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体育祭が終わったあと、納得のいっていなかった私は仮装リレーメンバーにレゲエ巻き髪を付けた理由を問うた。
それによると私が出ない言い訳に使った、去年鏑木に仮装のダメ出しをされてそれに応えられる自信がないからという話を真に受けて、では楽しみにしている皇帝のためにせめて自分達が頭に巻き髪を付けて走ろうと決意したらしい。なんだそりゃ。あいつか!やっぱりすべての元凶はあの体育祭バカか!
ひとりの男子は「皇帝に、面白い趣向だったと声を掛けてもらえました!」と喜んでいた。そして「辰と巳あたりは難しそうだが知恵を絞って頑張れと言われたんですが、なんのことですか?」と言われた。干支シリーズだよ!
あれ?でもさ、私が干支シリーズなら、若葉ちゃんは海シリーズじゃない?1年の時に余興で海役やってたし。海、魚、ときたら次はなんだろう。海藻…、船…って、私まで体育祭バカの思考回路に毒されてる!
やだよ、私。干支なんてコンプリートしたくないよ。
そして誰が最初に言いだしたのか、同志当て馬の有馬皇子というあだ名は一部で定着してしまったようだ。
有馬温泉はいいよねー。日本最古の温泉。前世では有馬温泉の素を家のお風呂に入れて楽しんだけど、今世はお金持ちなので本物の有馬温泉に行っちゃった。いや~、いいお湯でした。お肌つるつる。そして夕食に出た温泉たまごのおいしかったこと!温泉たまごはいいよねー。シーザーサラダと一緒に食べるととってもおいしいんだ!
しかし同志当て馬としてはいいのか?悲劇の皇子の名前なんて付けられて。まぁピヴォワーヌとしては同志当て馬の名前が早良じゃなくてよかったと思うべきか。祟り怖い。
この学校って、というよりこの学年って、あだ名付けるの好きだよね。皇帝とか有馬皇子とかアフロディーテとか。あと、私の…女神、とか?
うん、よく知らないけど私を女神と呼ぶ男子達がいるらしいって、去年同じクラスだった佐富君から聞いたことがあるんだよね。まぁ言われてみれば?確かに、女神っぽい気品はあるかもしれないけど?でも大げさだと思うんだよね。そういうの困るし。だいたいなんで私が女神なのかなって思ったけど、たぶん私の苗字の吉祥天から取ったんじゃないかと思うんだ。同志当て馬の有馬皇子と同じ発想。
あ、そういえば吉祥天って、美、の女神だったりするらしい。だからなんだってわけじゃないけど。ただ吉祥天は美を司っているな~って思っただけなんだけど。ただそれだけ。
体育祭が終わればすぐに中間テストだ。前々回は29位、そして前回は30位だったので今回もどうにか順位表に名を残したい!着実に下がっているのが不安材料だけど、夏休みに図書館通いして勉強したぶんもなんとか活きてくれればいいな。
私は机に向かって参考書を開いた。今頃若葉ちゃんも試験勉強しているのかな~。
若葉ちゃんの家は決して貧乏ではない。一軒家だし家業のケーキ屋さんは地域密着型で繁盛している。牛乳パックを花瓶や鍋敷きの代用にしたりお風呂にペットボトルを沈める節約術などをして生活を切り詰めている様子もない。まぁ、お風呂は実際には見ていないんだけど、少なくともマンガにはそんな描写はなかった。この前家に伺った時もエアコンを普通に使ってたしね。
ただ若葉ちゃんには兄妹が多いのだ。若葉ちゃんを筆頭に下に弟2人と妹1人の計4人兄妹だ。だから若葉ちゃんは弟達が将来進学する時のことを考え、少しでも家の負担を減らそうと瑞鸞の特待生になり、もらった奨学金を貯金している。孝行娘なのだ。
若葉ちゃんの弟達も瑞鸞の初等科にはいない、わんぱくな子達だったなぁ。私を見て「うわっ、この姉ちゃんの頭チョココロネみてー!」とか言ってきたし。そしてそれを聞いた若葉ちゃんに速攻で頭はたかれて「いってーっ!」とか騒いでたし。本当に高道家は楽しい一家だったなぁ。
よし!私も若葉ちゃんを見習って頑張ろう。しがみつけ!順位表!
そんな意気込みで臨んだテストは、私にしてはわりと出来たほうじゃないかと思う。あくまでも私にしては、だけどね。
ドキドキしながら結果発表を待つ間、私はひたすらベアたん制作に勤しんだ。学園祭まであと約1ヶ月。どうにか間に合わせねば。お父様の秘書の笹嶋さんの助っ人で胴体は出来、手足も完成。あとは顔だけなんだけど、これがどうにもいまひとつなんだよな~。何個か作ったけど写真のベアトリーチェとどこか違う。梅若君からはベアトリーチェの画像が定期的に送られてくるので、顔だけはすっかり頭に叩き込まれているのだ。鼻と目の位置かなぁ。それと長い毛をまだ付けていないから似ていないように見えるのかなぁ。ベアトリーチェの一番の特徴である長い毛はからまり防止のために最後に付けようと思っているのだ。
今度手芸部のみんなにアドバイスをもらおうかな。
そして迎えた中間テストの順位発表。私の成績は…と、おおっ!28位だ!上がってる!前回よりも2つも上がってる!凄いぞ、私!
「まあっ、麗華様!28位ですって!凄いわっ!」
「麗華様が28位!確か前回は30位でしたよね?素晴らしいわ!」
一緒に掲示板を見に来ていた芹香ちゃん達の賛辞が心地よい。
「どうもありがとう。でも28位ってそんなに褒めてもらえるような順位なのかしら…。私にはよくわからなくて」
「あら、充分ご立派な成績ですわ。麗華様は順位とかをあまり気になさらないからおわかりにならないのでしょうけど」
「そうですわ。麗華様はご自分の成績をもっと誇っていいんですよ?」
「まぁ、そんな…」
おほほほほほ。もっと言って。
しかし上には上が大勢いる。今回も1位は鏑木、2位に円城、3位が若葉ちゃんだ。あの3人の頭の中はどうなってんだ?
順位表を見上げる若葉ちゃんは、今までの経験を踏まえて口を真一文字にして喜びを露骨に出さないようにしている。が、小鼻がひくひくしているぞ、若葉ちゃん。嬉しいんだな。これでまた臨時奨学金ゲット!とか考えているな。
この前聞いた話によると、普段はお弁当の若葉ちゃんは、臨時奨学金をもらった時だけご褒美に食堂の高級メニューを食べるのが密かな楽しみなんだそうだ。良かったね、若葉ちゃん。今回はなにを食べるのかな?今月はヌーベルキュイジーヌフェアをしているよ。
「若葉ちゃん、凄~い!」
「えへへ、ありがとう」
若葉ちゃんは生徒会に入ってから同じ役員をしている子達と仲良くなったようだ。最近一緒にいる姿を時々見かける。
「今回も高道に負けたな~」
若葉ちゃんの隣には同志当て馬もいた。同志当て馬は4位だ。
「次回頑張って」
「余裕の発言だな、それ」
若葉ちゃんと同志当て馬もずいぶんと親しくなったみたいだな。孤立していないのはいいことだ。後ろにいる有馬皇子ファンの目が厳しいけど。
そこへやってきた鏑木と円城は、周囲に騒がれながらも順位表をいつもと同じく当然の結果と受け止め、たいして関心もなさそうに去って行った。その時、鏑木が同志当て馬としゃべる若葉ちゃんをちらっと見ていたのを、私は見逃さなかった。
鏑木って、本当に若葉ちゃんをどう思っているのかなぁ…?
体育祭、中間テストと終わり、これから瑞鸞は学園祭一色だ。そしてその学園祭で、私達のクラスは中国茶カフェをやることになった。中国茶は市之倉さんに台湾に連れて行ってもらった時にたくさん買ってきたから、少しはアイデアで貢献できるかも。
それと手芸部の展示の準備だ。私は部長なのだから部員のみんなを引っ張って行かないとね!
よーし!みんな、この部長の私にまかせてね!
でもまずは部長として自分の出品物を完成させないと。今日はベアたんぬいぐるみを学院に持ってきた。みんなのアドバイスが欲しいからだ。手芸部に行く前にサロンに顔を出し、お茶を飲みながら大きな袋に入れてきたベアたんを覗きこむ。一応候補の顔は3つあるんだけど、どれがいいかな~。どれも可愛いと思うんだけど。
サロンの隅でベアたんの胴体に頭を付け比べて悩んでいると、鏑木が通りがかって不思議そうな顔をした。
「なんだ、それ。ケルベロスか?」
はあああっっ?!表出ろや、こらぁぁっ!!!