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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 会議後、名前の挙がった文化部の部長達からは感謝の言葉をもらった。うんうん、文化部にとって、学園祭は一番の晴れ舞台だもんね。お遊び気分で模擬店やってる連中とはわけが違う!私がベアたんぬいぐるみにどれだけ時間をかけていると思っているんだ!

 同志当て馬にはまた批難されるかな~と思っていたのだけど、特になにも言ってこなかったので、今回は目をつぶってもらえたらしい。

 さ、早く手芸部に行かなくちゃ。最近頻繁に届く、ベアトリーチェからの“ベアたんのぬいぐるみはもう出来た?ベアたん楽しみにしているよ!ぜーったい可愛く作ってくれなきゃダメだからね!早く見たいよ~。麗華たんガンバ!ベアトリーチェより”となどというメールが、じわじわと私を追い詰める。ケルベロス化しているなんて、梅若君には死んでも言えない…。





 私は手芸部の部長でもあるがクラスの副委員長でもあるので、当日全員が着る衣装や中国茶やお菓子の手配などもしなくてはいけないので忙しい。中国茶については私が台湾で買ってきた数種類のお茶を持ってきて試飲してもらったり、お茶に詳しいクラスメートが中心となってメニューを決めた。まさか小龍包を食べに台湾に行ったのがこんなところで役に立つとはな~。そういえば市之倉さんはどうしているだろう。あれ以来市之倉さんの彼女に遠慮して食事のお誘いも断るようにしていたから、近況を詳しく知らないのだ。あれだけおいしいものをたらふく食べさせてもらったのに、私ってば恩知らずかもしれない。麻央ちゃんにまたプティに遊びに来て欲しいと何度か言われていたから、ちょっと顔を出して聞いてみよう。



 私はさっそくプティのサロンに足を運んだ。初等科の校舎では、あちこちから歌や楽器の音が聞こえる。初等科は学園祭ではなく学習発表会という名で生徒達が合唱や合奏、演劇などを発表したり、研究発表をしたりするのだ。

 麻央ちゃんも練習に忙しいかなと思ったのだけど、事前に連絡したところ今日はサロンにいるらしい。

 少しだけ急ぎ足でプティへの廊下を歩いていると、曲がり角で桂木少年に出会った。


「あっ!お前は!」

「あら、桂木君ではありませんの。お久しぶり」


 久しぶりに見た桂木少年は前よりもずいぶん背が高くなっていた。これではもう気軽に頭を叩けないな。残念。


「なんでお前がここにいるんだよ!」

「用事があるからに決まっているでしょう。貴方とはよく廊下で会いますわねぇ。もしかして私のストーカー?」

「そんなわけあるか!誰がお前なんかのストーカーなんて!」

「相変わらずぎゃあぎゃあとうるさいわねぇ。だったら初等科でなにをしているの?あぁ、あまりに成績が悪いから初等科に逆戻り?」

「関係ないだろ!」

「あっそ。では、ごきげんよう」

「あっ、ちょっと待て!」


 私はさっさとその場を後にしようとしたのだけれど、桂木少年に引き止められた。


「なんですの?」

「お前、円城さんに近づいていないだろうな」

「はあ?!」


 桂木少年は顔をしかめた。


「中等科の女子達が噂してたんだよ。お前と円城さんが仲がいいって…」

「はあ?!」


 誰と誰の仲がいいって?!全く身に覚えがありませんが。


「そんな噂は聞いたことがありませんが、私と円城様は桂木君が心配するような仲ではありませんわよ。心置きなく片思いなさってください」

「はっ?!片思い?!」

「やたら円城様のことで絡んでくるのは、桂木君が円城様に密かな思いを抱いているからなのでしょう?いいのよ、隠さなくって。私はマイノリティーにも理解のあるつもりです」

「ふざけんな!変な想像してんじゃねぇよ!」


 桂木少年は顔を真っ赤にして喚いた。


「俺はただ、お前なんかが円城さんのそばをうろつくのが許せないんだよ!そして俺はホモじゃねぇっ!」

「そうね、そうね。その通りね」

「その言い方!全然信じてないだろう!」


 うふふ、どうでしょう?面白いなぁ、アホウドリは。なんてからかいがいのあるヤツだ。


「だいたいお前は!」

「なにしてるの?」


 可愛い声に振り返ると、雪野君が立っていた。


「まぁ、雪野君!」


 雪野君は私が頬を緩めて声を掛けるのも無視し、厳しい顔で桂木少年を押しのけるように私達の間に入ると、桂木少年に向かってバッと両手を広げた。


「女の子をいじめちゃダメなんだぞ!」


 ええーーっ!


「えっと、雪野君…?」

「いや、俺はこいつをいじめてなんか…」

「いじめてたじゃないか、大声出して!女の子には優しくしないといけないんだから!」

「ゆ、雪野君!」


 なんてことだ!今私、雪野君に庇われてる!感動っ!!私は今までこんな風に男の子に庇ってもらった経験があまりないのだ。嬉しいっ!


「行こう、麗華お姉さん!」


 雪野君は幻の鼻血を噴き出す私の手を引っ張って、桂木少年の横を勇ましい足取りで通り過ぎた。


「え、でも…」


 雪野君に怒られた桂木少年が、なんだか凄くショックを受けた顔をしているんですけど。あのまま放置は可哀想じゃない?そもそも私、いじめられていないしさ。

 しかし私が桂木少年に怯えているとでも思ったのか、私を振り返った雪野君が「大丈夫!僕が守ってあげるから平気だよ」とニコッと笑ってくれたので、誤解はそのままにしておくことにした。

 日頃の行いのせいだ、諦めろアホウドリ。私は雪野君の中でか弱い女の子のイメージでありたい。だって守ってあげるなんて言われたの、家族以外で初めてなんだもーーーん!

 あまりの嬉しさにプティでデヘデヘ笑っていたら、麻央ちゃん達に心配されてしまった。ごめん、気持ち悪かったですか?いけない、いけない。気を取り直さないと。可愛いプティの子達の信用を失ってしまう。


「雪野君は桂木君を知っていますの?」

「はい。たまに家に来ますから」

「そうなの」

「でも僕はそんなに仲良くないんですけどね…」


 ふーん。


「でもさきほどの話ですけど、私は桂木君にいじめられていたわけではありませんのよ?」

「そうなんですか?」

「ええ。彼は元々声が大きいから勘違いされやすいのでしょうね?でも守ってもらえて嬉しかったですわ。ありがとう、雪野君」


 雪野君は私のお礼にはにかんで応えてくれた。なんていい子なんでしょう!

 学習発表会で雪野君はクラスの合唱のピアノ伴奏をするらしい。天使のピアノ!それはぜひ見てみたい!

 雪野君と麻央ちゃん達も高等科の学園祭に来たいそうなので、当日は会えるかな?でも円城の弟である雪野君が来たら、高等科はパニックになっちゃうかも。その時は今日のお礼に私が守ってあげるからね!

 麻央ちゃんには市乃倉さんと来てみたらと言ってみた。残念ながら市乃倉さんは未だにおじさんと呼ばれているようだけど…。頑張れ、市乃倉さん!また晴斗兄様と呼ばれる日まで!



 次の休みの日、私は桜ちゃんから呼び出しをくらった。私の怠慢で秋澤君の周りに女の子の影があるらしい。うわぁ…。


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