西田宗千佳のトレンドノート:「コミュニティ」こそがゲームの命、E3 2018から見えた今のゲーム業界
- 2018/06/17
- 西田宗千佳
E3会場となったロサンゼルス・コンベンションセンター
今年も米・ロサンゼルスで、ゲーム関連展示会「E3 2018」が開催された。E3は世界最大規模のゲーム展示会だが、ここ数年、ありかたが変化してきている。
今年はそれがより明確になった。業界関係者のためのイベントというよりも、ゲームファン、それもゲームを介したコミュニティを重視したイベントになっている印象が強い。
ゲーム市場を支えるファン、特にアメリカのファンがどういう状況にあり、そこからゲームメーカーがどう変化しようとしているかをまとめた。
厚いファン層のいるゲームの強さが目立つ
E3にしても東京ゲームショウにしても、注目されるタイトル、特に人気の高いタイトルは存在する。今年の場合も、各社期待の大型タイトルには、多くのゲームファンが注目し、長い行列を作っていた。
例えば、任天堂の「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」は、ブースも終始行列が絶えない人気ぶり。アメリカのゲームメディア・IGNが調べた「E3で発表されたゲームの中で、もっとも人気があるゲーム(同社E3関連記事の閲覧量から算定)」に選ばれたのも、この作品だった。
同様に、Bethesdaの「Fallout 76」も人気作品の最新作だけに、話題が豊富だった。
任天堂ブースの「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」試遊台の前。圧倒的な人気ぶりで、任天堂ブランドの強さと同ゲームの支持の厚さを感じただが、筆者が驚いたのはまた別のゲームだ。それは「Fortnite」である。この作品、別に新作ではない。基本プレイ無料の作品として日本でも人気が出始めている。
だが、アメリカでの支持は圧倒的だ。運営元のEpic Gamesは、自社のブースをFortnite一色に染めた。試遊もできるのだが、盛り上がっているのはそこではない。ブースがお祭り状態なのだ。ポップコーンを配り、ロデオマシーンがあり、記念撮影ができる。オリジナルグッズのストアも奥にある。
Fortniteの人気はすさまじい。E3会場では、至るところでゲームをプレイし、それを実況するイベントが行われている。ゲーム実況配信が大きなビジネスになっているからだ。そこでは新作をプレビュー的に配信する行為も行われているが、現在の人気作の実況の方が目立つ。そこではやはり、Fortniteの姿が多かった。
また、ゲーマー向けの「高級椅子」や各種グッズを売る企業も出展しているが、そこでも目立ったのはFortniteである。
Epic Gamesは、E3会場外でFortnite関連のイベントを展開していた。2万人収容のサッカー場を借り切り、プロゲーマー50人・アマチュア50人がタッグを組んで戦う、プロアマチャリティートーナメントを開催した。その観戦には数百人のファンが招待され、ネットで生配信された中継は、のべ100万人の視聴者を集めたという。
なぜE3は「商談会」から「お祭り」になっていくのか
このことは、単に「Fortniteの人気が高い」ということを示しているわけではない。そもそも、E3のFortniteブースには、新しい情報はないのだ。だがそれでも、ゲームファンは好きなゲームの「お祭り」に参加すべく、E3にやってくる。
我々はこれまでの経験から、ゲームのイベントは「新しい情報を出す場」だと我々は思っている。だが、Fortniteの例を見れば、それだけが重要なのではないことが見えてくる。
そういう視点で見ると、E3のゲーム展示が新しい情報をゲーマーに伝えることから、ゲーマーを楽しませ、その様子が広く伝わるように工夫する形になっていることに気付く。試遊スペースもあるが、ゲームキャラとの記念撮影や画像合成ができる場所も多いし、通路にはゾンビも歩いている。
「Fallout 76」を展示するBethesdaのブースでは、帽子やお面を配り、こちらもお祭りのような仕立てになっている。これも、記念撮影をしてもらうためのしくみだ。
そうやって撮影された写真がSNSを介して拡散していけば、結果的にゲームのプロモーションになる。そしてなにより、来場したゲームファンは楽しい。
E3会場では至る所でゾンビの姿を見る。それだけゾンビをテーマにしたゲームが多い、ということなのだが、どれもリアルでけっこう怖い日本内外にファンを持つ小島秀夫監督の最新作「Dead Stranding」の主人公、ノーマン・リーダス演じる「サム」の精巧な蝋人形。ここでも記念撮影を撮影する人の列が途切れなかった床に寝そべってポーズをとると、鏡をつかって「ビルを登っている」ように見える。9月にSIEが発売を予定している「スパイダーマン」のプロモーションE3は元々、ゲーム業界関係者の「商談会」だった。年末に出るゲームをメーカーが、小売店や流通の人々、もしくはプレス関係者に売り込むためのイベントだった。
だが、ゲームの流通は、プラットフォーマーを通じたオンライン配信が中心で、小売店への依存度は減っている。情報についても、メーカー自身が発信することが可能な今、メディアへの依存度は減った。
また、YouTuberやブロガー、ゲーム実況者などの「ファン」の力も強くなっている。
会場からゲームの実況や開発者インタビューを配信するところも多かった。それだけ「ネットの向こうのゲーマー」を意識しているのだゲームのトーナメント戦を中継するところも。このスマホゲームの場合、通信会社のAT&TとPC・スマホメーカーのRazerがスポンサーになって大々的に展開した過去のような構造だと、関係者に効率的に情報を伝えることがベストだった。だが、今のような形ならば、ゲームメーカーにとっては、自社で情報をネット配信しつつ、ファンにゲームを楽しんでもらうことも重要な要素になる。
すなわち、ネット配信でゲームの情報を得たいと思うファンを含めた「ゲームを巡るコミュニティ」を大切にすることが重要なのである。
コミュニティが長く続くことがゲームからの収益を決める
このことは、ゲームビジネスの収益変化と、無縁ではない。ソニー・インタラクティブエンターテインメントやマイクロソフトは、自社のゲーム機向けのネットサービスを有料化し、収益性を高めている。
ソニーの2017年度のゲーム関連の売り上げは約1兆9000億円だったが、そのうちネットワークの売り上げは1兆円だった。こうした収益が、ハードウエアの販売後も継続的に入ってくることになるので、ファンとの関係を継続することが、なにより重要になってくる。任天堂もネットワークサービスを9月から有料化する予定で、同じようなビジネスモデルになっていくと予想される。
プラットフォーマー以外も、ゲームをプレイする時間が長くなり、サービス化していくと、そこには新しい収益がついてくる。前出のFortniteは好例だ。Fortniteは基本プレイ無料だが、自分のキャラクターを彩るアイテムを買うことで収益が出る。
スマホ用アプリの場合には、アイテムを得るためのいわゆる「ガチャ」的なものが多く、PCやゲーム機の場合にも採り入れるものが出てきた。だが、射幸心を煽りやすいことから、特に海外ではあまり好まれておらず、非難の対象になることもある。射幸心を煽るよりも「コミュニティ」を重視し、長期的な関係を築くものの方が成功した時の収益は大きくなりやすい。
日本でも、長期的な成功を実現しているタイトルは、単にガチャに頼ることなく、ファンの支持を軸にしたコミュニティ形成に力を注いでいる。
ゲームの寿命はハードで決まるものではなく、むしろコミュニティの寿命で決まる。
E3の変化は、それをゲームメーカーが強く意識していることから生まれているのだ。