その医療 ホントに要りますか?
コラム
健康診断を受けても健康寿命は延びない?
職場や地域で行われている健康診断。健康づくりに欠かせないと考えられていますが、意外なことに、海外の大規模研究では、病気を予防したり、寿命を延ばしたりする効果が見られませんでした。健康診断を受ける意味はあるのでしょうか。
保健指導で検査数値は改善するが…
健康診断では、身長、体重、腹囲や血圧のほか、血液検査で血糖、コレステロールなどを測ることが定められています。
以前から学校や職場で行われてきましたが、2008年に、40~74歳の全ての公的医療保険加入者にも実施されるようになりました。これを正式に「特定健康診査・特定保健指導」といいますが、メタボリックシンドローム(メタボ)の人を減らす狙いから、「メタボ健診」とも呼ばれています。心臓病、脳卒中などの生活習慣病になる恐れが高い人を見つけ、健康指導を行うことで、病気を予防するのが目的です。
メタボ健診で指導対象になった人たちを調べたところ、保健指導の「積極的支援」を受けた人は、1年後、男性で腹囲が2.3センチ、体重が2キロ減少していました。女性では腹囲が3センチ、体重が2.3キロ減っています。血圧や血糖、脂質などの数値も改善していました。
しかし、何より重要なのは、検査数値が良くなったかどうかではなく、心臓病や脳卒中が減ったかどうかです。残念ながら、今のところ心臓病や脳卒中の予防効果は確認されていません。
海外の報告 「寿命を延ばす効果は見られない」
一方、海外では健康診断について否定的な報告が相次いでいます。
欧米では、健診の効果を検証するため、多くの人たちを集めて、健診を受けるグループと受けないグループに分け、死亡率などに違いがあるかどうかを調べる臨床試験がいくつも行われています。12年、そうした臨床試験14件の結果をまとめた論文が発表されました。試験に参加した計18万人のデータを解析したところ、健診を受けた人と受けなかった人では、心臓病、脳卒中、がんによる死亡率や、全体の死亡率に差がなく、寿命を延ばす効果が見られませんでした。
さらに、14年には、デンマークで30~60歳の6万人を10年間追跡調査した結果がまとまりました。健診を受けたグループには、5年間に4回の健康相談を行い、病気のリスクが高いと判断された人には、食事などの生活習慣や運動、禁煙などの指導も行いました。こうした手厚い健康指導にもかかわらず、健診を受けても、受けない場合と比べ、心臓病や脳卒中の発症率や全体の死亡率に違いがありませんでした。寿命は延びず、病気を予防する効果も見られず、健康増進にはつながらなかったのです。
こうした科学的データを重視する欧米では、日本のような形での健診は行われていません。効果のない健診に資金を投入するべきではないと考えるわけです。
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日本の健康診断は混乱しています。
産業医
一口に健康診断といっても、その内容は様々であり、生涯にわたる健康診断は我々にとって身近なものになっている。例えば、労働安全衛生法に規定された職場...
一口に健康診断といっても、その内容は様々であり、生涯にわたる健康診断は我々にとって身近なものになっている。例えば、労働安全衛生法に規定された職場での健康診断、住民健診、人間ドック、特定保健指導、がん検診、学校保健法による健康診断、母子手帳による定期健診等々、ほぼ生涯にわたり健康診断の機会は存在する。メタボ健診の功罪を問うという趣旨に賛同できる点はあるが、労働安全衛生法に規定された職場での健康診断の目的は、単なる「病気の早期発見」のみならず、労働者の就業判定や就業措置の重要な情報源という目的があるのである。健康診断が不要又は無意味というわけではなく、その目的が混迷あるいは混在しているところが問題と思う。
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