少し性表現っぽいのあります。
【訂正】
三話でクリティカルなミスを発見しました。
シャルティアのセリフです。
あの場面であれば、ないわー ないわーって感じです。
臨場感ちょっと増した感あるかも。
内容は変わりません。
「皆も分かっていると思うけど、この
アルベドは会議の参加者を見渡した。
参加者は全員、アルベドの意見に同意し頷いている。
現在、仮拠点は地下八階層まで掘り進められそこで止めている。拠点名すらない。主を仮拠点で迎えるつもりなど無いという意思表示だ。
家具と装飾は最低限だ。鍛冶師と道具創造系魔法を使える下僕が僅かながら所持していたインゴットと触媒を使用して作成した。
ゴーレムであるガルガンチュアとルベドは起動に大量のリソースを必要とするため、転移した場所近くに埋めて封印してある。モモンガを迎えるに相応しい場所が見つかれば改めて掘り起こす予定だ。
『第八階層のあれら』は地下八階層に放り込み下僕の出入りを禁止にしている。移動は大変だったが自由に動かれるよりましだ。
「私達はモモンガ様をお迎えするにあたって、主に相応しい新たな拠点を造る必要があります」
参加者は全員頷いた。
「そしてそこはモモンガ様と私がハネムーンを過ごす素晴らしい新居ともなるのです」
参加者は誰も頷かない。
「場所の選定はとても大事よ。その為にもこの未知の世界を知る必要あります。パンドラズ・アクター」
音を立ててパンドラズ・アクターは立ち上がるとくるりと背を向けた。
「真打ちは最後に登場するもの」
僅かに俯き帽子のつばに手を添える。反対の手は腹部に回し軽く抱き締める謎の姿勢。
「統括殿も分かっておられるようで」
体を捻り、跳ね上がった腕がコートをばさりと翻えさせる。顔にある瞳と思わしき二つの孔がきらりと光った。
「デミウルゴス。代わって頂戴」
「言葉を飾っていましたが、詰まる所彼らはただの食い詰めです。代表者のトーマス・カルネは元ですが冒険者と呼ばれるならず者。文字が読めない事を利用されて開拓の契約を結ばれてしまったようです。他には村を飛び出し貧民街で飲んだくれていた農家の三男以下。女性は元娼婦と奴隷。入植してまだ二年程度です」
ここまで調べるのに半日もかかった。教養もなく彼ら自身が自らの環境を大まかにしか理解していなかった事と、ルプスレギナに手を出そうとした男を、彼女が文字通り生きたまま六つに分けてしまい時間を取られてしまった。死んではいない。彼は今も元気に生きている。右手と左手が逆になってしまったが。
「毎晩盛ってるのに子供がいないのは?」
「育たない。運良く産まれても直ぐに死ぬと。支援が一切なく食料から何もかも足りてません。最初は五〇人以上いたようです」
「ほう。それはいいですね」
デミウルゴスを見てペストーニャは寂しそうに、セバスとユリは僅かに眉を動かした。
「集落で最強と自慢してましたが、トーマス自身の強さは人間として平凡かそれに毛が生えた程度かと。少なくともルプスレギナ嬢一人でも過剰戦力です。ドラゴンを倒した人間もいるとかいないとか。鍛えればある程度は強くなるのでしょう」
「ドラゴンがいるのですか?」
司書長が瞳を輝かせた。捨てる場所がないいい素材だ。
「彼らは見た事がなく、伝え聞いただけのようでした」
司書長は肩を落とした。ただのおとぎ話の可能性もあった。
「所属はリ・エスティーゼ王国と呼ばれる封建国家。領主の名は彼らも知りませんでした。領主様で通るそうです」
パンドラズ・アクターは懐から紙を丁寧に取り出してテーブルの上に広げた。手書きの地図だ。大まかな地形が書き込まれている。
『∪』の字に森が広がり、『∪』の森の下に『✗』が書き込まれている。
パンドラズ・アクターは✗の文字を指で指した。
「ここがカルネ集落。我々の現在地にほど近い。そして」
指をつーと滑らせて一点で止まる。
「この辺りにエ・ランテルと呼ばれる王国の都市があります。彼らは元々この都市にいたそうです」
パンドラズ・アクターの指が地図の上を北西方向に滑り円を描く。
「この辺り一帯がリ・エスティーゼ王国。南へ行くと法国と呼ばれる宗教国家。山脈を挟んで北東に帝国と呼ばれる専制君主国家。全て人間が治める国です。正式な国家名は彼ら自身知りません」
パンドラズ・アクターの指は地図の上を滑っていく。しかしその先は何も書かれていない。
「この先。他にも国があるらしいという事だけは分かりました。人間以外が治める国もあるらしいと。らしいばかりですな」
ルプスレギナの回復魔法を代償に聞き出せた事は少ない。情報と生産拠点としての価値は皆無だが、集落としての背景から利用価値はなくなっていない。デミウルゴスの手にかかれば価値は跳ね上がるに違いない。
「パンドラズ・アクター。ありがとう、もういいわ」
パンドラズ・アクターは優雅に一礼すると地図を丁寧にしまった。
「後は現地で直接調べるのが一番ですぞ」
テーブルの天板から飛び出した恐怖公の触覚がゆらゆらと揺れる。
「そうね……。セバス、人選は任せるわ。貴方は裕福な家庭に仕える執事として帝国に観光に行くの。
「畏まりました」
セバスは表情を一切変えず頭を下げた。
「パンドラズ・アクター」
「はっ」
踵を打ち付けて畏まるパンドラズ・アクター。
「あなたの外装は使えるわ。行商人として王国に潜入。情報を集めるように」
「承りました! して、人選についてですが……」
「前回はルプスレギナと一緒だったわね。彼女でいいかし……」
「出来ればルプスレギナ嬢以外を希望します!」
「あらそう? そう言えばユリはプレアデスを使って欲しいって言ってたわね」
「はい。何かお役に立てる機会を頂ければ。いもう……彼女達もお役に立てると喜ぶと思います」
申し訳なさそうにユリは言う。実際プレアデスも転移後は一般メイドと同様、手持ち無沙汰となっている時間が増えた。何か役に立ちたいというのは本心であった。
「ではセバスと相談して決めるといいわ。セバス、頼んだわよ」
「はい。その事ですがナーベラル・ガンマなどいかがでしょうか?」
「ナーベラルを?」
「はい。パンドラズ・アクター様の外装と髪の色が近いことからナーベラルと同じ、もしくは近い民族であると見られることでしょう。夫婦なり主従なり偽装するのも簡単かと。種族も同じ
セバスの提案を受けてアルベドは少し考える仕草をした。プレアデスと個人的な親交のないパンドラズ・アクターとしてはセバスの提案に否やはない。プレアデスのリーダー、セバスが適任だと推薦するのであれば受けるのに吝かではない。
「統括殿! 私はナーベラル嬢で構いません」
「そう? 貴方がいいのなら私は何も言わないわ」
少し気になる言い方だが、おいおい分かる事だろう。親交を深めるいい機会でもある。パンドラズ・アクターは流す事にした。流すことにした!
「ナーベナルはレベル六三の魔法職よ。サトルの外装はレベル一だから表向きは彼女に守ってもらうのね。
「お心遣い、感謝致します」
パンドラズ・アクターはアルベドとセバスに少し控えめに頭を下げた。
「アルベド、ちょっといいかな?」
ここまで黙って静観していたアウラが機を見計らって軽く手を振った。
「いいわよ」
「さっきの地図の何も書かれてなかった先の事なんだけど、あたしとマーレで調べてもいいかな?」
「マーレ? 元々アウラに頼もうとは思ってたけど……」
マーレはアウラの弟だ。ぶくぶく茶釜にそうあれと創造され、性格は引っ込み思案でアウラの背中に隠れて気が弱そうなところを見せる。探索や調査に向く性格とは思えない。
「マーレはあたしが言えばついてくるけど、この話を聞けば自分で言い出すと思うんだ」
消極的なマーレが自ら動こうとする理由。思い当たるのは一つしか無い。
「そう……モモンガ様ね……」
「そそ。二人でね、世界中を旅して、見て、聞いて、感じて、一杯知って欲しいって言われたんだ! それでさ! いつかモモンガ様が戻られた時にマーレと二人で一杯お話してあげるんだ!」
アウラは瞳をキラキラと輝かせながら、モモンガの
モモンガの勅命は何を置いても第一に優先される事項だ。アルベドに止める事は出来ない。するつもりもない。だが少々問題もある。アウラは仮拠点周辺外縁の防衛、マーレは落ち着いているとはいえ、仮拠点の造成の要だ。シフトの変更は可能だが長期に渡り脱落されるのは時期的に少々まずい。
「もしかしてずっと帰ってこないんじゃないかとか思ってる?」
アルベドの思案顔をみてアウラが呆れた顔ををした。
「えぇ、だって世界中を旅するって言ったじゃない」
「アルベドらしくないなぁ。今回は練習。あたしだって今の状況ちゃんとわかってるし」
「そう……」
「そうそう。それにねモモンガ様からちゃんと帰ってくるように言われてるし。みんなのいるところ? モモンガ様のいるところがあたし達の帰る場所だしね。マーレがモモンガ様の帰る場所をちゃんと作らないとあたし達迷子になっちゃうよ」
陽性の闇妖精。
天真爛漫な性格のアウラは、その時々の感情で表情はコロコロと変わる。今のアウラはモモンガを想い、勅命を想い、ナザリックの下僕達を思っている。ベクトルは違うがアルベドには明るく笑うアウラの心情を理解出来た。
「わかったわ。二人にお願いするわ」
「りょーかいー。まっかせてよ!」
ぶいっと二本の指を立てるアウラ。
「あっ、司書長、帰りにネズミを回収してくるから」
司書長は頭を下げ謝意を示した。
アルベドはこの件について深く考えることはしなかったが、デミウルゴスは違うようだ。何か驚いた顔をしている。彼なりに思う所があるのだろう。
主にデミウルゴスの気持を切り替えるため、アルベドが、ぱんっと両掌を合わせて音を立てた。
「最後は法国だけど……」
「我輩の出番でありますな!」
恐怖公が椅子に立ち上がった。座った姿勢では全身は見えなかったが椅子に立てば関係ない。張り切っているのか中肢と後肢をわきわきと動かし、腹部にある蛇腹状の腹節がうごめきキシャキシャと音を立てた。触覚は忙しなく動きシュルシュルと鞭のようにしなっている。
「うげっ!」
「うぐっ!」
「うっ!」
「きゃん!……わん」
四名の女性がかろうじて悲鳴を抑える事に成功した。
「宗教と魔法は切っても切り離せない関係でありますからな。我輩の眷属であれば怪しまれることは一切ありませんぞ。デミウルゴス殿の言われた通りでしたな。絶好の機会を与えて下さり感謝いたしますぞ」
「恐怖公が適任だね。病気の媒介だけは注意してくれたまえ。数が減ってしまうと勿体無いからね」
「分かりましたぞ」
「きょ、恐怖公……お願いね」
アルベドは声をかけるべきではなかった。恐怖公はマントをしている。アルベドの位置からは体は概ねマントで隠れていたのだ。
隠れていたのだ。
礼儀として恐怖公は体をアルベドの正面に向け直した。わきわき、キシャキシャ、シュルシュル。
「お任せくだされ。必ずやご期待に応えてみせますぞ」
恐怖公にっこり。
わきわき、キシャキシャ、シュルシュル。
■
五日後。
「あぁぁぁぁ……幸せだよう……ずっとこうしていたい……」
恍惚の表情を浮かべる一人のメイド。掌に握ったそれを上に、下に。規則正しく一定のリズムでこすり続ける。こする度に我慢できなくなり声が上がってしまう。
「あぁぁ……気持いいよう……癖になっちゃう……」
時に位置と角度を変え一心不乱に。紅潮した頬に汗が伝い、元々の美貌もあり、得も知れぬ色香を放つ。
叶うなら唇を押し付け、口腔で蠢く舌を這わせてみたい。しかしそんな事が許されるはずがない。
「あぁぁん……止まらないよう……どうしよう、止まらないよう……でも……気持いぃぃ……」
一般メイドのシクススだ。
一般メイドの種族は
シクススは転移初日、モモンガの不在を伝えられ意識を失った。最後まで残った慈悲深き主に新天地でも仕える事が出来る。そう信じて疑わなかった。
シクススは余りのショックに体調を崩した。畏れ多くも転移前に直接
体調を取り戻しても心は塞ぎ、しかも仕事は激減した。側にいられなくとも間接的にでも例え僅かでもモモンガのお役に立てる事が出来るというナザリックのメイドとして誇りすら得られない毎日。
しかしシクススは立ち直った。
――ははは。シクススみたいな可愛らしいメイドが時々でいいから甲斐甲斐しく世話してくれる生活……なんてな……
命を断とうと思い悩む事もあったが、それは不敬だと今は理解している。いつかモモンガが帰還し、お顔を拝む事ができなくとも気配を感じられる事が出来るのであれば、シクススは待つことが出来る。モモンガは約束してくれたのだから。
「んっ、んっ、んふっ、んはぁ」
汗が滴り落ちるが気にならない。それどころか心地よいとまで感じてしまう。主に奉仕する喜び。シクススは今それを思いだしていた。
立ち直っても寂しく思うことは避けられない。そんな矢先の事だった。この行為に出会ったのは。
「もう! いい加減代わってよー! もう10分以上経ってるよー!」
「そうよ。私もずっと待ってるのに」
一般メイドのフォアイルとリュミエールだ。活発そうな外見のフォアイルと清楚な雰囲気のリュミエール。シクススはこの二人と仲が良い。しかし今はライバルだ。
「あと少し。お願い! あと少しなの!」
「あと少しでなんなのさー。私は一時間も待ってるんだよー」
「相変わらず嘘が下手。せいぜい二〇分」
フォアイルの嘘にリュミエールがツッコミを入れる。
「あぁぁ……私のモモンガ様……」
「あなたのじゃないし。不敬よ?」
シクススは手にしたそれをフォアイルにガラス細工を手渡すよう、丁寧に手渡した。
「モモンガ様! お待たせ致しました! 今お磨き致します!」
フォアイルは手渡されたそれを大事に持つと、自身が所有する一番清潔な布巾できゅっきゅっと磨き始めた。
「はぁぁぁ……幸せー……」
「あぁ! 私のモモンガ様が!」
「だから貴方のじゃない」
フォアイルが手にしているのはモモンガの像だ。デミウルゴスと司書長の厳しい監修の下、鍛冶長が自ら丹精込めて作り上げたモモンガ像の内の一体だ。しかも素材は鍛治長が大事に隠し持っていた、モモンガ自ら入手した貴重なインゴットで製作されている。
限りある貴重なインゴットを使ったモモンガ像は合計で三体作られた。
ナザリックの支配者であるオーバーロード。
ユグドラシルで頭角を表し始めた頃の
支配者への運命を歩み始めた直後のスケルトンメイジ。
人気は勿論支配者としての
フォアイルは至福の表情を浮かべながら
しかしメイドは奉仕する者。モモンガ像を磨いても磨いてもいくら磨いても磨き足りない。いつまでも磨き続けたい。
「モモンガ様、素敵……」
ファアイルは吐息をモモンガ像に吹きかけキュッと磨いた。
「!! それは駄目。不敬よ」
リュミエールが咎める。モモンガ様に吐息を吹きかけるなど想像の埒外だった。だがこの時この瞬間、メイド達は歴史の転換点の大きな流れの中にいた。
御本人には不可能でも、モモンガ像ならギリギリ許されるべき範囲なのではないか。そうしてここに新たな文化が生まれた。
この文化は『磨道』として幾つかの流派を生み出す。その時まであと三〇日。メイドの業は深い。
「あなた達、いつまで磨いているのですか。わん」
「メイド長! あと少しだけ!」
ペストーニャが現れた。モモンガ像磨きは一人一日一〇分と取り決めがされている。そうでもしなければいつまでも磨いているからだ。
「少なくなったとはいえ、仕事はあるのですよ。いつまでも磨いていないで仕事にもどりなさい。わん」
「ふぇーん。モモンガ様ぁ。また明日、磨いて差し上げますのでー」
メイド達はモモンガ像への別れを口々にして一人、また一人と後ろ髪を引かれる思いで消えていく。
やがて一般メイドは誰もいなくなった。
「全く。デミウルゴス様も罪づくりだわん……」
提案したのはペストーニャだが、材料から厳選する妥協を許さない物造り精神がメイドを魅了する逸品を作り上げてしまった。
ペストーニャは右を見て左を見て上を見て下を見てまた右を見た。
誰もいない。ペストーニャただ一人だ。
おもむろに
ペストーニャ一人しかいない空間に、キュッ、キュッと何かを磨く音が響く。
磨道ペストーニャ派は地下に潜るが潜在的な勢力は最大派閥となる事をこの時はまだ誰も知らない。
メイドの業は深い。
【捏造】
①ルベドはゴーレムではないかとの検証があり、本作ではその案を採用。ガルガンチュアと同様に大量のユグドラシル金貨プラスアルファがないと起動しないという捏造設定の下、オーレオールと同様オリキャラ化を回避。
②『第八階層のあれら』について一部捏造。放り込んでオリキャラ化回避。
③カルネ集落に関するほぼ全般
(カルネ村の歴史は100年(102年))
【訂正】
王国の奴隷制度はラナー王女の献策で表向きは廃止され廃れています。
時代背景的に奴隷は普通にいます。
ルプーは月に数日、カルネ集落でこっそり布教活動中。
死亡率低下、着床率大幅上昇。神官として忙しくも充溢した日々を送っています(白目
恐怖公の眷属がいることはすっかり忘れてます。(合掌