「経営者目線で考えろ」とは?
「もっと経営者目線で考えろ」みたいなこと、上司や社長から言われたことありますか?もしくは、部下に言ったことありますか?僕も過去に似たようなことを言われた事があるうちの1人ですが、これだけ言われるといまいちピンと来ない。どうしたら経営者の視点になって考えられるのか、ということにもやもやがありました。
そもそも、企業に勤めている限り、日々の自分の仕事は、社員であっても、経営者であっても、最終的には勤める企業の価値をあげることに直結しているはずです。ということは、企業価値という視点で語ることで、この問いに答えられるのでは、と思ったのがはじまりです。
それを図解してみました。「PBR」を起点にしたこのツリーは、左から右に、よりミクロな指標になっていきます。
売上を上げることを目標にしているマネージャーもいれば、顧客の数を増やすことを目標にしているような営業もいると思います。ここで重要なのは、自分がいま目の前にしている指標はどこの位置にあたるのか?そしてそれよりマクロな指標は何か?ということです。なぜなら、よりマクロな指標こそ、経営者が見ている指標だからです。
……とはいってもよりマクロな指標をすぐに考えるというのは難しいと思います。そこで、ここからは最もミクロな「顧客単価」「現金」などの現場視点からマクロなPBRまでどのようにつながっているのか。ひとつずつ図を基に解説していきます。
なぜ「PBR」も重要なのか
なお、PBRは株価純資産倍率といって株価の割安性を測る指標として知られているので、最もマクロな指標としていることについて違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、経済産業省が2017年10月に公開した
『伊藤レポート2.0』では、企業の価値を測る新たな指標として、PBRについての言及があります。ESGへの取り組みに対する評価が高い企業はPBRも上昇する傾向があるというのです。
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の三つの言葉の頭文字を取ったもののことで、「持続可能な社会」に向けて、企業の業績だけでなく環境や人権問題などへの取り組みを考慮する指標のことです。ESGへ積極的な取り組みをする企業への投資をESG投資と言いますが、日本の年金を管理するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という世界最大規模の機関投資家がこのESG投資を2017年7月から本格始動しました。
この事実はすなわち、経済の動きが確実にESGへ向かう=ESGと密接に関連するPBRの指標が重要になる、ということになります。
その点を考慮して、今回は最もマクロな視点のひとつとしてPBRを図の左端に置いて説明しています。
それでは、ひとつひとつ見て行きましょう。
「売上」と「費用」
売上は一番わかりやすいですね。売上の出し方は業種や業界によって違いますが、ここでは最も一般化したときの書き方、どれだけ顧客を集められたかという「顧客数」と、その顧客がどれだけお金を払ったかという「顧客単価」という要素を使って表しています。「顧客単価」×「顧客数」=「売上」です。
売上と対になっているのが費用です。これもいろいろな分解の仕方があると思いますが、よく使われるのが、売上に相関する「変動費」と相関しない「固定費」という分け方です。大きく「費用」というと広いけれど、それを1段階分化することで、費用を減らすためにたとえば何をするべきかわかります。
「流動資産」と「固定資産」
1年以内に回収される資産、「流動資産」には「現金」や「運転資本」が含まれます。ここでは運転資本としていますが、厳密には売掛金や棚卸資産、有価証券なども含まれます。日々ビジネスに密着している「運転資本」が一番イメージしやすいと思い、書きました。
固定資産の方は「有形固定資産」「無形固定資産」に分けました。固定資産は業種によって違いますが、有形固定資産は店舗、工場、不動産などが挙げられます。無形資産は、ソフトウェアや、特許などの知財などが入ります。この無形資産は、後々重要なキーワードになっていくので覚えておいてください。
「ROA」
ROAは総資産利益率のことで、「利益」÷「資産」で求められます。ROAは、売上高当期純利益率×総資産回転率という式でも表されます。
売上高当期純利益率は、資産に対して当期純利益がどれだけあるか、という「収益性」を確認できる指標です。一方の総資産回転率は、持っている資産をどれだけ売上に変えられるか、資産をうまく活用できているか示す「効率性」の指標です。
このことから、ROAは収益性×効率性を表す指標となります。
「負債」と「純資産」、「財務レバレッジ」
負債と純資産について大まかに説明すると、たとえば会社を立ち上げる時に1000万円が必要だったとして、自分たちで調達した500万円は「純資産」に、よそから借りた500万円は「負債」に計上されます。純資産には自分たちが稼いだお金が利益剰余金という形で含まれるため、稼げば稼ぐほど純資産が増えていきます。負債は返さなくてはならないお金で、しかも基本的には利子付きで返さなくてはなりません。
この負債と純資産からつながっているのが、財務レバレッジです。純資産を「自己資本」、負債+純資産を「資産合計」と言い換え、財務レバレッジは資産合計÷自己資本で求められます。負債をどれくらい有効に活用しているかを表しますが、一般に、会社の安全性を測る指標として用いられます。
「ROE」
ROEは総資産利益率といい、株主の資本に対して、どれだけの利益を生み出すことができているのかを表します。「ROA」×「財務レバレッジ」で求められ、株主が企業の経営を見る際に注目する指標のひとつです。事実、株主偏重のアメリカ社会ではROEが非常に重視されています。
日本でもROEは企業の価値を測る上で重要な指標とされていますが、なぜ重要なのか、図解で見ていきましょう。
ROEの値を上げて株主の期待に応えるためには、この「収益性」「効率性」「安全性」の3つのどれかを改善すればいいということになります。この、ROEを3つに分けて考える手法はデュポンという化学会社が考案したので「デュポン分析」と呼ばれています。
「PER」
PERは株価収益率のことで、時価総額÷当期純利益で表されます。この指標は、企業が稼いだ利益に対して時価総額がどれくらいあるのかを示しています。
時価総額は基本的には市場からの期待で決まり、たとえば時価が上がるということは、投資家やステークホルダーがその企業の未来に期待しているということを表します。逆になにか不祥事が起きたときに時価は大きく下落しますが、それはその企業の未来に不安を覚える人が多いという証拠です。時価には、そのほか会社の持つ特許や従業員の能力、コンプライアンスやESGへの取り組みなどの影響も反映されます。
では、PERとROEは何が違うのでしょうか。PERは無形資産を重視し「時価」で算出する指標で、長期的な軸で評価します。一方、ROEは「簿価」(会計処理の結果として記入される額、時価は反映しない)で算出する指標で、PERより短期的な評価になりやすい。逆に言えばPERは、その企業の中長期的な成長性やリスクを表す指標と言い換えることもできるでしょう。
「PBR」
PBRは株価純資産倍率といって、自己資本に対してどれだけの時価総額を得ているかを表す指標です。時価総額÷自己資本という式で求められます。つまり、PBRが1よりも大きいほど、企業価値であるブランドなどの無形資産を多く有していることになります。
このPBRを分解すると、以下のようにROEとPERが現れます。すでに説明したようにROEは短期的な企業価値、PERは長期的な企業価値を測る指標ですので、それをかけ合わせたPBRは総合的な価値を算出できる指標ということになります。
なお、PBRやPERは株価(もしくは時価総額)を計算に含んでいるため、上場企業でなければ定量化されない、という意味では、非上場企業の読者にとってすこし遠い指標に感じるかもしれません。
しかし非上場企業であっても、目に見えない無形資産が存在し、上場して株がパブリックになることではじめて、市場の需要と供給によって価格が定量化されます。非上場企業だからといって「数値がない」ということではなく、あくまで定量化されづらいということになります。
現場目線から経営者目線へ
ここまで説明してきたように、「顧客数」「顧客単価」は「売上」に、「売上」は「利益」に、「利益」は「ROA」に、「ROA」は「ROE」に、そして「ROE」は企業の価値を決める「PBR」にそれぞれつながっています。「経営者目線を持て」とは、自分が今追っている指標よりさらにマクロな指標も考えろ、ということでもあるのです。
会社として目指すマクロな指標が見えていなければ、現場での指標がすごく小さい部署単位の枠の中に収まってしまいます。この図解が、「会社をさらに大きくするには現場は何をすべきか」ということを考えるきっかけになればいいと思います。