『未来世紀ブラジル』(1985)や『12モンキーズ』(1996)などで知られる鬼才テリー・ギリアムが、新作映画『ドン・キホーテを殺した男(邦題未定、原題:The Man Who Killed Don Quixote)』の権利を失ったことがわかった。
『ドン・キホーテを殺した男』は、ギリアムが約19年の歳月を費やしてきた悲願の作品だ。2000年に製作が始められて以来、あらゆるトラブルによって完成に至っておらず、2002年にはその舞台裏がドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラ・マンチャ』としてまとめられているほど。2017年6月に悲願を達成して撮影が終了、2018年5月にはカンヌ国際映画祭でワールド・プレミア上映が実現、フランスにて劇場公開されていた。
しかし本作がカンヌ映画祭で上映されることが決まったのち、ギリアムはかつてのプロデューサーから訴訟を起こされている。2016年当時、『ドン・キホーテを殺した男』でプロデューサーを務めることになっていたパウロ・ブランコ氏は、ギリアムとの間に「資金を調達するかわりに、映画の権利はパウロ氏が保有する」という契約を結んでいたのだ。しかしギリアムや製作陣は、結局ブランコ氏は資金を調達していないため、この主張は通らないと考えてきた。カンヌ映画祭側も、上映の妨害にすぎないと訴訟を批判していたのである。
ところが2018年6月15日(現地時間)、フランス・パリの裁判所は『ドン・キホーテを殺した男』の権利はブランコ氏にあるとの判決を下した。ギリアム監督は、ブランコ氏の製作会社であるAlfama Films社が提訴に費やした10,000ユーロ(約129万円※1ユーロ約128.5円換算)を同社に対して支払うよう命じられている。
英Screen International誌の取材に対して、ブランコ氏は「作品の権利はすべてAlfama Filmsが保有しており、この映画は違法に製作されたもの」であると述べ、「現在までの公開もすべて違法」だとした。ブランコ氏はギリアム監督のほか、プロデューサーや映画会社、配給会社、さらにはカンヌ映画祭に対して損害賠償を請求すると発言。本作の米国配給を担当する予定だったAmazon Studiosはカンヌ映画祭での上映に先がけてプロジェクトを離脱していたが、明らかにギリアム監督が敗訴する可能性を見越した判断だったのだ。
ブランコ氏が作品の権利を保有することが認められた今、『ドン・キホーテを殺した男』の世界各国における劇場公開がどうなるかは一切わからない。すべてはブランコ氏やAlfama Filmsにいったん託された状況であり、新たに配給会社が探される可能性はあるが、ブランコ氏の宣言通りに賠償請求が行われる場合、ごく近い将来の劇場公開は難しいだろう。また米The Playlistは、もしブランコ氏のもとで本作が公開される場合、出演者やスタッフがどのような姿勢で応じるかという問題もあると記している。ギリアム監督が長い時間をかけて継続してきたプロジェクトは、まだ当面終わりを迎えそうにない。
Sources: Screen International, The Playlist
Eyecatch Image: Photo by Vegafi Remixed by THE RIVER