この話で当初の目標五万文字超えたはず。
御大の非公開小説読めるようなので楽しみです。
えーと。すいません。
予約日時を間違えました。ここから推考と誤字確認をする予定だったのですが……。とりあえずこのままアップしときます。
予告なしに修正入ることをご了承下さい。
街道を一組の男女が歩いている。街道といっても立派なものではない。むき出しになった地面に轍の跡。人が通るから道になった。その程度の道だ。だが一度流れが出来ると物流の要として多くの人が利用するようになる。道路脇には一定間隔に距離標識が置かれ、分岐路には簡素な標識が置かれた。
街道を行く二人には信じられないがこれでも国家事業で整備された道だ。都市と王都を結ぶ主要街道だ。国家の街道と言えば舗装された石畳と先入観がある男性には、これだけでリ・エスティーゼ王国の国力の程度が知れた。
「と言う事で街道一本、マイルストーン一つで、ある程度の国力は推測出来ます。国家規模。人口。軍事力。軍事ドクトリン。文化レベル。産業レベル。その他諸々ですね」
「はい」
黒髪の冴えない風体の男性が、指を立て講義をするように一歩後ろを歩く女性に語りかけている。
「例えばそこに転がっている行き倒れですが、死後三ヶ月程でしょうか。誰にも顧みられる事無く放置されています。治安が余り良くなく、民心は少々荒んでいると推測できます。通常は国家、もしくは領土を持つ貴族家に属する軍事組織が民心の安堵と治安向上の為、定期的に巡回して弔うものなのですが……」
「つまりどういうことでしょうか?」
「貴方の様に美しい女性は特に注意しなければならないと言うことですよ。ナーベラル」
「あ、ありがとうございます。パンドラズ・アクター様」
美しいと言われた女性は頬を少しだけ赤く染めた。
お世辞ではなかった。女性は確かに美しかった。今は簡素なローブで隠れているが長く艷やかで癖のない黒髪をポニーテイルに纏め、髪と同色の瞳は見る者の心を捉えて離さない。白くきめの細かい肌はまるでこの世の汚れを知らない処女雪のようだ。粗末な装束を纏っていても彼女の淑女を思わせる淑やかな雰囲気は失われない。むしろ逆に際立たせている。
切れ長の瞳は今は穏やかに、前を歩く男性を見つめ、二人を知らない者が見れはそこに信頼、もしくは尊敬の意味が込められていると思うことだろう。
戦闘メイド、プレアデスの三女、ナーベラル・ガンマだ。
「ナーベラル。違います。今はサトルです」
「あっ、そうでした。申し訳ありません」
ナーベラルと呼ばれた女性は、洗練された動きで頭を下げた。少々慌てた感はあるが、そこに不快さも粗雑さも感じない。
「それも違います。私達は同郷出身の幼馴染。私は生家の習わしで異国で修行中の行商人。あなたはサトルを心配して護衛をしてくれる冒険者。出世払いなので私は貴方に強く出る事が出来ません。平民の大した商家ではないので、へりくだられると、変に勘ぐられてしまうかもしれません。対等か少し強く当たるくらいが良いでしょう」
「しかし、パンドラズ・アクター様はモモンガ様が唯一直接創造された方です。失礼に当たるのではないでしょうか」
サトルは少し感動していた。会話になっていると。
アルベドの様子から何か問題があるのではないかと少し身構えていた。実際に顔合わせを済まし、言葉を交わすとナーベラルからは尊敬の気持が伝わり、態度や言葉使いもセバスの教育が行き届いているのか、丁寧でサトルへの気配りが感じられる。
ただ問題が無いわけでもない。少しばかり丁寧過ぎるのだ。冒険者は荒くれ者が多い。洗練された動きと口調、そして淑やかな物腰。そんな冒険者は変わり者の貴族の令嬢くらいしかいないだろう。つまり存在しない。外聞を気にする貴族の令嬢がならず者の冒険者になろうものなら家門に泥を塗るようなものだ。ただこれはパンドラズ・アクターが考える常識でこの世界で当てはまるかはこれからの調査で判明する。ただの偏見でもある。
美し過ぎるのも気になる。だがナザリックで人間の
「我々は共に至高の御方に創造されたナザリックの仲間です。失礼だとは思いません。ではもう一度名前を呼んでもらえますか?」
「はい。サトル様」
「敬称は不要です。サトルだけで構いません。あと『はい』も不要です」
二人は、王国の王都とエ・ペスペルを結ぶ街道に魔法で転移し、王都リ・エスティーゼへ向かう途中である。
エ・ランテルとエ・ペスペルは既に恐怖公の眷属が侵入し調査を進めている。本来であれば
もしナザリックが存在し、モモンガの許可が貰えるのであれば、パンドラズ・アクターは消耗可能なモンスターを大量に世界にばらまいただろう。至高の存在が残してくれたユグドラシル金貨は世界中にばらまく程モンスターを召喚したとしてもびくともしない。宝物殿の領域守護者であるパンドラズ・アクターは誰よりそれを知っている。モモンガが持ち帰るユグドラシル金貨を管理していたのはパンドラズ・アクターなのだから。僅かの金貨の消費で貴重な手数が増えるのだから十分に元は取れる。再入手の手段がないとは言え、溜め込んでいるだけでは、貴重な初動での時間を浪費するようなものだ。
もしモモンガがこの世界に共に転移していれば同じことをしていただろう。いや逆にパンドラズ・アクターが想像もできない一手を考えつくかもしれない。きっとそうだ。
「ということでもう一度だけ名前を呼んで下さい」
「はい。パ」
「ぱ?」
「サトルさ……ぁん」
「ふむ……」
ナーベラルは馴れ馴れしく名前を呼んだことが恥ずかしいのか、額に少々、汗の玉が出来ていた。
「『さん』づけだと、少し距離を感じますが、今はいいでしょう。おいおい呼び捨てでお願いします。『はい』も直しておくように」
「はい」
「……最初ですからね。これもおいおいで……」
「……」
サトルは背中の背嚢を背負い直した。中身はエ・ランテルで貴族の屋敷から失敬した貨幣と塩、それと細々した雑貨だ。売るつもりはない。王都の入場で必要なだけで、ただのロールプレイだ。
「あの、サトルッ……の口調はいいのです……いいの?」
「……今の私は行商人ですから。コロコロと態度を変えない方がいいと思いませんか?」
「はい」
「……行きましょうか」
「はいっ!」
王都の入場門でサトルが大きく仰け反り、背中を地面に打ち付けるまであと三時間。
パンドラズ・アクターはその三時間を、街道から得られる情報を考察しながら、ナーベラルに求められるがままに、弐式炎雷に
■
「……申し訳ありません」
扉にほど近い壁際でナーベラルがくすん、といった様子でしょげていた。入場門から始まった一連の一悶着の事だ。パンドラズ・アクターの言いつけの殆どを守れなかった事を反省しているのだろう。
サトルは大事にしまってあった紙に、様々な考察を書き込んでいる所だ。商人レベルが一つ上がった事で新たに得たスキル『報告書作成』を使いながら。
入場門に到達する前、ナーベラルに必要以上に近づいてきた冒険者と思わしき男性五人組をナーベラルが瞬殺した事でサトルのレベルが一つ上がった。この事で新たに得たスキルは『報告書作成』、『接待』、『名刺交換』の三つだ。うち、名刺交換のスキルは一切発動しなかった。キーとなるアイテムが必要となるようだが、それが何かまだ判明していない。
目撃者を含めて八人の死体は仮拠点に転送済みだ。いまごろは美味しく頂かれているだろう。
「いえ、問題ありません。むしろ安心しました。衛兵を殺しかけた時だけは慌てましたが、入ってしまえばなんとでもなります」
王都に到着した二人は、適当な宿を見つけ、一室のみ押さえた。ナーベラルのサトルへの態度がどうしても変わらないと判断し、護衛のアンダーカバーを捨て夫婦に変更したからだ。
元々街道を歩くと決めたのはパンドラズ・アクターだ。現地の生の空気を見て感じたかったからだ。潜入するだけなら魔法で直接転移すればいい。短期の滞在予定とはいえ、冒険者の立場を利用するナーベラルが人間を相手にする態度はむしろ好都合だ。淑女然とした態度よりも殺気を放つくらいが丁度いい。人間に好かれるつもりも英雄になるつもりもないのだから。
当初の想定と違うからといって落胆する必要などない。何事も適材適所だ。能力にあった役割を臨機応変に割り振ればいい。
サトルの言葉でナーベラルは安心したのか、ほっと、表情を緩めた。気配でそれを察したサトルは書物の手を止めて振り返った。
「今日一日で多くの事が判明しました。中でも興味深いのは、この世界で我々にも成長の機会があると言うことです」
「サトル様のことですね」
「……そうです。たがか
「コキュートス様も強者を求めておいででした」
ナーベラルとコキュートスはどういう訳か非常に仲が良い。パンドラズ・アクターも仮拠点でナーベラルが楽しそうにコキュートスと話をしている場にを出くわしたことがある。お互いの勅命を知っていても不思議はない。パンドラズ・アクターはコキュートスの勅命をデミウルゴスから聞いて知っていた。アルベド、デミウルゴスと共に、ナザリックの下僕を護る立場にある一人として必要な事だからだ。
「レベル一〇〇の下僕には当てはまりませんが、それは別のアプローチを考えればいいことです。
「はっ」
不可視化を使い天井に控えていた二匹の巨大な蜘蛛に似たモンスターがすぅっと浮き出るように姿を現した。
「お前たちは、王城、貴族の王都官邸、四大偽神の関連施設、商会、各種組合、特に魔術師組合は念入りに。他に独自に必要だと判断した主要施設に潜入し、要となる人間を洗い出すと同時に、歴史書、技術書、
「はっ」
「高い教養を持つ人間を三人ほど攫っておけ。貴族、平民は問わない。洗脳して文字習得に利用する。いけ。
「はっ」
消えゆく八肢刀の暗殺蟲の声と重なり、サトルの影から三体の影の悪魔が現れる。背中には蝙蝠の羽。剥き出しになった鋭い牙と爪。闇に溶け込む能力を持ち全身を漆黒に染めた
「お前たちは市井に潜り、ありと汎ゆる情報をかき集めろ。政治に関する不満、欲求不満のはけ口、関心事、おとぎ話、諺、慣用句、逸話、説話、昔話、伝説、辻説法、慣習、習慣、噂話に儲け話、世間話に与太話。なんでもいい。全てだ。精査はこちらでする。その上で消えても騒がれない人間を一日で二〇人、生きたまま集めろ。転送はこちらで纏めて行う。お前は残れ。後で別に指示を出す。いけ」
「はっ」
二体の影の悪魔が影を移動し部屋の外へ出ていく。残った一体は、一礼をしてサトルの影に沈んだ。
「とりあえずはこんなところでしょうか」
「あ、えっと」
「どうかしましたか?」
ナーベラルの様子がおかしい。何か伝え忘れたのかとパンドラズ・アクターは考えるが思い当たる節はない。
「申し訳ありません。モモンガ様が語られる様子に少し似ていらしたので驚きました」
外装、サトルの瞳がキラリと輝いた。
「そうでしょうとも! 私もモォモンガ様を意識しましたとも! レベル二のサトルでは、いえ! 例えモモンガッ様の外装に変身したとしても、あの威厳! 迫力! 存在感! 神々しさを再現するのは到底不可能です! ですが! ォモモンガ様に創造された下僕として、僅かでもお側に近付こうと思うのは不敬でしょうか!? いえ! 私はそう思いません! あのデミウルゴスも叶わないと知りつつ、日々精進を続け、モモォンガ様ならこうお考えになる、行動されると熟慮に熟慮を重ね、少しでもモモンガァ様の大いなる叡智の欠片の一端に僅かなりとも近付こうとしています! 私も負けじと努力は続けていますが、未だ道は遠く果てしない! 事情を知らぬ愚かな只人ならば苦難の道を歩む愚か者だと笑うことでしょう! しかし我々はンモモンガ様が我々の努力を笑わないと知っています! ただ静かに見守って下さり結果を出す事でお喜びになる事を知っています! 苦難の道? 否! 断固否! 笑止である! この行為は至幸にして至孝! 至高の存在に創造された我々下僕が苦難だと思うことこそまさに不敬! あえて言おう! これは究極の幸福であると! 忠義を示し敬愛し畏敬するモモンッガ様のお姿を模倣する行為にはいささか躊躇われる気持はあれど、あえて! あえて為すことでウォモンガ様を想い、更なる忠誠を確認する! あぁ! モモッンガ様! 偉大なる御身! 我が身を犠牲に下僕に大いなる慈悲と愛を惜しみなく降り注いで下された至高の
サトルは足を踏み鳴らし、ローブの裾をぶわりと翻し、回転し、振り返り、腕を振り回し、振り上げ、顎を上げ、そして下げ、拳を握りしめ、最後は指を真っ直ぐに伸ばした腕を三〇度の角度で勇ましく前に伸ばした姿勢で固まった。
優雅で力強く洗練された動き。それは見る者を感動させる。或いは呆れされる。或いははドン引き。モモンガであればドン引きした後に羞恥の嵐に見舞われる。
「す……」
「少し熱くなってしまったようです。ふっ、私としたことが」
「素晴らしいです! パンドラズ・アクター様!」
「……私ではありませんよ。モモンガ様が素晴らし過ぎるからです。ナーベラル」
「はい!」
「ということでナーベラルは今から冒険者組合に行き登録をしてきて下さい」
「はい! で、その後は?」
「基本的には冒険者組合に所属する人間がどの程度の力を持っているか、過去まで遡って有名な冒険者、最も力をもつ冒険者の調査。こんな所でしょうか」
「わかりました! お任せ下さい! パンドラズ・アクター様!」
「……頼みますね」
「はい!」
ナーベラルは興奮の余韻を残したまま、部屋を出ていった。遠くで小さく舌打ちする音が何度も聞こえた。
「影の悪魔」
「はっ」
「
「はっ」
「よろしく」
「はっ」
影の悪魔は影を移動し姿を消した。
静かになった室内で、
「サトルなんですけどねぇ……さてさて、今日一日保つでしょうか……」
室内には、かりかりと紙にペンを走らせる音だけが残った。
この日、王都の冒険者組合は物理的に壊滅した。冒険者組合屋舎は見る影もなく崩壊し、破壊された廃材を掘り起こしても死体は一体も発見できなかった。ただ、掘り起こした廃材は炎で焼かれたのか黒く焼け焦げ、電撃で炭化した部分も見受けられた。
不可思議な事にこれだけ大きな事件に関わらず、目撃者はただ一人もいない。
同時期にリ・エスティーゼに現れた珍しい黒髪の非常に美しい女性の姿も消えた。余りの美しさに一時噂になったが、直ぐに立ち消えた。一方黒髪の男性の噂をする者は最初から一人もいない。
【捏造】
①リ・エスティーゼ王国に関する全般。
②外装のレベルアップ。
③捏造じゃないと思いますが、創造された下僕と金貨で召喚するモンスターとの態度の違い。
この欄使って今後少しだけぷち補足しようかと。ネタバレないつもりですが、見たくない人は飛ばして下さい。
前回のシャルティアは勅命を思い出しています。
パンドラは常に演じています。仰け反ってる時も。
リ・エスティーゼ王国に関する裏設定。
今から約一〇〇年前、建国王ランポッサ一世により建国される。破壊の限りを尽くした魔神の爪痕が残るリ・エスティーゼ地方で軍事・政治に才能を見せ、一八人の騎士(後の興国二四翼将の中核)を中核にばったばったと敵を千切っては投げ千切ってはなげのずったんばったん。
建国初期にスレイン法国、およびバハルス帝国と国交を樹立。
政治家としては超有能。でもパパとしては駄目オヤジ。
建国後三〇年でランポッサ一世死去。後継指名に失敗し、一時内乱かというところで、第二王子が不幸な事故に。第一王子ぼんくら。ちな第二王子もぼんくら。傀儡政権で国内混乱。この頃に国を支えた興国二四翼将は代替わり。地方貴族が徐々に力を付け始める。優秀な王子が出る度に謎のぽっくり病。
転移の時期的には王族派と貴族派に明確に別れ始めた初期。以後、力関係は傾いたり戻ったりを繰り返す。
王家が一時力を失った頃を見計らい、政治を合議制に移行。
以後政治は貴族の利権確保のゲーム場と化す。
この頃からスレイン法国呆れ顔。
以下原作世界へ。
つまりライトノベルによくある国。
原作では王国と帝国はナザリック転移の約二〇〇年前に建国。法国は600年前。
帝国は代々優秀な皇帝が国を治めているようです。想像ですが恐らく王国はグダグダ。
時期がはっきりしてませんが一三英雄が活躍した時期と重なっているか、一三英雄が消えた位に建国だと思わます。