人形峠製レンガの安全性
1.原料掘削土について
人形峠製レンガの原料である掘削土は、過去のウラン探鉱に伴う坑道掘削作業の工程で、ウラン鉱床にたどりつく手前までに掘り出した自然にある岩石、土砂の一部です。人形峠製レンガに含まれる放射能の濃度は安全上規制の必要がない極めて低いレベルであり、また、その放射線量は、花崗岩などと同じ程度です。
今般の原料は、鳥取県の湯梨浜(ゆりはま)町にある方面(かたも)捨石たい積場から撤去した約3,000立方メートルのうち、放射線量が極めて低い約2,710立方メートルです。
人形峠製レンガは、これを有益なものとして使うため、加工したものです。
なお、放射線量がウラン鉱石のように比較的高い約290立方メートルは、米国に搬出し、現地で製錬し処理を終了しています。

人形峠製レンガの原料となる約2,710立方メートルの掘削土は、方面捨石たい積場で土のう2,640袋に袋詰めして、人形峠レンガ加工場の原料保管場へ運搬し、順次、レンガに加工しています。保管する際に、すべての土のう袋について、表面の放射線量率を測定した結果、その平均は約0.28マイクロシーベルト/時となっています。
* 1マイクロシーベルト=0.001ミリシーベルト

写真1 人形峠レンガ加工場及び原料掘削土保管場
写真2 原料掘削土の
土のう袋放射線測定
財団法人原子力安全技術センターによる物性確認試験で、製品のレンガは、その放射能濃度が0.57ベクレル/グラムであり、規制対象となる濃度(74ベクレル/グラム)を下回っていることから、原子炉等規制法の対象外です。なお、この放射能濃度は、国際原子力機関(IAEA)が定めている規制を必要とするレベル(1ベクレル/グラム)や、文部科学省が定める「ウラン又はトリウムを含む原材料、製品等の安全確保に関するガイドライン」(平成21年6月)の対象となるレベル(1ベクレル/グラム)と比較しても半分程度の値です。
また、レンガ表面の放射線量率は平均0.22マイクロシーベルト/時であり、花崗岩(みかげ石、高いもので0.2マイクロシーベルト/時)程度の値です。
放射線等の測定データ
原料掘削土にはわずかですがウランが含まれていることから、レンガ製品の放射線等の測定を行い、以下のデータが得られています。
○ウラン濃度;0.57ベクレル/グラム
(国際原子力機関の規制除外レベル; 1.0)
○ウラン溶出量; 8×10-7ベクレル/立方センチメートル
(参考基準値; 2×10-2 、一般河川水; 1×10-5 )
○模擬歩道(2m×2m)試験
表面の放射線量;平均0.22マイクロシーベルト/時
(自然放射線を含む)
ラドン散逸率 ;毎秒0.013ベクレル/平方メートル
(一般土壌と同程度)
また、土壌汚染対策法の基準値以上の特定有害物質は、確認されていません。
2.物性確認試験について
原子力機構は、人形峠製レンガの物性確認試験を第三者機関である財団法人原子力安全技術センターに依頼しました。原子力安全技術センターでは、同センターが委嘱した専門家(第三者評価委員会)に以下の結果を示し、その審議・検討結果を踏まえ、人形峠製レンガは、一般に使用するに当たり、放射線上及び性能上、特に留意すべきことはないと判断しています。
- レンガの均質性
調整原料やレンガ製品の表面線量などの測定結果から、原料が均質化されており、放射線量に偏りのないレンガ製品が製造可能。
- レンガの性能
外観、寸法、吸水率、圧縮強さは、「普通れんが」のJIS規格に準じた性能を確認。
- ウラン等の含有量
平均ウラン濃度は原料で0.67ベクレル/グラム、レンガ製品で0.57ベクレル/グラムであり、国際原子力機関(IAEA)が定める規制除外のための放射能レベル1ベクレル/グラムを下回っている。土壌汚染対策法の基準値以上の特定有害物質は確認されなかった。
- ウラン等の溶出試験
ウラン鉱山等の施設から一般地域へ排出される場合の排水基準を参考にして比較すると、ウランで約10,000分の1、ラジウムで約100分の1であった。
岡山大学病院三朝医療センターに
敷設された模擬歩道
- ラドン散逸率測定試験
模擬歩道試験(レンガを2メートル×2メートルに敷設)でのラドン散逸率は0.013ベクレル/平方メートル/秒であり、一般の土壌と同程度。
- 使用シナリオによる評価
模擬歩道試験の実測と評価・計算コードによる評価結果から、20メートル×500メートルの広場にレンガを敷設して広場中央に1日平均約5時間いても、年間被ばく線量は0.22ミリシーベルトとなり、一般公衆の年間被ばく線量限度1ミリシーベルトを十分に下回っている。
* 1ミリシーベルト=1,000マイクロシーベルト
3.敷設箇所の放射線量測定例について
人形峠製レンガを敷設した箇所の放射線量測定(1m高さ)を実施した結果、自然放射線を考慮すると、物性確認試験の評価結果とよくあっており、所定の品質で製造されていることが確認できます。
用途 | 線量 μSv/h | 敷設範囲 |
建屋周辺整備 |
0.10~0.14
(内、自然放射線 0.06程度)
|
17~75㎡
|
施設前広場 |
0.10~0.15
(内、自然放射線 0.05~0.07)
|
6m×10m |
歩道 |
0.05~0.09
(内、自然放射線 0.04~0.05)
|
巾70cm~100cm |
4.一般消費材料の放射能濃度と身の回りの放射線量等について
表1 一般消費材料の放射能濃度
人形峠製レンガ=0.57ベクレル/グラム
一般で使われている消費材料にも、自然放射性物質は含まれます。
マイナスイオン食器 | 0.150 ベクレル/グラム |
研磨剤 | 0.200 ベクレル/グラム |
靴下(繊維練りこみ) | 0.700 ベクレル/グラム |
消臭塗料 | 0.820 ベクレル/グラム |
サポーター、リストバンド | 0.940 ベクレル/グラム |
マフラー触媒 | 3.3 ベクレル/グラム |
耐火物レンガ | 3.5 ベクレル/グラム |
独立行政法人放射線医学総合研究所
自然起源放射性物質データベースより抜粋
表2 身の回りの放射線量等
人形峠製レンガ(表面)=平均0.22マイクロシーベルト/時
私たちは、宇宙・大地・飲食物などからの自然放射線のほかに、病気の診断や治療に利用される人工放射線を受けています。
花崗岩(みかげ石) | ~0.2マイクロシーベルト/時程度 |
カリウムを含む化学肥料(市販20Kg袋)
(塩化カリウム等) | 0.25マイクロシーベルト/時程度 |
ウラン鉱床露頭発見碑付近 | 1.5マイクロシーベルト/時程度 |
玉川温泉湯花採取場 * | 3.15~6.00マイクロシーベルト/時(地表)
1.41~2.14マイクロシーベルト/時(1.5m高さ) |
胸のX線集団検診 | 50マイクロシーベルト/回
(レンガ広場に400時間いた場合と同程度の線量) |
胃のX線集団検診 | 600マイクロシーベルト/回
(レンガ広場に5,000時間いた場合と同程度の線量)
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* 柳澤融,玉川温泉と放射能,温泉科学,47,P98―103(1997)
参考
