世界のインターネット企業が陣取り合戦を始めているのが「決済」だ。日本でもヤフーが本格参入するなど、ネット企業や携帯大手の競争が始まっている。ユーザーの財布を一度握ってしまえば自社サービスの「経済圏」に組み込むことが容易だからだ。モバイル決済の普及でリードしているのがアリババ集団など中国企業だ。一方で意外と出遅れているのが米国企業。早くから普及したクレジットカードが技術革新の壁になっているようだ。
現金主義の国からクレジットカード大国まで、決済システムは国ごとに異なる。その中で米国の消費者の決済手段は、他の国の消費者にとっては時代遅れに思えるかもしれない。
例えば、ケニアではスマートフォン(スマホ)でなくても携帯電話さえ持っていれば、誰でも送金サービス「M-Pesa(エムペサ)」を使って送金や買い物の支払い、借り入れができる。ケニアの成人人口のほぼ全てがこのサービスを利用している。
口座の開設にクレジットカードや銀行口座、信用履歴、残高などは不要。国内に数千店ある代理店で現金を渡しさえすれば、自分のモバイルウォレット(財布)に入金してくれる。このシステムはケニアの貧弱な金融インフラを事実上飛び越し、貧困層に金融サービスへのアクセスをもたらし、小売業にも恩恵を与えている。
これに対し、米国ではモバイル決済はまだ広がっていない。
もちろん、その理由はモバイル端末の不足ではない。世界銀行によると、2016年の米国民100人あたりの携帯電話の契約台数は123台だった。16年のある調査では、米グーグルのスマホ決済サービス「グーグルペイ」を認識している米消費者は88%に上ったが、実際に試したことがある人はわずか14%だったことが明らかになった。
エムペサなど発展途上国での決済サービスの台頭は、決済システムを取り巻く状況が明らかに変わりつつあることを示している。
エムペサはケニア通信最大手が手掛けるが、中国で普及している「支付宝(アリペイ)」と「微信支付(ウィーチャットペイ)」は、それぞれネット通販とSNS(交流サイト)傘下の決済サービスだ。
このようなディスラプター(破壊的な変革者)は既存の決済バリューチェーンを根本的に見直している。いずれ消費者や店舗はテクノロジーを優先して仲介者を減らした決済に取り込まれるかもしれないため、米決済事業者が気をもむのもうなずけるのだ。
米国では銀行口座を持っている消費者は93%に上る。世界銀行によると、米民間部門の労働者のほぼ全員が銀行振り込みで賃金を受け取っている。