

BHCCパートナー

90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で働く。リクルート、大手カジュアルウェアチェーンの中国事業などに参画。上海と東京を拠点にコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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