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五感が呼び覚まされる「感覚ミュージアム」。体験型展示で感性を磨いて想像力を高めよう

2018.06.13

全国的にも有名な鳴子温泉がある宮城県大崎市。その岩出山地区にあるのが、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感をテーマにした全国でも珍しい美術館「感覚ミュージアム」です。「見る」「聞く」「触れる」「嗅ぐ」といった体験型の展示を通して、日常生活で衰えがちな五感が刺激される感覚を味わうことができます。

五感を揺さぶり瞑想の世界へいざなう展示の数々

東北自動車道・古川ICから車で約15分、鉄道では東北新幹線・古川駅からJR陸羽東線に乗り換え岩出山駅で降り、徒歩約7分。病院や保育所、老人福祉施設などで構成され、地域の子どもたちからお年寄りまでが集う「あったか村」の中心に「感覚ミュージアム」はあります。
▲東京藝術大学名誉教授の六角鬼丈(ろっかくきじょう)氏が手掛けた建物は、建築作品としても有名。建築を学ぶ学生も全国から足を運びます

「あったか村」に集う子どもからお年寄りまで、あらゆる世代の人たちに体験を通して楽しみながら想像力を高めてもらおうと2000年にオープン。見る・聞く・触れる・嗅ぐといった体験により、感覚を意識することのできる作品が多数展示されています。
▲視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を表す同館のロゴマーク

館内は、主に3つのゾーンで構成されています。一つは、体を動かして作品を体験することで、その作品を手掛けた制作者と仮想的な対話をする「ダイアローグゾーン(身体感覚空間)」。もう一つは、光や香り、音を感じる展示を通して想像力を膨らませ、瞑想(めいそう)の世界を体験する「モノローグゾーン(瞑想空間)」。そして、その2つの空間をつなぐ「トラバースゾーン」です。
▲館内受付兼ミュージアムショップ。同館オリジナルグッズや五感に訴えかける商品を取りそろえています

さっそく受付で入館料(大人500円、高校生300円、小・中学生250円 全て税込)を支払い、入館してみましょう。

体を動かし制作者との対話を楽しむ「ダイアローグゾーン」

まず目に入るのは、受付と同じスペースにある2つの作品。これらは入館料を支払わなくても自由に見学することができます。手前にあるのは、木や竹、パイプなど身の回りにある素材で作られた巨大な「創作楽器」。
▲ばちや手でたたいたり、指ではじいたりすることで、さまざまな音が奏でられます

思い付くまま演奏していたら、ほかの来館者さんの音も混ざって、まるでセッションのように。音を通したコミュニケーションが生まれました。
▲巨大な創作楽器。その奥には、直径3.2mの円形の作品が

「創作楽器」の近くにある大きな車輪状の作品は「サークル・ン・サークル」。台の上にあおむけになり、自転車をこぐように手と足でペダルを動かすことで、壁面に接したチョークが動き、一筆書きで線を描ける仕掛けです。いわば「人力落書きマシーン」。思い通りに手足が動かずもどかしさを感じます。
▲手と足のペダルを操作して一筆書き

ダイアローグゾーンにあるもう一つの展示は「スペースアンドサウンド」。真っ暗な室内に目では見えない3次元のヴァーチャル空間が作り出され、その空間の形を立体音響で感じることができます。
▲目で見ることはできず、耳で感じるヴァーチャル空間。展示空間の壁にあるディスプレーに空間の状態が表示されます

体験者の手の位置と音の発生場所がリンクしていて、手の動きに合わせて音が移動します。例えば、体験者が両手をVサインにするとヴァーチャル空間の形が変化し、その形に合わせて音の移動できる範囲が広がったり狭くなったりします。

▲作品名「dqpb ver.6」(doubleNegatives Architecture・作)

楽器を演奏したり、ペダルをこいだり、手を動かしたりと、全身を使って作品を体験することで、作品に込められた制作者の思いを感じられる「ダイアローグゾーン」でした。

闇と光の世界が交互に現れる「トラバースゾーン」

続いて、「ダイアローグゾーン」と「モノローグゾーン」をつなぐ「トラバースゾーン」へ。最初の展示は、何も見えない真っ暗な空間「闇の森」。左側にある手すりを頼りに進みながら壁にある穴に手を入れ、中にあるオブジェを触って楽しむという展示です。
▲曲がりくねった手すりをつたって暗闇の中を歩いていきます

暗闇にやっと目が慣れてきた頃には展示が終了に近づき、突如まばゆい世界が目の前に現れます!こちらは、壁と床が鏡張りで天井がガラス張りになった作品「エアートラバース」。まばゆい太陽の光が差し込み、360度に空の青が映り込んだ世界で空中を歩いているような浮遊感を体験できます。
▲作品の中に空の様子が映り込み、その内部を移動すると、万華鏡を回転させているようにゆっくりと光景が変わります

家族連れなど人数が多ければ多いほど、それぞれが着ている服の色や模様も鏡に映ってより華やかな空間に変化します。
▲天候や体験者の人数、服装によってその時だけの光景が広がるのも魅力

「エアートラバース」のまぶしい光の空間を抜けると再び闇の中。そこに展示されているのは、エアクッションのような感触のオブジェが壁に並んだ「fuwa pica」。手のひらで押すと、押した強さによって光る範囲が変わる仕組みです。
▲押したところが白く光り、その左右に青い光が伸びていきます

同じ空間には丸くて大きな作品も展示されており、こちらは光の色が青から緑に変化する仕組み。押したり、座ったりして光で遊びましょう。
▲床に置かれた大きな作品を押したところ、青から緑に変化しました

次に展示されているのが、来館者からの人気が特に高いという「ライト3Dスカルプチャー」。横240cm×縦120cmの壁面に、無数のピンが格子状に埋め尽くされた作品です。この作品の裏面から体を押し当てると、押されたピンの先端が光って立体的に姿が浮かび上がる仕組み。実は無数のピンには光ファイバーが内蔵されていて、押し出されたときだけ光るようになっているのです。
▲魚拓ならぬ光の人拓といったところでしょうか
▲背面から押した人の姿形が光で浮かび上がります。体を押し当てるときの感触は、沈み込んでいくような感じ

闇と光の「トラバースゾーン」はここで終了。続いて「モノローグゾーン」へと進みます。

光と音と香りで瞑想に引き込まれる「モノローグゾーン」

「モノローグゾーン」の最初の展示は「ウォールスルー」。側面の鏡を見ると黒い壁が通路の途中にあるように見え、まるでその壁をすり抜けているような不思議な感覚を味わうことができます。
▲横から展示を見ると、通行人が黒い壁をすり抜ける様子がよく分かります

その先に現れるのが、床一面に白砂利が敷き詰められた「アースガーデン」。階段に座って床を見下ろすと、架空の建物の影が映し出される様子を見ることができます。架空の太陽の軌跡に合わせて建物の影が姿を変えていく様子からは、太陽の動きとともに移ろいゆく時間を感じることができます。
▲影の変化で空間のひろがりや時間の経過を感じることができます

「アースガーデン」をゆっくり堪能したら、もう一つの庭「ウォーターガーデン」に歩みを進めましょう。床に張られた水が緩やかに揺れることで、水面に生じる波紋が壁や天井に映し出される展示です。変化する光と心地よい音、さらにハスの花をイメージした香りに包まれた室内では、まるで水中に入り込んだかのような感覚を味わうことができます。
▲まるで水の中で呼吸をしているような不思議な感覚を味わえます

次に姿を現すのが、天井まで伸びる円柱と紙で作った約30万本のこよりで白い樹林を表現した「香りの森」。森に入ったつもりで展示空間を歩き、9本の柱のうち7本に開いた穴に顔を近づけてみましょう。花や木など、同館がある岩出山地域の自然を基に調香した香りが鼻をくすぐり、自然の奏でる音も耳に入ってきます。
▲優しい光を浴びながら、岩出山の自然と触れ合っている感覚を味わえます。香りの中にはミュージアムショップでエッセンスとして販売しているものも

身も心もすっかりリラックスした来館者を最後に優しく迎え入れてくれるのが、このミュージアムのシンボルとなっている「ハートドーム」。胎内をイメージしたドームの中は、ほのかな香りと幻想的な光で満たされています。
▲ハート型の外観をしたドームの中に入って、浴槽に見立てた空間に寝そべり音と光を感じます。そのまま眠り出す来館者も少なくないそう

中央にある黒い漆塗りの空間に寝そべり、変化する光と静かに流れる音を全身で浴びながら、しばし瞑想の世界へ。頭の中のモヤモヤがすっと消えていき、身も心も癒やされていくのが感じられます。子どもよりも大人がゆっくりしていくことが多い展示だというのもうなずけました。
▲外界とはまったく違う時が流れる世界で、頭を空っぽにして過ごせます

現実世界に戻ってカフェで味覚体験。触覚楽しむワークショップも

「ハートドーム」での“精神浴”を終えたら、屋外広場に面した池沿いの通路「カスケードトラバース」を通って現実世界へ戻りましょう。ここまでで、ゆっくり回って1時間。展示を通して五感が研ぎ澄まされた後だと、現実世界はどう感じられるでしょうか。
▲池で隔てた向こう側に広がる現実世界へと緩やかに戻っていく通路

通路を渡り終えると、再び「ダイアローグゾーン」に戻ってきました。ここには無料で見ることができる市民ギャラリーもあります。ギャラリー内には引き出しが約1,000個あり、その一つ一つに小さな作品が入っています。秘密をのぞいているようなドキドキ感と、何が出てくるかというワクワク感、思わぬ作品との驚きの出合いが味わえます。
▲木を多用した落ち着いた空間に、ずらりと並ぶ約1,000個の引き出し
▲引き出しの中に入っている作品は、2年に1度開かれる作品展の応募作が中心です

同館では各種ワークショップも通年で開催しています。粘土のようなロウでデコレーションするキャンドル作りや、香り付きのせっけんを作るハンドメイドアロマソープ、空き缶にペイントしてアフリカの楽器「カリンバ」を作るワークショップなど、5日前までの予約で体験できます(有料)。
▲ロウでデコレーションしてキャンドルを作るワークショップ。小学生以上対象で、料金は800円(税込)

ところで1つ、まだ体験していない五感があると思いませんか?そう、味覚です。同じく無料ゾーンにある「カフェるぽ」ではコーヒーや紅茶などのドリンク、ケーキやパフェなどのデザート、カレーやパスタ、ピラフといった軽食を提供。味覚だけでなく、鋭くなった視覚も嗅覚も使って味わい尽くしましょう。
▲鳴子産のブルーベリーを使った濃厚な味わいのシェイク(右、400円)とベリーパフェ(550円)※ともに税込
▲カフェスペースの壁面には「大崎百景」と題した写真を通年で展示。市民が撮影した写真からふるさとへの思いを感じ取ってみてください

研ぎ澄まされた五感で再発見する日常風景の美しさ

すっかり五感を刺激されて外に出ると、何だか世界がいつもより生き生きと輝いて感じられます。エントランスにある香りや音の演出も、出るときに初めて気付く人もいるそう。帰る前に屋上「みみのテラス」に上がり、研ぎ澄まされた五感で自然の香りや風を感じてみましょう。
▲「みみのテラス」は入場自由。ラッパ型のオブジェに耳を当て、風の音や川のせせらぎ、鳥の声に耳を澄まします
▲屋上から同館の裏に広がる河川公園に足を延ばして散策も楽しめます

目や耳に大量の情報が飛び込んでくる現代生活で疲れた視覚や聴覚などの五感を、もみほぐしてもらったような「感覚ミュージアム」でのひととき。帰ってきてからも、足元の草木に目をやったり、鳥の鳴き声に耳を澄ませたりと、意識的に五感を働かせることが増えているような気がします。毎日の暮らしの中にある感動が見つけにくくなったとき、感覚をリセットしてもらいにまた訪れたいミュージアムでした。
菊地正宏

菊地正宏

大船渡生まれ仙台在住のライター/漁業ジャーナリスト/編集者。 仙台経済新聞編集長。

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