挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
152/299

152

 男子リレーでは鏑木チームが円陣を組み、うおーーっ!!と気合の雄叫びをあげていた。うわぁ、なんか1チームだけ凄いことになってる…。

 スタートの合図が鳴った。一斉に走り出す選手達。おおっとっ!我先に走り出した鏑木チームの第一走者が、気合が入りすぎて転んだーー!!バトンも飛んでったーー!!

 ぎゃあああっ!と応援席からあがる悲鳴。慌ててバトンを拾って走るも、鏑木チームはかなり出遅れてしまった。うわぁ、うわぁ、あの男子の今の心境や如何に…。

 走り終えた鏑木チームの第一走者は真っ青な顔をしていた。そりゃそうだろうな。しかしそんな男子を鏑木は背中をバンバン叩いて労っていた。なにか耳元で声を掛けている。どうやらミスを怒ってはいないようだ。良かったね、見知らぬ男子よ。

 そしてアンカーの鏑木の番になった。鏑木のクラスは第二走者以降のスパルタ軍の決死の走りで現在4位。鏑木はバトンを受け取ると風のように走り出し、すぐ前を走る3位を抜き去った。そして2位に追いつき、1位を射程圏内に捉える。速い!

 鏑木の破竹の勢いに地鳴りのような声援が響き渡る。ゴールは目前。抜くか、皇帝!抜いたーーー!!

 ゴールテープを切った鏑木に、その場にいた選手達全員が駆け寄った。あ、第一走者の男子が号泣してる。責任に押し潰されそうになっていたんだろうねぇ…。そんな彼を見て鏑木が笑顔で親指を立てていた。鏑木はまた男子の信者をひとり増やした。



 私が次に出るのは玉入れだ。団体戦だし、今度こそ接待なしで勝ってみせる!

 ほかのクラスを顔ぶれを確かめると、練習で球をぶつけられまくっていた若葉ちゃんの隣になんと円城が立っていた。えっ、玉入れに円城が出るの?!

 また玉をぶつけてやろうと意気込んでいた子達は、隣にいる円城に当てるわけにもいかないので、諦めておとなしくカゴに投げていた。

 もしかして円城、若葉ちゃんをフォローしたの?偶然かな?

 玉入れの結果は可もなく不可もなくの3位だった。



 午後は仮装リレーだ。野々瀬さん達も協力した岩室君の仮装の出来はどうかな~。続々と出場クラス達が姿を現した。


「んんっ?!」


 私のクラスはブレーメンの音楽隊だったが、なぜか全員の動物の頭に巻き髪がくっつけてあった。

 なんだ、あれ?!


「委員長!委員長!」

「どうしたの?吉祥院さん」


 私は委員長の元へ行き、あの妙ちくりんな仮装について問い質した。


「なんで動物の頭に変な髪がついているんですの?!」

「ああ、あれ。吉祥院さんの髪型を真似たみたいだよ」


 やっぱりか!


「吉祥院さんはうちのクラスの顔だから、自分達のクラスのアピール?リスペクト?うん、そんな感じで」

「そんな感じって…。私、聞いていませんわよ!」

「あー、事前に知ったら嫌がってやめさせられちゃうかもって思ったみたい。ごめんね、吉祥院さん。僕が仮装リレーのメンバーに、岩室君が吉祥院さんの髪型を真似たカツラを被るんだって話をしちゃったら、なんだか対抗意識燃やしちゃったらしくって。吉祥院さんは僕らのクラスなのにって」

「意味わかんない!」


 カツラといえど、岩室君の巻き髪のクオリティとは比べものにならない付け巻き髪じゃないか。あれじゃ優雅なロココというよりレゲエの神様だ!

 ほら、なんか変な笑い取ってるしーっ!私まで笑われている気がする!


「ほら吉祥院さん、始まるよ。応援、応援」


 委員長に促されても、妙なネジネジを頭に付けた動物達を素直に応援出来ない。


「あ!岩室君が出てきたよ!」


 岩室ウェンディは見事な金髪の巻き髪カツラを被り、水色のワンピースを着て全力疾走していた。レゲエブレーメン達はあっという間に抜かされた。フルフェイスのロバが完全に足を引っ張っている。酸欠だな。

 見ると若葉ちゃんも仮装リレーに出ていた。若葉ちゃんのクラスの仮装は浦島太郎だった。浦島太郎や乙姫の後ろを、全身に鯛やヒラメを付けた若葉ちゃんが走っていた。若葉ちゃん…。


 私はゴールした仮装リレーの選手達に一言言ってやりたかったが、私の出る二人三脚の順番が来てしまったのでしょうがない。この気持ちを競技にぶつけるため移動する。

 私が巻き髪とドレッドの違いについて考えながらペアの流寧ちゃんと歩いていると、前から鏑木がやってきた。


「吉祥院!」


 なぜか鏑木に声を掛けられた。流寧ちゃんは余計な気を利かせてさっと私達から少し離れた。


「鏑木様」


 鏑木の周りにはいつものように一定の距離を持って女の子達がくっついてきている。ハーメルンの笛吹き男のようだ。

 鏑木が私の肩に手を置いた。それを見て遠巻きに女子達が黄色い声をあげた。


「お前の去年からのテーマがわかったぞ。干支シリーズだな!」

「は?干支?」


 私のテーマだとか干支だとか、いきなりひとを掴まえてなにを言いだすかと思ったら、またわけのわからないことを…。

 しかし鏑木は私の困惑をよそに、ひとり納得したように頷いた。


「今年は仮装リレーに出ないから、さては付け鼻から逃げたかと思ったが、まさか分身を出してくるとはな。去年のネズミに羊、そして今年のブレーメン。お前が干支をコンプリートしようとしていることが俺にはすぐにわかったぞ」

「はあっ?!」


 こいつなに言っちゃっての?!バカじゃないの?!仮装で干支をコンプリートしたいなんて、私は生まれてこのかた1度だって考えたことはない!

 そもそもよく見ろ!ブレーメンの音楽隊には猫がいたでしょうが。猫は干支には入っていないぞ!なぜなら猫はネズミに騙されたから!

 ちょっと、なにが「なるほどな」なの?!やめて、また勝手に納得しないで。怖いから!


「今回で数を稼いだから卒業までにはコンプリートできるかもな。まぁ頑張れ」


 言いたいことだけ言うと鏑木はポンポンと私の肩を叩いて、意気揚々と去って行った。ちょっと待てーーっ!

 断じて私は高校生活の目標に干支をコンプリートなんて間抜けなものは掲げちゃいない!体育祭バカのあんたと一緒にすんな!普通の人はそんな基準で生きちゃいないんだよ!待つんだ、鏑木!


「あの麗華様…。余韻に浸っていらっしゃるところを申し訳ないんですけど、そろそろ急がないと時間が…」


 固まる私に流寧ちゃんが遠慮がちに声を掛けた。は?余韻に浸る?

 離れて様子を窺っていた周囲には、競技の応援の声にかき消されて私達の会話がよく聞きとれていなかったらしい。「鏑木様がこれから出る麗華様を励ましていらしたわ」と羨ましげにうっとりされた。違う!「良かったですわねぇ、麗華様」って流寧ちゃんまで誤解しないで!私はただあのバカに、干支仮装にこだわりを持つ珍妙女の烙印を勝手に押されただけなんだから!

 鏑木のバカのせいで精神力がどっと削られた私は、二人三脚でもパッとしない成績に甘んじるはめになった。流寧ちゃんが「せっかく鏑木様に激励していただいたのに、残念でしたね」と私を慰めた。だから違うってば…。



 なんやかやとありつつも体育祭は終盤になり、そしてとうとう騎馬戦の時間がやってきた。皇帝直々の訓練を受けた騎馬達は鼻息も荒く入場してきた。やはりここが本命か。鏑木も腕を組んで見守っている。

 そこへ同志当て馬が登場した。一際大きくなる声援。ピヴォワーヌの会長とぶつかったといえど、同志当て馬の人気は高い。なぜだ。顔か。

「水崎くーん!」「会長―!」といった声援の中に、「皇子様―!」という声がちらほら聞こえた。皇子様?

 聞けばどうやら私の知らぬ間に、同志当て馬には皇子というあだ名が付けられていたようだ。皇子…。有馬皇子か。

 でも有馬皇子って悲劇の皇子だよね。それってどうなの?あぁでも、有馬皇子ってある意味当て馬ポジションだよね。それなら同志にふさわしいあだ名なのか?イメージ全然違うけど。アフロディーテなみに合ってないけど。

 そんな有馬皇子様は次々に敵のハチマキを取って行く。目指すは鏑木の教えを受けた騎馬のみ!鏑木軍の2騎に挟まれ、絶体絶命の同志当て馬だったが、右手で1騎をなぎ倒し、もう1騎を捨て身の頭突きで潰した。その活躍に、もう応援席は全員立ち上がっての大拍手だ。自分が手塩にかけて育てた配下が負けた鏑木も、厳しい顔をしながらも拍手をしていた。

 あ~ぁ、眉間にシワ寄せちゃって。去年の友柄先輩優勝の時もそうだけどさ、そんなに思い入れがあるなら出りゃいいじゃん。そんなに苦悩した顔しても、考えてる内容はバカすぎるぞ、鏑木。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。