「青少年の問題行動は、脳幹の機能低下により引き起こされる」
―――脳幹論
私はオリンピックで通用するような一流のヨットマンを育てたくて、
戸塚ヨットスクールを作りました。 1977年のことです。
当初集まったのは、ごく普通の子供達です。
あるとき、そこに一人の登校拒否児が紛れ込み、
短期間の訓練で登校拒否が直ってしまいました。
以来、私とスクールの運命は変わりました。
噂を聞きつけ、登校拒否、非行、家庭内暴力の子などが
全国から続々と入校するようになったのです。
しかし、当時は「なぜヨットで問題児が直るのか」 という理由が、
私にもよくわかりませんでした。
その後、いわゆる”戸塚ヨットスクール事件”が起きて、
私はコーチたちとともに逮捕され、3年間の勾留を余儀なくされました。
この長い勾留生活のおかげで、それまでスクールで起こっていた様々な事象
(顔の表情が良くなる、姿勢が良くなる、感情が安定する、
アトピーが治る等々)を解明することができました。
すなわち―――
「青少年の問題行動は、脳幹の機能低下により引き起こされる」
―――という、脳幹論を確立できたのです。
”脳幹”とは、文字通り脳全体を支える幹の部分に相当します。
生命を司る、最も原始的な脳です。
現代っ子は、この大事な脳幹を刺激されないままに成長しています。
そのため生命力が弱くなり、アトピーなどの現代病になります。
また、弱い精神力ゆえに教育荒廃の原因となる問題行動へと走ります
逆に、この脳幹を強くすれば、人間が生まれながらに持っている
「種族保存の本能」にかなう行動をとるようになります。
その正しい行動が「子供らしい子供」をつくり、正しい人間性の土台となっていくわけです。ヨットやウィンドサーフィンは、そうした訓練を安全に行うための手段にすぎません。
「自分の子を自立させたい」と本当の親なら思うはずです。
手元においてペットのように可愛がるだけでは、親失格。
子供が一人で生きていけるようにできたとき、親としての務めが果たしたことになり、安堵できるのです。
教育は科学的でなければいけません。
誰がどこでやっても、同じ成果を出せなければだめです。
その意味で、戸塚ヨットスクールがやっていることは、
決して特別なことではありません。
本当は誰にでもできることなのです。
脳幹を鍛え、子供同士の世界で人間性を磨けば、
子供は真に明るい表情となり、ひとみの輝く子供に成長してゆきます。
それが大自然の摂理なのだということを、スクールを通り抜けていった
七百余名の子供たちから私は学びました。
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