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中小型M&Aのありがちな失敗パターン10選-買い手企業編-


目次

1.中小型M&Aにおける失敗とは?

1-1.M&Aの成功と失敗

1-2.M&Aプロセスにおける大型と中小型の違い

1-3.負けに不思議の負けなし

2.中小型M&Aの失敗パターン10選

2-1.M&Aゴール

2-2.ターゲット企業の見誤り

2-3. 受動的ソーシング

2-4.DD不足

2-5.シナジーを過信したプロジェクション

2-6.ロジックに基づかない価額交渉

2-7.ゆるふわ契約書

2-8.PMI計画の欠如

2-9.ハゲタカ風バリューアップ

2-10.買収後の放置プレイ

3.M&Aの失敗を防ぐには(まとめ)

3-1.戦略なきM&Aは止める

3-2.ケチらずプロに委託する

3-3.PMIは早期にイメージしておく

1.中小型M&Aにおける失敗とは

1-1.M&Aの成功と失敗

ストラテジックバイヤーにおけるM&Aの目的として頻繁に目にするものは、シェアの獲得、新規市場・新規事業領域への進出、チャネルの獲得、人材の獲得等様々です。M&Aにおける成功は、目的別に基準は様々ではありますが、総じて投資対効果が良いことが成功の要件として挙げられるのではないでしょうか。一方、投資対効果が見合わないものが失敗と考えられます。結果としての減損は失敗の結果と言えるでしょう。

とある企業が行ったアンケートにおいてM&Aが成功していると言えるのは、およそ2~3割という結果が出ておりました。特に海外M&Aにおいては成功確率は5%程度と特に低い結果が出ており、M&Aは成功させる方が難しいことが伺えます。

1-2.M&Aプロセスにおける大型と中小型の違い

東証一部に上場しているような大企業が行う買収総額が数百億~数兆円の大型M&Aと、中堅企業が行う買収額が数億~数十億円の中小型M&Aを進めるにあたっての大きな違いは「リソース」ではないでしょうか。買収資金という意味でのリソースは当然ながら大企業と中堅企業では差がありますが、ここでいうリソースはM&Aのプロセスにかけられる人的・資金的リソースを指します。

大企業においては、社内におけるM&Aチームが大人数であることに加え、戦略立案~エグゼキューション~PMIまで、戦略コンサルティングファーム、投資銀行、FAS、大手会計事務所、大手法律事務所などのプロフェッショナルファームをフル活用しながらディールを進めることが多いです。買収額が大きくなるため慎重になることに加え、社内の規定で一定以上の外部サポートを受けることが決まりとなっている企業もあります。

一方、中小型M&Aをメインに行う中堅企業においては、社内のM&Aチームは数名、財務DDのみを会計事務所に委託し、契約書チェック等は社内の法務で行うような企業もあります。買収額は大型M&Aに比べて小さいものの、買収プロセスに十分なコストを掛けられない結果、リスクを抱えたままM&Aを行ってしまうケースも少なくありません

1-3.負けに不思議の負けなし

M&Aを成功させている企業は当然ながら多数存在します。成功案件に関しても一定の説明がつくものも多いですが、成功要因は説明がつかないものの不思議と成功しているパターンも存在します。一方で、失敗した案件には不思議と失敗したというケースが少ないように思われます。失敗したケースは何かしらの失敗要因によって説明がつくケースが多いです。特に先述のM&Aのプロセスにおいて失敗要因が散見されるケースが多く、M&Aのプロセスにリソースをかけられない中小型M&Aにおいては、注意すべき失敗要因を事前に認識し、なるべく予防をすることが必要だと考えています。今回は、そんな中小型M&Aにおいて注意すべきM&Aのプロセスの失敗パターンの中から、筆者が特に多く見てきた事例をご紹介いたします。

2.中小型M&Aの失敗パターン10選

2-1.M&Aゴール

出典:http://honestipo.com/ipo/goal.html

IPOすること自体を目的として業績を伸ばし、いざIPOをすると業績が失速してしまう企業・現象を「上場ゴール」と揶揄することがあります。それらと同様に買収すること自体を目的としてしまい、買収後のことは二の次となってしまう買い手企業をここでは「M&Aゴール」と呼ぶことがあります。

上場した企業にあるパターンとして、外部の投資家にM&Aをすると宣言してしまい、投資家からの期待とコミットメントからM&Aをせざるを得ない状況となり「なんでも良いからM&Aをしなければ」と言った空気感が社内に流れだし、なりふり構わず焦ってM&Aをしてしまうといったことがあります。また、競合企業や周辺の企業がM&Aを行っているため、自社もM&Aをせねば、、といったやや思考停止気味にM&Aを行うことを考える企業も見受けられます。こうした企業が戦術したM&Aを目的化してしまう「M&Aゴール」となってしまいがちです。

月並みですが、あくまでM&Aは戦略オプションの一つであり、決してM&Aを目的化してはなりません。自社や競合、市場を考慮した上で、取るべき戦略オプションがM&Aであるかどうかは、慎重に検討する必要があります。M&Aを行わなくても自社で営業開拓を行えば費用対効果の観点からメリットが大きい場合さえあります。さらにM&Aを行うことを目的としてしまうと、後述するValuation及び契約書交渉においても悪影響がでるため、M&Aの成否を分ける非常に重要なポイントと言えるでしょう。

2-2.ターゲット企業の見誤り

M&Aを行おうとするとまずはM&A戦略を立案します。戦略立案に関する詳細な話題ここでは割愛しますが、M&Aにおいては戦略の立案が最重要かつ最難関パートの一つであると言えます。

PEファンドなどのフィナンシャルバイヤーにおいては、投資対リターンを中心に戦略を立案しますが、事業会社等のストラテジックバイヤーにおいては、事業上のメリット、組織文化的な観点等検討する要素が多く、より検討事項が多いです。検討事項が多いにもかかわらずむやみに周辺業界の企業を羅列したロングリストを作成し、虱潰しにソーシングを行っても成功確率はそれほど高いとは言えません

ソーシングをかけうる最適な買収候補を絞る際に、なるべく買い手が重要視するポイントにおいて優れた企業に絞りショートリストを作成しアタックすることが良いかと思われます。特にリソースが少ない中堅企業にとっては、ショートリストを厳選すると、買収完了までに時間がかかってしまう可能性はあれど、無駄にソーシングをすることもなくなることに加え、戦略に合致した本来買収すべき企業との交渉に集中できるというメリットがあります。M&A自体ができないことよりも、間違ったM&Aを行ってしまうことの代償の方がはるかに大きいため、戦略を充分に検討した上で、厳選したソーシング活動を行うことをお勧めします。

2-3.受動的ソーシング

ターゲット企業の見誤りとも関連する話ですが、自社から狙ってソーシングを行った企業ではなく、M&A仲介会社やFA企業が持ち込んできた企業を、言われるがままに買収してしまうケースは失敗するケースの一つです。

いざM&Aを始めようとすると上記の企業に案件を持ってきてもらうよう依頼するケースがあります。彼らは、業界と希望買収規模の価額帯を伝えると、合致する案件があれば持ってきてくれます。持ってくる案件としてよくある失敗ケースとしては、

ⅰ買い手の事業理解が足りないことから紹介される的外れな案件

ⅱ手あかがついた案件

が多いです。ⅰは、仲介会社やFAはそれほど買い手企業の本質的な事業上の強みを理解しないまま、表面的に同業界だから・・・といった理由でシナジーがあるであろう企業として案件を持ってくるケースです。(※もちろん丁寧に分析をした上で完璧に近いご提案をいただける仲介業者、FA業者もいらっしゃいます。あくまで一般的なケースをご紹介しております。)ⅱは、買収検討がこれまで何回もなされており、他社が買収しなかった案件が流れてきているケースです。そういった案件は他社が見て買収を断念しているということから、何かしらの瑕疵があることが推察されるため、慎重に検討する必要があります。

仲介会社、FA企業へは、先述したショートリストを作成の上、それらを開示し、彼らとつながりがある企業を紹介していただくのが良いかと考えられます

2-4.DD不足

リソース不足の際たる例として挙げられるのが、DD不足です。DDの相場がわからないことに加え、買収が成功するかもわからないので、○○万円もかけられない・・・と言ったパターンが多いように考えられます。そういった企業は自社の内部のスタッフでDDを済ませてしまうこともあるかと思います。しかし、最低限のDDを行わないままM&Aを進めてしまうとケチった費用の何倍ものリスクが顕在化する可能性があります。可能な限りDD業務に慣れた外部ファームに依頼しましょう。中小型M&Aであれば、必ずしも名前が通った大手ファームである必要はないケースもあるため、中堅ファーム等に依頼することも視野にいれても良いかもしれません。

また、M&Aが完了するかもわからないのに費用を掛けられない・・・と言った考えを持つ企業に関しては、事前に年間予算として、必要経費を積んでおくことをお勧めします。

2-5.シナジー過信

「弊社が買収すれば、シナジーがあるため、これだけバリューアップができる」と言った自信から、ポジティブなプロジェクションを過信してしまうケースは失敗するケースの一つです。シナジーとはよく使われる言葉ですが、実際には多くの場合シナジーを顕在化させる難易度は高いです。もちろん、ある程度のアップサイドを見込むことは必要ですが、シナジーを過信してしまうと、高いバリュエーションを許容してしまい高値掴みをしてしまうリスクがあると言えます

プロジェクションを作成する際には、シナジーを織り込んだアップサイドケースと、シナジーを全く織り込まないスタンドアロンケースと、業績が悪化した際のダウンサイドケースの3パターンは最低作成して、バリュエーション時に検討することをお勧めします

2-6.ノーロジック価額交渉

オーナー系企業にありがちですが、企業の評価ロジックを熟知しておらず、他社の買収事例から「弊社はこの金額で売れる」「当社はこの企業で買える」と言ったロジックに基づかない価額目線が買収金額交渉において足かせとなってしまうケースがあります。

実際にそのような場面において、売り手の勢いに負けて価額を融通してしまうケースは、あとから見ると高値掴みをしてしまうケースになり得ます。特に、価額交渉場面までにDD等を行ってしまい、サンクコストが発生している場合はなおさら交渉で買い手側が折れてしまうケースも多いかと思われます。さらに、「M&Aゴール」を意識してしまっているチーム・経営陣であれば、より交渉に負けてしまう可能性は高まると思われます。

価額算定・交渉においては、FA業者が熟知しており、DD等の精査の結果を踏まえ、リスクを織り込んだ形でValuationを行ってくれます。自社で行う自信がない企業に関しては、外注し、ロジックに基づく算定を行うようにすべきかと考えられます

また、売り手が手元に残る最終金額を気にするケースの場合、スキームの変更も検討すると交渉が進む場合もあるため、価額交渉時にはスキームも併せて検討すべきだと考えられます。(スキームの話は別の機会で記載いたします)

2-7.ゆるふわ契約書

M&Aにおける契約は、M&Aの全プロセスの総まとめ的な立ち位置にあります。DD、Valuation等で得られたすべての情報をこの書面に詰め込む必要があります。この点に関しても、費用をケチってしまい、M&Aを経験したことがない法務スタッフだけで対応した場合、これまで調査してきた内容が盛り込まれなくなってしまうリスクが発生します。売り手からすると条件がゆるく、売り手有利な契約書となってしまうのです。

例えば、極端な例ですが、DDで簿外債務の存在の可能性を示唆されているにも関わらず、簿外債務がないことを表明保証に入れない等契約でカバーをしていないとなると、簿外債務が顕在化した際に、売主に何も請求できずに、買い手企業が負担することとなりかねません。

この点に関しても、専門的知見が必要となるため、契約条件交渉の代理人として弁護士事務所に依頼をすることをお勧めします。交渉事の基本ではありますが、どの部分を譲歩できて、どの部分は譲れないのかについては事前に協議を行っておく必要があります。事前に弁護士と相談の上、契約交渉に臨むことをお勧めいたします。

また、当然ながら弁護士も専門領域が分かれておりますので、M&Aを専門とする弁護士に依頼することをお勧めします。

2-8.PMI計画の欠如

買収後の動きについてもM&Aにおいて成功・失敗の差が出やすい最重要パートの一つです。M&Aを行った後に、PMI計画を立案する、といったタイムスケジュールでは遅すぎて、PMIに失敗してしまう可能性が高いです。できれば、DD、プロジェクションを行っている際にPMIを行うメンバーもM&Aチームの議論に参加し、買収後の絵姿を想像しながらエグゼキューションを進める方が良いと思われます。例えば、リクルート社においては、買収前から買収後まで責任者を一貫させており、それにより買収後からの移行がスムーズになるとのことです。

「100日計画」と呼ばれる買収後100日間で、初期的統合を完了させる計画を作成している企業も多いです。買収に慣れている買い手の場合、100日計画のテンプレートを持っている等ナレッジを共有している場合もあります。100日計画でなくとも、なるべく早い段階でPMIの計画を立てておくことをお勧めします

2-9.ハゲタカ風バリューアップ

出典:http://kiritani.blog4.fc2.com/blog-entry-3038.html

2007年にNHKでドラマ化され、2018年7月にテレビ朝日系でもドラマ化されることになった小説「ハゲタカ」の初頭のシーンで描かれた鷲津雅彦のように、企業を商品として捉え、人をリストラする冷徹な雰囲気で買収先に乗り込むパターンは、こと日本においては毛嫌いされるケースが多いように感じます。

実際に、買い手に自信があればあるほど、乗り込んで行って変革を起こすと考えがちですが、従業員の離反、反発等の問題が発生しがちです。よほどの場合でない限り高圧的な態度はおすすめしません。

売り手企業の企業文化とうまく融合させながら、改善する部分は徐々に改善していく方が多くの場合うまくいくと思われます。劇的な変革を急速に行ってうまくいくパターンは、日本電産の永守氏等のカリスマ経営者がいる場合が多いのではないでしょうか。

2-10.買収後の放置プレイ

意外と多いのがこのケース。買収後に何も手をつけないまま放置をしてしまうケースです。特に海外のM&Aにおいて多いとされます。買収後も経営陣に引き続き経営を任せてしまうものの、経営陣がインセンティブを失っており、企業経営が破たんしてしまうことが多いようです。

買収後の扱いに関しては、買い手企業のスタイルによって異なります。買収後、毎日KPIのアップデートを送るよう指示する企業もあれば、月に一回の定例MTGだけで済ませる企業もあります。また、人を送る、送らないに関しても戦略次第と言えます。いずれにせよ、定期的なモニタリングを行うことは必須と言えるでしょう。

3.M&Aの失敗を防ぐには(まとめ)

3-1.戦略なきM&Aは止める

戦略なきM&Aは成功率が著しく下がります。自社の強みやリソースを客観的に評価しつつ、今後向かっていくべき事業シナリオを描いた延長線上に選択肢の一つとしてM&Aを捉え、戦略を描くことを心がけるべきだと考えられます。決して、M&Aゴールとならないように注意が必要です。

3-2.ケチらずプロに委託する

社内にM&A部隊を多く抱える企業においては、その必要はありませんが、中小型M&Aを行う多くの企業にとって、M&Aは慣れた業務ではないことが多いです。特にDDやValuation、契約交渉等のエグゼキューション部分は自社で一からインプットをして行うには時間がかかりすぎます。多少の費用は掛かりますが、買収後のリスクの金額を考えると多少は費用が掛かってでもプロに委託をすべきだと考えております。

3-3.PMIは早期にイメージしておく

PMI計画は早い段階で検討し、どのようなアプローチで行うのかを考えておく必要があります。戦略と同様、PMIでM&Aの成否が決まると言われることもあるため、非常に重要な部分となりますので、ディールが進行している早い段階で実際にPMIにあたるメンバーと議論を行っておくことが良いと思われます。

買い手としての失敗パターンは、他にもたくさんありますが、ここでは代表的なものを挙げさせていただきました。今回ご紹介したケースはM&Aにおいて、よくある失敗要因ですが、いざ自社のこととなると盲目的となりがちです。読者の皆様は充分承知はされているかとは思いますが、上記のような失敗パターンに陥らないよう、今一度自社の状況をチェックしてみてはいかがでしょうか。 

以上

ライター:遠藤歩美