先週行われた米朝首脳会談について、「トランプ大統領の負け」と判定した解説が多くみられた。
たとえば、大手マスコミの社説は次の通りとなっている。
朝日「初の米朝首脳会談 非核化への重大な責任」(https://www.asahi.com/articles/DA3S13537341.html?ref=editorial_backnumber )
読売「米朝首脳会談 北の核放棄実現へ交渉続けよ」(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180612-OYT1T50151.html)
毎日「史上初の米朝首脳会談 後戻りさせない転換点に」(http://mainichi.jp/articles/20180613/ddm/005/070/051000c)
日経「米朝が真に新たな歴史を刻むには」(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO31693570T10C18A6EA1000/)
産経「米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する」(http://www.sankei.com/column/news/180613/clm1806130001-n1.html)
各紙に共通しているのは、
「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」が合意書に書かれていないこと、かつ。その工程表がつくられていないことである。その一方で、アメリカが北朝鮮の体制保証をしたことが問題だという。
たしかに、合意書には「CVID」は書かれていない。金委員長が「完全な朝鮮半島の非核化(complete denuclearization of the Korean Peninsula)」にコミットしているというのが原文にあるが、CVIDは書かれていない。(https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/joint-statement-president-donald-j-trump-united-states-america-chairman-kim-jong-un-democratic-peoples-republic-korea-singapore-summit/)。
また、過去の6ヵ国協議で、北朝鮮が「朝鮮半島の検証可能な非核化」のため「すべての核兵器と核兵器計画の放棄」を約束したのに比べると、確かに今回は物足りない。
もっとも、この6ヵ国協議では北朝鮮のトップはこれに署名しなかった。さらに言えば、その約束は反故にされている。北朝鮮においては、トップの約束以外は信用できないものである。そう考えると今回、北朝鮮のトップが「完全な非核化」を、世界最強国であるアメリカの大統領と合意したことの意味は大きい。
さらに、日本のマスコミは「アメリカが北朝鮮の体制を保証した」というが、原文では、トランプ大統領は、「安全の保証(security guarantees)」を提供すると書かれており、体制の保証ではない(大手マスコミでは、読売だけが正確に訳している)。
「体制変革(regime change)」という用語はボルトン氏などが使ってきたが、regime は今回の共同声明では、「米朝は、朝鮮半島における継続的かつ安定的な平和体制の構築に努める(The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.)」というところで使われている。
これらをみると、やはりアメリカが北朝鮮の「体制保証」までしたというのは言い過ぎで、「安全の保証」どまりなのである。ニュアンスとしては、米朝の交渉が続いている限りはアメリカから攻撃しないという程度の意味で、北朝鮮の体制維持のために特別なことをするわけではない、というものだ。
逆に言えば、もし米朝間の交渉がうまくいかなければ、再び昨年のように一発触発の状態になっても不思議ではない。実際、トランプ大統領は記者会見後に「1年後、(今回の交渉が)間違いだったと言うかも」と漏らしている。