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2018年6月17日日曜日

図書館司書の非正規化

 雇用の非正規化が進んでいますが,官の世界,教育の領域もそれを免れてはいません。蓋を開けてみると,民間よりも酷いくらいです。

 教育は学校教育と社会教育に分かれますが,とりわけ後者を担う人材の非正規化は凄まじい。全国のどの自治体にもある,代表的な社会教育施設は図書館ですが,そこには司書という職員が置かれます。図書館法で定められた資格を要する,れっきとした専門職です。

 近年,司書の非正規化はものすごい勢いで進んでいます。ツイッターで,司書の非正規率マップの変化を発信したところ,かなり注目を集めています。肌感覚が数値化された,という思いなのでしょう。

 いろいろリプもついていますが,指定管理図書館の司書も加えたほうが正確だ,というご意見をいただきました。なるほど,そういう図書館が増えていますよね。公共施設の管理・運営を民間業者に委託できる,という制度です。
https://twitter.com/dellganov/status/1007598307806363649

 私は多摩市にいた頃,お隣の府中市の中央図書館によく行きましたが,ここは指定管理図書館のようで,黒いユニフォームを着た業者のスタッフが来館者の対応に当たっていました。おそらくは,ほぼ全てが非正規雇用の人たちだと思われます。上記リンクのリプによると,95%はそうではないかと。

 指定管理図書館の司書も分子に加えたら,司書の非正規率はもっと悲惨なものになります。計算し直しましたので,結果をご報告いたしましょう。資料は,文科省の『社会教育調査』です。図書館司書の数を,雇用形態別に知ることができます。下の表は,1999年と2015年の全国データです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm


 前世紀の末から最近にかけて,司書の数は9783人から1万9015人に増えています,倍近くの増加です。少子高齢化に伴い,生涯学習の重要性が認識されたこともあるでしょう。

 しかし増分は,直営の非常勤司書(c)と指定管理図書館の司書(d)によるもので,直営の専任司書(a)は減っています。司書の数は増えていますが,雇用形態の組成が大きく変わっている。安上がりの非正規が激増していますので,トータルの人件費はさぞ浮いているのでしょう。

 非正規比率を出すには,cとdを分子にすればいいと思いますが,指定管理図書館の司書の95%を非正規とみなし,以下の式で計算することにします。

 非正規率=( c + 0.95d )/ e

 これによると,1999年の非正規率は23.2%,2015年は69.4%となります。すごい増加ですね。最近では,図書館司書の7割が不安定な非正規雇用であると。

 これは全国の数値ですが,都道府県別にみると大きな地域差があります。1999年では,47都道府県の分布幅は,4.6%~56.1%でした。しかし2015年になると,最も小さい県でも45.8%,半分近くです。では最高値(MAX)は…。両年の都道府県別数値を高い順に配列した表をご覧いただきましょう。


 50%(半分)を超える県にはをつけましたが,2015年では44の県が染まってしまっています。濃い色は8割を超える県で,最高の熊本では83.8%にもなります。図書館職員全体ではなく,司書という専門職でコレです。

 司書の非正規率が半分を超える県に色を付けた地図にすると,地獄絵図ともいえる模様になります。前世紀末からの変化はあまりにも大きい。


 財政難により致し方ない面もあるとはいえ,ここまでナタをふるっていいものか。非正規は給与も低く,社会保障もありません。人間らしい暮らしが担保されるなら,柔軟な働き方ができる非正規も悪くないと思えますが,現状はそれから大きく隔たっています。

 図書館の機能遂行にも影響が及ぶでしょう。図書の賃借業務だけでなく,利用者の学習をサポートする専門力量が求められる司書ですが,非正規の人たちはどういう思いで働いているのか。

 私は前居の図書館で,ちょっと専門的な質問をしたところ,「今日は専任の人が休みなんで…」と尻込みされたことがあります。よく見ると名札に「臨時」と書いてありましたが,「非正規の自分が出しゃばったことをしてはいけない」と,要らぬブレーキをかけているように感じられました。ネームプレートは自我の源泉といいますが,こういう名札は止めたほうがいいと思いましたね。

 正規との給与格差による不満,長期的視野に立った力量形成(研修)機会の不足といった問題もあるでしょう。

 社会の変化がますます速くなり,少子高齢化も進む中,学校教育よりも社会教育の領分が大きくなってきます。その中核となるのが,全国津々浦々に設置された,学習のセンターである公共図書館です。そこで働く職員が,非正規化の先鋒を行ってしまっている。

 司書と並ぶ社会教育の専門職として,博物館の学芸員もありますが,この職業の非正規率もスゴイ。思うに,これらの職業の専門性がよく認識されていないのでしょう。文化国家を名乗るならば,人々の生涯にわたる学習を支える仕事の専門性について議論を突き詰め,待遇についても考え直したいものです。

 諸外国ではどうなっているのか。社会教育職員の国際比較という類の研究があったら,見てみたいと思います。

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