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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 瑞鸞女子の多くが円城、鏑木愛用のタオルと同じものを使っていたが、中には好きな人と同じタオルをこっそり使うという生徒達もいた。さらにはお揃いのタオルをプレゼントして愛を育むなんていう子達まで出てきた。空前の瑞鸞恋のタオルブームである。

 そしてなんと、委員長達4人が同じタオルを使っていた!


「いやぁ、これは別にそういう意味じゃなくて、ただ仲良くなった記念に4人お揃いで買っただけで、吉祥院さんが考えているようなことじゃ全然ないんだよ~」


 委員長に問い質すと照れながら弁解していたが、だったらなぜ私を誘わない。

 私だって岩室君の仮装に協力するメンバーのひとりではないか?そもそも言いだしっぺは私じゃないか?それなのに…。まぁ、みなまで言うまい。いいんじゃないの?楽しそうでさぁ。

 確かに友情の証としてお揃いのタオルを仲良く使う子達もいた。正直羨ましい。

 私は円城とのペアタオルの噂がやっと下火になったので、雪野君からプレゼントされたタオルを学院で使うわけにもいかず、友達の芹香ちゃん達は当然皇帝達とのお揃いタオルを嬉々として使っているので、私はひとり寂しく普通のタオルを使っているのだ。ちぇ~っ。委員長、誘えよ私のことも~。

 するとある日、璃々奈が「これを使いなさいよ!」とわたしの顔面にタオルをぶつけてきた。痛い。

 見るとクリーム色のタオルには赤い糸でR.Kと刺繍がされてあった。璃々奈、あんた…。

 私はありがたくそれを使わせてもらうことにした。あいつめ、可愛いとこあるじゃないか。この私のイニシャル、璃々奈が刺繍したのかな?うん、凄く上手と思うよ。ふふっ。

 体育祭の練習後、手芸部でカバンの中身を整理していると、私が手に持っていたタオルを見て南君が「あっ、それ僕が刺繍して古東さんに贈ったタオル…」と呟いた。

 私は速攻璃々奈の元に走り、不届き者の首をタオルで絞めた。

 璃々奈ーーっ!!あんたって子はぁーーーっ!私のほんわか返せ!






 それよりも若葉ちゃんだ。鏑木は若葉ちゃんと顔を合わせるたびに気安く声を掛ける。時には円城を交えて3人で立ち話をしている姿も見かける。円城はともかく、鏑木が女子の名前を呼ぶのは珍しい。その鏑木が「高道」と名前を呼ぶたびに、皇帝ファンの女の子達は憎しみを滾らせた目で若葉ちゃんを睨みつけていた。

 おかげで若葉ちゃんは水道に行けば水をかけられたり、聞こえよがしの陰口を叩かれたりしていた。

 その日も私が二人三脚の練習後に校庭横の水道前を通ると、その光景が見られた。


「なにあの子の使っているタオル、ずいぶんと安っぽいわねぇ」

「しょうがないじゃない。お金がないのよ」

「あんなの私の家じゃ、掃除にしか使わないわよ」

「やだぁ、それって誰かさんには雑巾で充分ってこと?」


 くすくすと後ろから若葉ちゃんを傷つける言葉をぶつけ嘲笑う子達。しかし若葉ちゃんはそれに聞こえないフリをして淡々と水道で顔を洗っていた。

 すると全く堪えていない様子の若葉ちゃんが気に食わなかったのか、蔓花グループNO2が若葉ちゃんにわざとぶつかり、その拍子に若葉ちゃんのタオルが地面に落ちてしまった。


「あらぁ、ごめんなさ~い」


 そこにすかさずもうひとりが若葉ちゃんに手で掬った水をかけ、若葉ちゃんは前髪から水を滴らせるくらい水浸しになってしまった。しかしその顔を拭くタオルはもうない。ご丁寧に落ちたタオルは踏みつけられ、足型まで付けられていた。

 どうしよう…。助けるべきか。


「行きましょう、麗華様」


 流寧ちゃんが興味ないといった態度で私を促した。うん、でもさ…。

 そこへリレーの練習を終えた男子の集団がやってきた。女子達はその気配を察し、すぐさま若葉ちゃんから離れた。

 男子の中心にいた鏑木が、ぽたぽたと水滴を落としながら手でなんとか顔の水を払っている若葉ちゃんを見つけ眉を上げた。


「なんだお前、その顔。タオル持ってないのか」

「えっと…、落としてしまいまして…」

「なにやってんだ、ばーか。だったらこれ使え」


 鏑木はそう言うと、自分の持っていたタオルを若葉ちゃんに投げた。その瞬間、若葉ちゃんを苛めていた女子達の顔色が変わった。


「えっ!いいです!大丈夫です!」


 若葉ちゃんは周囲の険悪な空気を感じ、慌ててタオルを鏑木に返そうとした。しかし鏑木はそれを受け取らず、


「いいから。それやるよ。あとで返さなくていいから」


 鏑木は片手をあげ若葉ちゃんを制すると、円城達とともにそのまま校舎に入って行ってしまった。

 あとに残された若葉ちゃんは自分のタオルを拾うと、「あの、これ返してきます…」と周りに言い訳するように言って、鏑木を追いかけて行った。


「なによ、あれ!どういうことよ!」


 蔓花さん達の怒声が響いた。

 鏑木…。本当にどういうこと?






 最近面倒なことが多いなぁ。

 鏑木が若葉ちゃんにタオルを貸した事件は、私と円城のペアタオル事件とは比べものにならない大きさで噂になった。

 これに関しては芹香ちゃん達も若葉ちゃんへの嫉妬で連日悪口大会だ。何度か止めようと試みたけれど難しい。

 若葉ちゃんが苛められているのを黙って見ているのはつらい。どうにかしてあげたいけど、出来ない。情けない…。

 ピヴォワーヌのサロンに行けば、就任後めきめきとリーダーシップを発揮し始めた新生徒会長、同志当て馬を苦々しく思う会長の機嫌が思わしくない。


「今期の生徒会はずいぶんと思いあがった連中が多いわね…」

「この間もあの水崎とかいう男、ピヴォワーヌのメンバーに意見してきたらしいぞ。身の程知らずも甚だしい」

「自分達の立場を勘違いして、のぼせあがっているんだわ」

「会長、どうしますか?」


 会長の周りをピヴォワーヌ至上主義のメンバーが囲み、生徒会への今後の対応が話し合われている。


「とりあえず、あちらの出方を見て考えましょう。これ以上ピヴォワーヌを軽んじる態度を取るならば許さないわ」


 怖い…。こっちもどうなるんだろう。


 ほかにもベアたんぬいぐるみの顔が上手く出来ないとか、図書館の君と全くお近づきになれないとか、細かいことはいろいろある。

 そこで私は気分転換にと、休日に散歩に出かけた。

 家から離れた駅で降り、ぶらぶらと散歩をしているといい匂いが漂ってきた。はっ!この匂いは!

 私が鼻をひくつかせて匂いの元と辿っていくと、そこには縁日のいか焼きの出店があった。やっぱり!

 私はいか焼きを買い、その場でぱくついた。おいしいっ!吉祥院麗華になって初めての縁日のいか焼き!おいしーいっ!

 このチープな味、たまらんっ!たこ焼きも食べちゃおうかな。でも今はまず、このいか焼きを完食するぞ!あぁ、おいしいものを食べるとストレスも忘れちゃうよ。

 前世ではよくお祭りで食べたよなぁ。妹のユカちゃんと時々ナル君も一緒に行ってさ。わたあめやべっこう飴も買ったな。りんご飴とか焼きそばも!いろんな種類を食べたいからみんなで分け合って食べたりして。懐かしいなぁ。お父さんはいか焼きが一番好きだったっけ。

 私は久しぶりのいか焼きに我を忘れ、完全に油断していた。


「えっ、吉祥院さん…?!」


 その声に私は血の気が引いた。

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