今月上旬、専門家による調査チームが、立山連峰に入りました。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「今年は(穴が)ものすごく大きくあいてますね。」
今回調査する“ムーラン”です。
姿を現わした入り口の直径は、およそ5メートルにもなります。
なぜ、硬い氷にこんな穴があいたのか。
その理由は、雨やこの雪解け水。
長い年月をかけて流れ込み、氷を削ることで、たて穴ができたのです。
水が、うずを巻きながら氷を削っていく様子を例えて、フランス語で“風車”を意味する“ムーラン”と呼ばれています。
立山連峰で長年ムーランを研究してきた調査チームのリーダー、飯田肇さんです。
27年前の調査に参加した1人です。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「どんな様子にかわっているか期待している。」
氷の壁を垂直に降りるムーランの調査には、落下など危険が伴います。
登山道具に加え、救助活動に使うワイヤーやウインチを駆使して臨みます。
いよいよムーランの中へ。
飯田さんに続き、カメラマンもムーランに入りました。
ロープを頼りに、少しずつ、慎重におりていきます。
入り口を降りると、穴は大人が1人やっと通れる程度の広さです。
まず目に入ったのは、氷の表面にできた、しま模様。
まるで氷の地層です。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「15メートル30から15メートル10まで、20センチの汚れ層。」
氷の層を一つ一つ記録することで、過去の調査と比較し、気候変動による影響を調べます。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「潜るにつれて古くなっていく、タイムトラベルしているような、そういうロマンがありますね。」
入り口から5メートル。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「ここに岩の層があります。」
ここは、27年前の調査で、意外な事実が分かった場所です。
氷の中にあらわれた岩の層。
岩より上にある氷は、およそ50年前にできたもの。
しかし、すぐ下にある層は、900年前に形成されたものだとわかったのです。
50年前と900年前。
岩の層を挟んで、850年もの空白が生まれていたのです。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「非常に不思議ですね。
この時期に大きな自然現象、大地震が起きて山が大きく崩れたとか。
何か起きたんじゃないかと考えられていますが、まだ詳しいことはよく分かっていません。」
入り口からおよそ10メートル。
地上の光は、ほとんど届かなくなりました。
調査しながら降りること1時間。
ついに、ムーランの底にたどりつきました。
入り口からおよそ20メートル。
直径2メートルほどの空間が広がるムーランの底には、岩肌がのぞいていました。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「底のほうで氷が少し溶けたかなと考えていますが、大きな構造は変化していません。」
ここの氷は、1700年前にできたものだと考えられています。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「今回、氷を採取して、新たに分析したい。」
立山連峰のふもとにある研究室。
一番底の部分から切り出した、氷の断片です。
透明な氷の中には、無数の気泡が見られました。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「かなり古い昔の空気と考えられます。
雪が降ったころの空気。」
この気泡が含むメタンの量などを調べることで、1700年前、どのような気候だったのか解明したいと考えています。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 飯田肇さん
「人が中に入って調査できる、1000年以上の時間をタイムスリップしながら、底に降りて調査できる貴重なムーラン。
また10年後、20年後に出てきてくれれば、底の景色を眺めて過去と比較できたらなと思います。」
はるか昔の記憶が眠るムーラン。
その神秘と謎に迫ろうという挑戦が続いています。