前回の記事は多数の反響をいただくこととなった。
いくつもの感想をいただき、また一部では恥ずかしながら詳細な解説もしていただくなど、自身でも想定外の広がりを見せたことに驚いたとともに、今回の問題への関心の高さも感じた。
拙い文ではあったが、多くの方にお読みいただいたこと、また様々な感想をお寄せいただいたことに御礼申し上げたい。
ありがとうございました。
さて、楽しみにしていたハリルホジッチ氏の記者会見もリアルタイムで見ることができた。
その会見を受けて新しい感想もまた生まれた。
そこで、可能ならばまた半年から1年ほど何も書かない生活をしようかと考えていたのだが、新しい何かを書こうと考えた。
それだけ僕自身この問題が何かをひっかけるものになるという気持ちが強いというのはある。
もう一つ。僕の上の世代の人たちがトルシエ後やオシム氏から岡田氏への交代の際に発信をしていたことを、今回の件を調べる際に今一度知ったことも大きい。
どれくらいの発信力を持てるかはわからない。
前回の記事はとても多くの反響をもらった。
しかし僕自身でもわかるが、はっきりいうと波が激しいので今回の記事がどうなるかはわからない。
それでも、今度はあの頃まだ学生で右も左もわからなかった僕らのような世代が、今度は踏ん張って発信していかなければならないと。
その思いに突き動かされ、今キーボードと向かい合っている。
今回の記事、「ハリルホジッチ解任を考える」
ではいくつかのことについて注目し、疑問を投げ、できうる限り解釈をし、そして多く……の人に読んでもらえるかはわからないか。
いくらかの人に様々なことを考える契機になってほしいと願っている。
●1-1「ごもっともの歴史」
今回のハリルホジッチの解任によって再び火種となった「自分たちのサッカー」
まず、いくらかの人の間で話題となった「自分たちのサッカー」とはなんだろうかというところから見てみよう。
自分たちのサッカーを定義しているような記事は実はほとんどない。
まことしやかに語られていることは多いが、これだというものは少ない。
日経新聞の夏目記者はこのようにまとめている。
準備すべきだった「自分たちのサッカープランB」―コロンビア戦マッチレポート : TVステーション
大会を振り返り、選手たちが口を揃えてできなかったと話す「自分たちのサッカー」。
おそらく1つの定義はなく、あいまいな言葉に思えるが、「パスをつないで相手を崩す」、「ボール保有率を高めてペースを掴む」などがキーワードに挙がるだろうか。少なくとも「攻撃的なサッカー」を意味することに間違いなさそうだ。
footballistaの対談ではこのように言われている。
ザックとハリルの戦術的葛藤とは?
日本のカオス攻撃と欧州の秩序
河治「一種のバルサ信仰というのが2012年頃に巻き起こって、ザッケローニがやろうとしていたスタイルがすべてそうではないけど、若干それに近いところがあった。遠藤と長友と香川のところで回しながら、岡崎が走り込む」
浅野「多分ザッケローニはもっと速いサッカーをやりたかったんだと思います」
河治「本当はね。そこはザックが日本人選手のイメージにある程度合わせて、自分たちでボールを保持して相手を圧倒するスタイルを掲げたので支持されたのも少なからずある」
浅野「やっぱり遠藤はシャビに似た考えをしているのかなと。本田もおそらく近いと思います。西部さんは遠藤と一緒に書籍のお仕事をされたことがありますけど、その辺りはどう思いますか」
西部「遠藤自身は代表チームに関しては、『メキシコみたいにベスト8に入れなくてもずっと同じやり方で良いんじゃないの』と言っていましたね」
浅野「同じやり方というのはパスを繋ぐサッカーということですか?」
西部「彼が言うのはそうでしょうね。他のサッカーが良いなら他のサッカーでも良いんだろうけど、コロコロと監督が変わるたびにやり方を変えるのは、自分たちのスタイルができないので良くないんじゃないかというのが遠藤の意見」
そしてなぜここにきて「自分たちのサッカー」が再び燃え上がってるかと言えば、それは田嶋監督の会見によるものが大きい、ということは確認しておきたい。
田嶋会長「勝つ可能性を追い求めた結果」(スポーツナビ)
私としては、日本らしい、しっかりボールをつないでいくサッカーを志向してほしい。これは私の意見ですから、監督がどう考えているかはまた聞いていただきたい。
そしてこれによってやり玉に挙がったのが本田圭佑と香川真司の両選手である。
特に本田選手へのバッシングはすさまじいものがある。
なぜなら彼には北京五輪で反町監督に真っ向から異論をぶつけた前科があったからだ。
元ソースのサンケイスポーツの記事が消えているのでここではこういう発言を集めているブログからその発言の実際を引用する。
(885)本田圭佑 - サッカー名言集
「監督から“オランダは巧いから深追いしなくていい”といわれた。それはごもっともだけどオレの考えは違った。そんなに怖くない。圧倒できると思ったから前から行こうと。他の選手に話したら全員、それでいくとなった」
06年7月の結成から2年。反町監督は「選手の動き自体は悪くなかった」。本気のオランダ相手に善戦したと評価した。ところが、選手からは思わぬ言葉が続出。
またザッケローニ監督時代にも監督に意見具申していたことが分かっている。
これは通訳の矢野大輔氏の著書、通訳日記から引用しよう。
本田「ここで場を丸く収めるために「はい、分かりました」と言っても、意味がないと思う。お互い納得いくまでディスカッションしたい。俺はもっと攻撃に人数をかけたほうがいいと思っている。自分も含めた前の選手には、攻撃の際の約束事や義務があって、それを若手は守ろうとしすぎてて、窮屈にプレーをしているように見える。もっと自由に、流動的にプレーさせてくれたら、より攻撃のバリエーションが増えると思う」(矢野大輔:通訳日記p282、283)
そして今回のハリルホジッチ監督の時も、似たようなことをコメントしている。
悩める日本代表にPDCAサイクルを。原口が、大迫が、本田が鳴らす警鐘。
「結果論なので、結果を出さないと何も言えない。結果が出なかった時に選手がチームのビジョンと違うプレーを選択した場合は、何か言われるもの。そのリスクを選手が背負えるかどうか。リスクを背負える選手が今の代表にいるかどうか、ですよね」
彼が今回も再び造反したのだろうか。
本田圭佑は実直な人間である。
これが僕がこの件で本田圭佑を調べて感じたことである。
自己の主張を大事にするようにしているのは分かる。
では他人の話を聞かないかと言えば、そんなことは全くない。
ビッグマウスから自己中心的で尊大な選手と思われがちだ。
だが自身のパフォーマンスが悪ければ億面もなく周囲に謝罪する。
自身の責任を誰かに押し付けることは意外なほどに少ない。
味方か敵かなんて二分論で語れれば、誰にとってもわかりやすいのだ。
だが本田選手は違う。
対立を仕掛けるかと思えば、話を聞き入れ従うこともある。
たくさんの論争を仕掛けながら、しかし本心でたくさんの人に感謝をしている。
簡単ではない本田圭佑の、しかしながらその人物像は驚くほどわかりやすくもある
ここからはまず本田圭佑のごもっともだがの歴史を振り返り、しかし彼が監督に100%反抗する人間ではない、という反論を行う。
次にハリルホジッチは本田選手、そして香川選手を外そうとはしてなかったのではないか、という話をする。
そしてウクライナ戦での規律違反について考え、本田選手がケイスケ・ホンダとなったことについて落胆を表明する。
今回も本田圭佑が起点だ。
それは彼が多数の発言を残し、自身の考えを発信してくれているおかげで非常に論じやすいから、ということはある。
そして大変重要なことだが。
僕はこのハリルホジッチ解任問題において最大の問題を論じるにあたり、本田選手や香川選手の問題はノイズだと考えている。
雑音。
そうは言っても、なぜ僕がそう思うかはきちんと説明しなければならない。
こうしてひとまず本田、そして香川論争から離れることができたとき。
僕たちはより深いところの問題に目を向けることができるようになるはずだ。
なので、まずは本田選手の話をしようではないか。
さて、本田圭佑反逆の歴史は北京五輪からはじまる。
オランダ戦で反町監督は守備的に行こうという指示を出したがそれに反して前から行ったというのだ。
それに関して本田選手は後年反論を行っている。
湘南ベルマーレのファンがこの記事についての文を書いている。
ここではその記事から孫引きをする。大変申し訳ないが、しかし資料が残ってないのだ。
僕はソリさん、リスペクトしてますby本田圭佑
現在発売中のNumber7月16日号が非常に面白かった。昨年、北京五輪オランダ戦での「それはごもっともだが、俺の考えは違った」発言で反町監督に対する造反かと報道され、大きな議論を呼んだ本田圭佑だが、その真意が当事者である彼の口から明らかにされているからだ。
本田は同誌で次のように語っている。
「あの、これ話すとめんどくさいんですけど、非常に。逆にもう今さら分かってもらう必要もないかなと思ってるんで」と前置きしたうえで「……誤解の一言ですよね。というのは俺はたぶん、ソリさんをチームの中で一番リスペクトしてたって言ってもいいぐらいだと思うんです。ソリさんもそれをわかっててくれてると感じてたし」「要は前から行くか行かないか、というだけの話なんですけどね。もしいなされるんであれば前から行かなくていいという話で、ただ、行けるんであれば行けという話もあったのに、そこは一切記事にされてなかった。それだけの話ですよ。非常にくだらない話です。まあ、そういうこと全部をひっくるめた上で、北京での経験は僕を変えてくれたんですけどね」「あの時、ソリさんは前から行くな、なんて一言も言ってないんです。コーチとも話したら『監督も、それはお前らが話しろということやと思うし』って言ってくれた。で、グラウンドも悪いから前から行ったらあいつらもミスするぞっていう話を何人にもして、おお、行こ行こという話になっただけなんで。なんでそういう話をミーティングの時に言わへんかったんやと言われればそれまでですけど……」
本田選手曰く、前に出ていくなではなく、出ていかないでもよいというニュアンスだったという。
ではこの試合に挑む反町監督はどのような言葉で選手を送り出したのか。
つい最近北京五輪の際の記事が出ている。
「10年後に会おう」と約束した年、北京五輪戦士達がロシアW杯に挑む。
オランダとの第3戦、日本は何かしらの痕跡を残そうとした。本田圭佑や西川周作ら'85、'86年生まれの選手は2005年のワールドユース(現U-20W杯)で、オランダに衝撃的な敗戦を喫していた。ライアン・バベルら当時対戦したメンバーも数多く残っている。しかも北京五輪でのオランダは2引き分けと波に乗れずにいただけに、日本が一泡吹かせてインパクトを残すチャンスとも言えた。
そして試合前のミーティング、反町康治監督は冒頭の言葉を選手たちに送った。三国志に登場する、徹底して勝利を追求した策士、諸葛亮の言葉だ。
受けて立つな。攻め挑むことで、活路は見出せる、と。
ナイジェリア戦前には「座して死を待つより、出でて活路を見出さん」というメッセージを発しており、当時のnumberで批判もされている。
このごもっともだが発言についてはいくらか調べてもサンケイスポーツ以外の記事が見当たらず、実際の発言がどのようなものであったかがまだよくわからない。
しかし、反町監督のナイジェリア戦後の発言をみるに、深追いしないでいい、待て、とだけ指示をしたという趣旨にとるのはどうにも違和感がある。
前には行こう、ただ相手はうまいので深追いしないでもいいよ、と言うのが実態だったというのは説得力はある。
また、本田圭佑は自身のメールマガジン上で高校時代は古典的10番だったが、反町監督から走れ、走れと言われ現代サッカーの要素を植えつけてもらったと述懐している。
それが現代サッカーの要素かよ、と言いたい人はいるかもしれないがそれはひとまず置いておいて。
リスペクトしているというのも、五輪から10年後の今になっても名前を挙げるくらいならば、嘘偽りのない言葉だろうとは推察できる。
さて監督のほうはどうだろう。
反町監督は確かに昨今は相手を徹底的に研究し、良さを消すリアリズムに徹した戦いで知られる。
だがこのころはまだ若く、平気で相手にチャレンジするようなことをする監督であったことは忘れられているかもしれない。
アルビレックス新潟時代には、J2所属時に天皇杯でJ1のジュビロ磐田相手にチェコ代表を参考にした4-1-4-1で挑み、0-4で敗れている。
北京五輪時代についてのインタビューが2016年に公開されている。
そのインタビューを見てみよう。
【五輪インタビュー】今だから言える北京秘話…反町監督が語る“大舞台に必要なメンタリティ”とは
――しかし、それでもフタを開けてみたら難しい結果が待っていました。ピッチ内ではどんな狙いを持って臨んだんですか?
反町 それまで3バックでやってきたんだけど、選んだ選手が持っている力を全部発揮できるようなやり方をしようと考えた。だから本大会は4-4-2、まあ4-2-3-1とも言うけど、ダブルボランチで両サイドに香川真司(ドルトムント)と本田圭佑を置いて、サイドからのしかけと分厚い攻撃を狙って、真ん中に豊田陽平(サガン鳥栖)や森本貴幸(川崎フロンターレ)と軸になる大きいヤツを据える構成でやろうとね。
――システムを大きく変えた理由は?
反町 本大会で勝つことを考えたら5バックにして後ろを重くしてもダメだし、メンバー的には4枚でも守れるなと思ったんだよ。麻也は全く問題ないし、森重(真人/FC東京)もずっと4枚でやってきてボランチもできる。ミチも内田(篤人/シャルケ)もチームで4枚をやっていたからね。そうしたら前に重点を置いたメンバー構成ができる。点を取らなければ勝てないわけだからね。
さて、本田圭佑のごもっとも発言だが、元から反町監督の方針は守ることではなかった、とするならば。
本田選手の言う通り「行けそうにないなら行かなくていいということだったけど、ピッチ状態が悪いことは分かってたから行けば何かが起こると考えた」
という趣旨の発言だったと考えられる。
造反でもなければ、反逆でもない。
ここまで2戦消化してピッチ状態が悪いことは、監督がインタビューで答えている通りチームで共有されている事実だった。
それを活かす戦い方を与えられた裁量の中で選択した。
しかしこの発言は独り歩きをしてしまう。
そして生まれたのが反逆児、本田圭佑。
だが本田選手自身はむしろこのイメージをここから利用していったようにも思う。
中村俊輔への挑戦も、こうした何も恐れない若者というイメージがあったからこそできたことだろう。
自身の成り上がりのためにビッグマウスのイメージを押し出していった本田圭佑。
しかし、そのイメージは概ね虚像でもあったことは、ザッケローニジャパンでの活動を詳細に記した「通訳日記」の出版で暴露されたようにも思う。
ザッケローニ監督のときの本田圭佑とはどのような人物であったろうか。
通訳日記における本田圭佑は、徹底してナイスガイである。
ザッケローニ監督とまず最初に対話したのが本田選手だった。
その際には
「話しながら監督に引き込まれていく。そして最後には目を輝かせていた。サッカー少年さながらに」(通訳日記p28)
とこれからのザッケローニ監督との良好な関係を窺わせる描写がある。
アジア杯では交代後ベンチから下がったことを咎められる一幕もあったが。
その後も通訳の矢野さんから3-4-3の概要を説明され「選手としては楽やな」とポジティブに捉えたり。
監督から「スピーディーに攻めなければ相手を崩せない」と提案され「大賛成」と応じたり。
「もう少しフィニッシュに専念してほしい」とオーダーがあれば「監督から言われた通り少しフィニッシュのほうに力を傾ける」と変化しようとしたり。
そして監督に最後にあいさつに来たのも、本田選手。
コンフェデのときに監督アドバイスに「こんなアドバイスをくれたり、叱ってくれるのは父親か監督しかいない」と語るなど、ザッケローニのことを信頼している様子が描かれている。
しかし。
時々やはりザッケローニに対して自身のプレーへの意見に対して反論もしている。
そして東欧遠征時には例の戦術提案だ。
複雑だ。
監督のことを信頼し、アドバイスに応じてプレーを変化させるなど従順な姿勢を普段は見せている。
しかし突然監督に逆らうようなことをする。
ところがこれに反対されたり、またきちんと意図を説明されればさらっと食い下がる。
この東欧遠征における本田選手の提案「両サイドバックを上げる」は結果としてチームから拒否され、取り下げることとなっている。
長谷部「圭祐が言っていた『両サイドバックを上げる』という意見は、選手たちの間で議論をして、『現行のやり方が良い』ということになった。これに対して当然圭祐も『チームがその方がいいなら、もちろん従う』という話になった」(通訳日記:p285)
通訳日記を読むと分かるが、本田選手の提案は拒否され、この時点ではチームは監督の指示に従うでまとまっている。
その後も本田選手は特にこれを根に持つこともなく、誰かが「東欧遠征ではチームがまとまりきれなかったと漏らした」ということに監督が憤慨した時には、「チームの輪を乱そうとしている選手はいない、メディアが誇張している」とチームを庇う姿勢を見せる。
さらに日本を離れる前にはわざわざザッケローニに感謝の言葉を述べに行っている。
監督に気に入られるためだ、チームの中でリーダーとして振舞いたいためだ、打算の行為だ、と言われる方もいるかもしれない。
僕はそうは思わない。
特に裏表はなく、考えてること思っていることを言わなければ気が済まないが、自身が納得が行ったら特に気にせず流してしまう人。
さっぱりした人だと思う。
平気で議論を吹っ掛け、自身の主張を通そうとするが、そこに政治性を絡めないのが多くの人には不可解だろう。
東欧遠征の提案も根回しなどせず、本当に自身の主張をぶつけただけなのだ。
普通はそんなことはしない。
主張は通ると思うからするものだと、それなりの人は考えてるかもしれない。
本田選手は違う。まず主張する。それからだ、と。
この考え方を把握しておかなければ、本田選手の行動は見えてこない。
前回引用した朝日新聞の記事のコメントからも、そうした何も言わずにはいられないというところが見えている。
生き残りかけ、本田が「変身宣言」 5日サウジ戦:朝日新聞デジタル
本田は「監督が言っていることは、まさに正しい、目からウロコが落ちる的な部分もある。そうじゃない部分もある」「議論はする。ただし、最終決定権は僕にはない。だから僕が最終的には(監督に)合わせる。勝ちたい思いは、一緒なので」
監督が言ってることは正しい。でも俺には俺の考えもある。
だからその部分は主張する。でも監督の決断には当然従う。
結局俺の考えをぶつけてどう反応するかをみなければ自分が納得いかない。
それだけのように見える。
これはこれで一種のわがままには見えるだろうが。
何も言わず悶々として外にぶちまけるのと比べれば、監督としてもまだコミュニケーションはとれているほうだろう。
さて、ここまで本田選手の監督に対する発言をざざざっとおさらいしてきた。
見て取れるのは、これまでの監督へのリスペクトの心と、それでも何かを言わずにはいれないという挑戦心。
ハリルホジッチ体制でもそれは変わっていない。
ただ一方でそれがオープンなコミュニケーションを望んだハリルホジッチと噛み合っていた、という面もある。
最終予選が始まる前の頃は、ハリルホジッチのコミュニケーションに対して期待したような反応を返したのは本田選手くらいという話もあったほどだ。
ほかの日本人選手とは色が違いすぎるこの対人術を把握しておかなければ、本田選手を語るわけにはいかないだろう。
●1-2「ハリルホジッチと本田圭佑、そして香川真司」
ハリルホジッチ政権時の話にこのまま入ろう。
ハリルが漏らした試合後に出場機会がなく不満を漏らした2人がいると話題になったオーストラリア戦。
試合に出ていなかった選手の中に本田選手が入っていたため、不満分子ではないか、と騒がれていた。
この試合の前後を見ると、不満を持つような状態だったかは少し怪しい。
なぜか。
本田選手が怪我明けでコンディションが整っていなかったからだ。
パチューカ・本田、メキシコデビューへ!22日のベラクルス戦メンバー入り : スポーツ報知
メキシコ1部パチューカは21日(日本時間22日)、22日午後7時(日本時間23日午前9時)キックオフのホーム・ベラクルス戦のメンバーを発表。右ふくらはぎを肉離れしていた日本代表FW本田圭佑(31)が初めてメンバー入りした。
この記事にはハリルホジッチの会見での「例えば、メディカルレポートだと、故障した選手がいるならば、すぐ連絡を取ってどういう状況なのか聞いたり」を裏付ける記述がある。
日本サッカー協会はメキシコへ医療スタッフを派遣し、本田の状態をチェックするなど、情報収集していた。
そして22日の試合でデビュー。
日本代表に朗報!本田がメキシコデビュー弾で復活アピール!トップ下で躍動、3連勝に貢献
ただし、この試合でも先発出場ではなかった。
本田は移籍後初の招集メンバー入りしたものの、先発出場は逃し、ベンチスタートとなった。
58分に本田がメキシコデビューを飾る。
そして24日にはハリルホジッチは本田選手の招集を決めている。その時のコメントがこう。
ハリル「歴史に残る試合を作りたい」 W杯最終予選 豪州、サウジ戦メンバー発表 - スポーツナビ
ケイスケはシンジとやや同じ状況だが、心配だったのでトレーナーが現地に行ってきた。直近の試合で彼は交代で入って得点も決めた。ただ、たくさんの試合をプレーしてきているわけではない。直接見て、どういう状態かチェックし、どのような役割を与えるのかを考えたい。ただ彼らの存在自体がチームにとって重要。そして今紡いでいる物語は、1人2人のものではない。このグループがW杯に向かって進む物語だ。
ハリルホジッチも起用できるかどうかとりあえず見てみてから、と招集時にコメントしている。
そして実際に本田選手とは試合出場について細かくコミュニケーションがあったことは本田選手自身が明かしている。
本田「いろいろなものを取り戻さないと」 最終予選 サウジアラビア戦後のコメント - スポーツナビ
(ポジションに関して監督と話をした?)そうですね。話すところは話をして、監督も分かっていないわけではないと思うので。(出場は前半だけという話?)はい。ミーティングでたぶん前半だけでいくと。コンディションのことをまだ心配してくれている、という説明を受けました。
不満を漏らしていたから、キャプテンマークを与えて試合に45分出したのさ、という向きもあるだろう。
逆に問いたい。ハリルホジッチがそんな軟弱なキャラクターで良いのだろうか。
オーストラリア戦の前にはベテランの務めと若手にアドバイスも送っていた本田選手。
当然ハリルホジッチもそのような姿を期待して招集したのだろうし、期待通りだったからキャプテンマークも渡して45分限定ながらスタメンでの試運転を許可した、と僕は見ている。
そしてもう一つ、ハリルホジッチについてすごいな、と思うのは真面目な仕事ぶりについてだろう。
怪我をした選手のもとにトレーナーを派遣し、さらに呼べそうならとりあえず呼んで自身の目で確かめる。
そして起用法についても選手に理由を述べた上ではっきりと示す。
コミュニケーション不足ってなによと監督が言うのも理解できる。
この2戦、負傷明けの本田選手はもちろん、起用できるかわからない香川選手も招集している。
香川選手に関してはオーストラリア戦後には離脱するほどコンディションが悪かったが、それでも招集している。
もちろん状態を見るため、という理由はあったとは思う。
とはいえ、使えるなら使いたかったというのが本音だったのではないだろうか。
存在そのものが重要、というコメントをみても、ハリルホジッチの中での香川選手の評価はそう低いものではなかったはずだ。
こうした招集を見ていくと、本当にハリルホジッチは本田と香川、両選手を外すつもりだったのだろうかと疑問に思う。
まず本田選手。チームの第2キャプテンとして監督からは扱われている。
競争には巻き込まれている、というよりどの選手も競争の中に置かれている。
川島選手ですらそうだ、マリ戦では中村選手が起用された。
さらに別の選手を試すために、分かってる選手は呼ばないということもする。
3月の乾選手未招集は中島選手を見るためだったという。
そういうことを平気でする監督なので、特にフレンドリーマッチで起用したしないで何かを論じるのはナンセンスだろう。
監督が2月に欧州組とコミュニケーションをとったと語ったとき本田選手の名前は出さなかった。
このことで憶測が出たが、当たり前だ。本田選手は欧州にいない。
手倉森コーチが派遣されそこで間接的とはいえコミュニケーションをとっている。
では2月に監督がコンタクトを取ったことがはっきりしている選手の名前を挙げてみよう。
長谷部、川島、吉田、長友、ベルギーに森岡を観にいっていることはニュースになっていた。
そして間接的に本田。
香川選手はどうだったろうか。
恐らく、コンタクトは取られている。なぜか。
香川選手がこの時期に怪我をしたからだ。
ハリルホジッチの会見コメントを信じるならば、コンタクトをとっていると見たほうが自然だ。
3月のベルギー遠征では召集予定だったが、怪我で呼べなかったことを示唆するコメントを残している。
ハリル「他の選手にチャンスを与える」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
麻也、宏樹、真司にいてほしかった。彼らはさまざまなものを(チームに)もたらしてくれるからだ。
絶対的な主軸に近い吉田選手、酒井宏樹選手と共に名前が挙がること、それこそが監督の評価だと僕は考えている。
キャプテンマークを渡される本田選手、そして絶対的な主軸と名前が同時に上がる香川選手。
なぜ、この2人がハリルホジッチに外されようとしていたと断定できるのだろうか。
なぜ、どうして。
もちろん本当に呼ばれたかは今となってはわからない。
香川選手は怪我をしていた。それによりコンディションがちょっと、という可能性はある。
本田選手は激戦区の右サイドでポジションを争っており、選手自身の感覚では「当落線上」の状態。
競争の中でメンバーから外れる、ということは当然ありえただろう。
だが少なくとも、ラージグループには入っていたはずだ。
そのレベルの扱いはされている。
これは無視だろうか。
特別扱いでなければ無視、と断定するのはいささか監督選手両名に失礼な話ではなかろうか。
無視していたわけでもなければ、排除しようとしたわけでもない。
だのに、なぜかこの2人が排除されかかっていたことになる。
だからこれはノイズだと考えている。
誰かが意図をもって、大物選手を排除しようとしてハリルホジッチは討ち取られたよというストーリーを流している。
良好な関係とは言えなかったかもしれない。
前述したように、ハリルホジッチは若い選手との競争にこれまでの絶対的な主軸だった選手を巻き込ませたのだ。
使ってくれる監督が良い監督。
ハリルホジッチも当然そのことは分かっていた。
だから起用の経緯の説明にも心を砕いていた。
コミュニケーション不足とは。
そもそも。彼らが外れることにおびえたのは選手自身なのだろうか。
ハリルホジッチの会見で興味深い発言の一つがこれだった。
ハリルホジッチは何を語ったか?
2018.4.27記者会
特に「ハリル、若い選手を起用するじゃないか」と言った時のみなさんのパニクりぶり。それにもかかわらず素晴らしい勝利を勝ち取ったわけです。
そして、彼らで大丈夫かなと思っていた選手たちが抜きん出た力を発揮してくれたんです。「こんな若い選手を呼んでおいていいのか」ということで納得していない方もいらっしゃいました。
誰が、彼らのような実績のある選手の重用を望んでいるのか。
それを選手自身が望んでいるとすり替えてしまうのは、選手にも失礼ではなかろうか。
●1-3「ん、間違ったかな? 」
さて、今の今まで本田選手を擁護しておいてなんだが、ウクライナ戦でみせた規律違反疑惑については擁護のしようがない。
あれはまさしく「本田圭佑ご乱心」であった。
続いてこのウクライナ戦の規律違反疑惑について考察していこう。
まずこのウクライナ戦での規律違反とはどういうものだったか。
スポーツナビにて宇都宮徹壱氏はこう記している。
2試合で見えなかった日本本来の強み(宇都宮徹壱) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
後半、日本は11分に杉本に代えて小林悠が、さらに19分には本田を下げて久保裕也がピッチに送り込まれる。いずれも予定どおりの交代に見えるが、気になるのが試合後のハリルホジッチ監督のこのコメント。「今日は引いてもらう動き、相手ゴールに背を向けた動きが多すぎた。そういった面も変えていかないと本大会ではうまくいかない」──。名指しこそしていないが、下がって受けることでタメを作り、時にサイドバック(SB)の上がりを促していたのは本田であった。長友は「助かった」と語っているが、指揮官の評価は違っていたようだ。ただし、それが交代の直接的な理由だったのかは不明である。
実際の試合後のコメントはこうだ。
ハリル「中島はひとつの発見だった」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
──マリ戦も今回もフィジカル的な部分での差があったが、相手にとってより危険な存在となるためにはどんなことが必要だと思うか?
もちろん、その差によって起こる問題というものがある。われわれは自分たちの特徴を生かした守備と攻撃をしないといけない。もちろんフィジカル的なパワーで相手に対応できる選手も必要だとは思うが、われわれの特徴に合わせたプレーが必要だと思う。
中央にいる選手がパワーの部分での対応も必要だと思うので、私もたくさんのオプションを見ている。そしてボールを持ったら、攻撃のところでわれわれの瞬発力、スピード、リズムの変化、速いボール回し、そして前に向かう動きといったものが必要だと思う。今日は引いてもらう動き、相手ゴールに背を向けた動きが多すぎた。そういった面も変えていかないと、本大会ではうまくいかないと思う。われわれの特徴に合ったものを実行しないといけない。
本田「試合を支配することが大事」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
長友佑都(ガラタサライ/トルコ)
(本田が入ったことでボールを保持することができるようになったが)裏を狙うだけではなくて、圭佑みたいに下りて味方を助ける(ことも大事)。プレッシャーがかかっている時に裏へ抜けると、特にDFの選手とかはプレッシャーの中で裏に蹴るのはなかなか難しかったりする。そういう状況でも、勇気ある選手が下りてきてタメを作って、そこでファウルをもらって時間を作ったりとか、ディフェンスラインから見ていて、本当に助かったというプレーです。そういうプレーが多かったなと思います。
(前半は本田を起点に攻めがスムーズになった?)マリ戦でも圭佑が入ってリズムが出てきたし、今日の前半もあそこでタメを作れるからSBも上がれる。中盤も押し上げられる、ディフェンスラインも押し上げられる。地味で見えないかもしれないですけれど、チームに与える効果は絶大だなというのは思います。
本田選手が、前線のポジションに留まらず、低い位置まで動いてボールを受けて捌いていたよというのが主旨である。
なにがこのプレーは規律違反ではないかという疑惑を生んだかと言えば、ハリルホジッチの試合後のコメントもそうではあるが、招集時のコメントでも本田選手には相手の背後を狙う動きを要求していたことにある。
ハリル「中島は爆発的なスピードがある」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
規律のところで厳しい要求をしているが、選手は完璧に把握しているはずだ。FWはまずは得点を取る、もしくは取らせる。降りてきてボールを足元でもらうのではなく、やはり背後に行ってほしいと思う。そうすれば得点は取れるが、足元でもらうために降りてきてしまうと、得点を取るのは難しくなる。そういったことを本田、中島に要求したいし、自分の能力を発揮してほしい。
そして、ハリルホジッチがこうした要求をしていることを、本田選手も当然理解していた。
その上で、監督がやってはいけないよというプレーを見せたというのは、規律違反と言われても仕方のないことだとは思う。
擁護のしようはない。
しかし、この規律違反問題を、本田選手がやらかしました、だけで済ませるのはどうにも気持ちが悪い。
この規律違反にはいくつかの謎が残っているからだ。
まず一つ目、これが完全に独断で行われたこと。
先ほど本田選手のごもっともの歴史を振り返った。
その中で本田選手は常に何か意見があるときは監督やコーチに考えを伝えていたことが分かったとは思う。
戦術的な提案をする場合は必ず監督に話をしている。
ハリルホジッチとも2時間ほど話し込むこともあったという。
ところが、今回のプレーについてはその形跡がない。
次の謎は、本田選手が「ボールを受け、捌く」というプレーをそこまで好んでいないということ。
エゴを出すのならば、崩しに参加せず前線に張っているプレーを選択するはずだ。
ところが今回の自発的プレーは、全く逆で前線から離れるプレーだ。
このプレーを見せるのは、本田選手としてはチームがうまく回っていないときに限定しているらしきことも語っている。
勝利のために理想のプレーを捨てた本田、予想していた「大一番でのあるある」とは
チームが本来の力を発揮できない状況で、勝つために何をすべきか。31歳のMFは「自分が準備していた理想のプレーを、前半のうちに全部捨ててしまって、やれることから着実にやろうっていうスタンスにした」とこれまでの経験値をいかんなく発揮する。「起点になったりとか、ボールを受けるために後ろに下がったりとか。いろいろやれる範囲でやろうと、前半の途中から考えを切り替えましたね」。本田はボールをキープしながらチームに落ち着きや間(ま)を生み出していった。
そして最後の謎は、意外と外部からは評価が高かったということだ。
例えばサッカーマガジンの北健一郎氏はこの試合でのプレーを踏まえてこう述べている。
8年前との違い。本田圭佑がウクライナ戦で見せた"修正力" | footballista
試合の状況を踏まえてプレーを修正できる、本田の価値は大きく高まる。なにしろ、W杯では、わずかなミスが命取りになるのだから。
ロシアに行く23人の最終リストに、ハリルホジッチは「本田圭佑」と書き込むだろう。そう確信している。
また、スペイン人のスカウト、ミケル・エチャリ氏も本田のプレーを高く評価している。
スペインの目利きが見た、欧州遠征の代表22名「誰が役に立つのか」|サッカー代表|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト
本田圭佑
大迫、長友との連係度が高く、チームとしてプレーが低速になりそうなところで、ギアを入れられた。守備では相手に裏を取られながらもうまく対応し、老獪さを見せている。戦術理解能力は秀逸だ。
一種スタンドプレーをしながら、外部からは評価を受けるという奇妙さはあまりにも気持ちが悪い。
本来ならばこの種の独断プレーは悪目立ちするようなものだと思うのだが、起きている現象は逆だ。
この試合で本田選手の評価は高まった、そう考える向きもあるという謎。
これらの謎に答えられる何かを、僕らは見つけなければならない。
まず、「ハリルホジッチに服従しない」という発言を考えたのはいつの時期だったのか、という話からしなければならない。
なぜか。
この試合の後に、本田選手はメルマガでこう語っている。
本当はメルマガ本体から引用することは全て避けたかったがここあたりを避けるとどうしても話の筋が通らない。
本当に申し訳ないが引用をする。
- 監督の顔色を見ながらプレーして、勝てるわけないと。
ただ、僕にいたっても指示を100%聞いてないわけじゃない。
(本田圭佑『CHANGE THE WORLD』
Vol.52 – 1st.Leg)
いや、そもそも100%聞けよというツッコミたい人はいるだろうがまぁ待ってほしい。
まず、これはウクライナ戦のプレーについて聞かれた後、numberでもコメントにあった「選ばれるためにプレーをしてはいけない」というコメントをした後の質問だ。
本田選手はあのウクライナ戦のプレーについてはこう語っている。
- ウクライナ戦の会見後、ハリル監督が「今日は引いてもらうプレー、相手ゴールに背を向けるプレーが多かった。そこも変えないと本大会では厳しい」と言っていました。本田選手の名前を出して言ったわけではないのですが、あのタメは監督も認めてくれるものなのでしょうか。
「僕は今日、唯一ダメだった部分が、最後の決定的なところで数字を残すことができなかったことだと思うんですね。これはいかなる理由があっても、攻撃陣の責任やと思う。ただ、それ以外のところも、攻撃では大事で。
それ以外のところが、試合前から僕は今の日本代表に必ず必要なことやってわかっていたから。僕の中では強い覚悟で、チームのためにやったつもりですけどね」
- そこはチームのため。
「サッカーをわかっていたら、その意味はわかると思います。
選ばれるためだけにプレーしたら、サッカーは勝てるわけがない。勝つためのプレーをしんとダメなんですよ」
(本田圭佑『CHANGE THE WORLD』
Vol.52 – 1st.Leg)
はいそこのお前は何を言っているんだとツッコミかけた貴方。
まぁまぁまぁまぁ待ってほしい。
本田選手の意識としてこのあたりから読み取れるもの。
監督の指示は大きく逸脱しては行けないのは分かってる。
しかしながら、それだけでは試合には勝てない。
監督に気に入られるために指示を守るだけではなく、勝つためのプレーをしなければならない。
そして、自分がしたプレーは、チームのためのものである。
中々に難しい。
額面通りに受け取っても、何をどう言いたいのか、引用部分以外を見ても最初は分からなかった。
しかし、話を引っかけるフックのようなものはいくつかある。
その中でも一番引っかかりやすいのはチームのため、という言葉だ。
そこで、日本代表チームがこのときどういう状況だったかを探ってみよう。
本田圭佑のウクライナ戦のプレー考察はここから始まる。
まずはウクライナ戦前のチーム関係者の記者会見をおさらいしてみよう。
ウクライナ戦の試合前記者会見の大きなトピックスは、「チームへの不満が外に漏れている」とハリルホジッチ氏が不満を表明したことだった。
ハリル「W杯の試合だと思って挑む」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
日本だけではないが、W杯が近づいてくると少し緊張感が高まり、そうした中でいろいろな人のいろいろな発言が出てくる。少し発言が多いのはよくないが、それぞれが仕事を実行するだけだ。メディアの皆さんはスキャンダルや話題になりそうなものを探していると思うが、代表はどの国にあっても「聖なるもの」だ。われわれも(チーム内で)何か問題があればしっかり解決する。外部に対する発言というのはよくない。
ハリルホジッチがこのような不満を述べた背景は、ウクライナ戦前の選手コメントを読むとよくわかる。
川島永嗣「成長がないとW杯は難しい」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
宇佐美貴史(デュッセルドルフ/ドイツ)
(監督から)臨機応変にやっていいとは言われていませんけれど、100本すべて裏に蹴れという話ではないし、うまくいかないときは選手たちだけで修正していくことも大事だと思います。意識付けとして、最後のオプションを強く持っておこうという話をしていました。
昌子源(鹿島アントラーズ)
(相手が)来ていないのに前の人に預ける必要はないと思います。ちょっと食いつかせてからとか、多少来たタイミングで(パスを)出したりとか。この前のマリ戦で思ったのは、相手が来ていなかったらボールをキープしていればいいということ。
(自分から)持ち上がるのも正解だとは思わないです。相手がブロックを敷いているところに突っ込んでいっても仕方がない。それだったら、近場でパスを回して、来なかったらキープしていればいい。もちろん勝っているとき、負けているときによっても違ってくるし、そこは使い分けをしていかないといけません。
この時点で既に選手たちがハリルホジッチのサッカーから離れようとしていることがみてとれる。
興味深いのはベテランではなく中堅の選手からこのような発言が飛び出していることだ。
実績のある選手がハリルホジッチと対立したというストーリーは実にわかりやすい。
そうした選手が年齢とともにチームを去れば、なにがしかの改善がみられるかもしれないという希望を持つこともできよう。
だが、現実は厳しい。
国内組随一の守備者とされる選手や、次の大会では実績アタッカー枠も期待される選手からの、自分たちでもやっていかなければという発信。
一方で、監督の求めに応じなければ、という選手もいたことも、その類のコメントがあることで分かる。
スポーツナビの記事で言えば久保であり、また一部で話題になった「選手が別のことをしようとしてはいけない」とコメントした森岡であり。
マリ戦後にチームが大混乱に陥っていることは、選手のコメントが分裂していることから見てとれる。
では、マリ戦はどういう試合だったのだろうか。
監督、選手がどう感じていたかをコメントから探ってみよう。
ハリル「まだまだ準備ができていない」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
──前半34分に負傷交代した大島僚太のけがの具合はどうか。また彼の評価と、いなくなってからの攻撃の違いは?
大島はこれが初めてのけがではないので残念だ(昨年12月のEAFF E−1サッカー選手権、中国戦でも負傷交代)。前回も少しリズムが上がるとけがをして、今回も同じような状態だった。組み立てのところでは、しっかりかかわっていいものが見られたし、前方へのパスもよかった。横パスを出す選手が多い中、彼は縦に出すことができていた。
第2ラインで前方にグラウンダーで素早く仕掛ける選手であり、ターンも速いし、認識能力も高い。ただ大島の代わりに誰を使うかとなると、また難しい。大島のけがは初めてではない。12月、しっかりケアをするようにフィジカルトレーナーに言ってきた。彼は小柄な選手(168センチ)なので、筋肉も短い。俊敏な筋肉を使わないといけない選手だから、しっかりストレッチと筋力強化をする必要がある。まだけがの状態は詳しく分からないが、重大でないことを祈る。負傷退場するまでは、素晴らしいプレーをしていたので、そこはうれしかった。特に背後へのギャップを突くパス。真ん中から前線を動かすように指示していたのだが。
長友「今修正しないと手遅れになる」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
長友佑都(ガラタサライ/トルコ)
攻撃の時にディフェンスラインからセンターバックが持ってボールを回す時、組み立て時の崩し方というか、ボランチの位置だったり、トップ下の位置、サイドバック(SB)の位置も含めて、そのままのポジションにいてしまうとプレッシャーははめやすい。今日も特に後半に感じましたけれど、相手が守りやすい状態を自分たちで作ってしまっていると思います。だからもっとボランチが落ちるなり、SBが逆に高い位置を取ってボランチを(ディフェンスラインに)入らせたりというか、そういうポジションチェンジがチームとしてできていかないと、いい崩しはできないのではないかと思います。少し単調になりすぎていました。後ろでつないでいるけれど怖さがなくて、逆に危なっかしくて結局ロングボールに頼るしかない。
本番はもっと相手のフィジカルレベル、1対1のレベルが高いので、あのボール回しだと(ボールを)取られてショートカウンターを食らうんじゃないかと。(本大会では対戦相手の)スピードがえげつないんでね。ボールを持った時の組み立てはチームとして修正すべきところだと特に思いました。
選手と監督のコメントを合わせると現場が感じていたことは「後ろの選手が中々前にボールを出せず、最後には長いボールを蹴るだけになってしまった。大島がいる間はそれでも大島がなんとかしてくれたが、大島が怪我をしてしまった」
ということである。
そしてその状況の中で本田選手が投入された。
本田選手はまずサイドで起点になることで試合を落ち着かせようと考えたという。
それに対して監督のリアクションが不明である。
次戦でスタメンで起用したことから不問とした、とするのが一番素直な解釈か。
こういう展開で、これまでも「自身は浅野とは違う、自分が起用される意味を考えてプレーする」とどちらかといえば起点になるプレーを選択してきた本田選手を途中投入で入れる。
ということは、監督としてもチームを落ち着かせる効果を狙っての投入だった、と思われるし、そう考えれば不問であるとするのが自然ではある。
逆にいら立ちを感じ、スタメンでの最終テストに臨ませた、ここで本田がどのような反応をするか試した、という説が出てもそれはそれでありだとは思う。
ただ、政治が大嫌いとされ、喜怒哀楽が素直に出てしまうと自称する男がそんな腹芸をできるのかな、というのは少し疑問だ。
ウクライナ戦へ戻る。
ではウクライナ戦ではどういう現象が起きていただろうか。
既にマリ戦で前にパスが出なくなるという現象が起きていたことは見た。
そしてウクライナ戦でもそれは変わらない。
【徹底分析】日本代表が機能不全に陥った要因は…ウクライナ戦の敗因解明
大雑把に言うと、マリ戦では相手の裏、もしくはセンターフォワードにロングボール→マイボールになれば問題なし、マイボールにならなくてもプレッシングでボールを奪う大作戦が行われていた。しかし、ショートパスによる前進を主体とするサッカーに日本は変化していた。ただし、ボールの循環はセンターバック→サイドバック→サイドハーフへの一辺倒だったが。
「ひとりだけ違う絵を描いた」と語る酒井高徳の苦悩。本田圭佑が果たすべき仕事は、そこにある(清水英斗) - Y!ニュース
もう一つは、隣りのセンターバックに吉田麻也や昌子源ではなく、植田直通が起用されたことにも影響があるのではないか。植田はアグレッシブなインターセプトなど、守備では良いところを見せたが、ビルドアップに関しては、まったく貢献がなかった。
前線に蹴ったロングボールはほとんどつながらない。中盤に出したパスはほとんどインターセプトされる。結局、出したパスの先は、隣りの酒井高か、あるいは引いてきた本田圭佑ばかり。ウクライナはそこに強くプレスをかけることを徹底した。植田から前にパスが出ない以上、その責任を逃れるような横パスを受けた酒井高が追い込まれ、余裕を失うのは当然だ。
マリ戦との比較もあるが、この2戦の間に起こったことはこう解釈したい。
ディフェンスラインからクリーンなボールが出ず、第1ラインの突破すらままならなかった。
マリ戦でロングボール大作戦だったのは、作戦ではなく苦し紛れに蹴る場所がそこに決まっていたからである。
ウクライナ戦で一応パスがつながるようになったのは、本田選手が降りてきたからである。
僕の本田選手のウクライナ戦で見せた規律違反の解釈は、ここで固まった。
「ハリルホジッチの戦術に異論を唱えチームを操作した」
そんな華麗なものではなく。
「機能しなくなったチームを何とかするために、とりあえず何でもすることを決意した」
という極めて泥臭い行動だった、と。
先ほど引用したように本田選手はこのように組み立てにプレーの比重を置くことをパチューカでも披露しているが、そのときもチームが機能していないので色々なものを投げ捨てて組み立て走ったことを示唆している。
そしてもっと振り返ればザッケローニ時代に組み立てへの関与を強めたときにも、チームのためにという言葉を残している。
それに対して圭祐は、ゲームを作っていく上で、チームメートとの距離を近くして、ボールをつないだほうがいいという考え方。ボールから遠い側のバイタルエリアにいてボールが来るのを待つのは楽だけど、チームメートが自分のヘルプを必要としているという。(通訳日記:p253)
このウクライナ戦で本田選手が恐らく自力で担った、チームでは決められていないが負った仕事ははいくつかある。
・ポジションを下げる動きでディフェンスラインからボールを引き出す
・ボールをキープして攻撃をする時間を作る
・ゴールキックのターゲットになる(チームとしての1stターゲットは別でこれは不本意だった様子)
・相手左サイドの攻撃の阻害
・1トップの前線からのチェイスの補助
これに加えてさらにできはしなかったが、監督が求めた
・右サイドを軸に裏ぬけして決定機に絡む
・1対1になったら仕掛ける
という仕事も恐らくはやりたかったことだろう。
はっきり言おう。
こんなことは無茶だ。
本田選手が足が遅いだのなんだの関係はない。
これほどの仕事量を1人の選手が、それも右ウイングとして起用された選手をこなすのは、歪んでいる。
だが、それによってチームが一応なにがしかの形を取り戻したのはまた事実だ。
「ひとりだけ違う絵を描いた」と語る酒井高徳の苦悩。本田圭佑が果たすべき仕事は、そこにある(清水英斗) - Y!ニュース
その意味では、本田が面白いプレーをしている。
もちろん、右ウイングとして、ハリルホジッチが要求する裏への動きが足りていないのは、確かだ。これから点を取りに行く!という後半19分のタイミングで、久保裕也に交代させられたのは、その典型的な現象だ。
しかし、本田はボールを収めている。ウクライナが「取る!」と寄せてきたタイミングで、奪わせず、ボールキープして味方につなぎ、いなしている。このように相手のリズムを壊し、自分たちのリズムを作ることができる選手は、唯一、本田だけだ。本田を経由したときだけ、120%のゲームスピードが、100%以下に落ちた。そのことに「助かった」と感じた選手は、長友佑都だけではないと思う。
もし、このプレッシャーの鋭いウクライナに対し、しかもディフェンスラインで選手が代わって同じ質を出せない状況にある日本に、本田のタメがなかったら、一体どうなっていたのか。ボールの逃しどころが、どこにもなく、さらに壊滅的な試合になったのではないか。「違う絵」どころか、何も描けなかったかもしれない。
スペインの名将がウクライナ戦に苦言。「日本は1対1の決闘をするな」|サッカー代表|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva
日本は本田、原口の2人が高い戦術運用レベルを示している。本田は特に守備での貢献が大きかった。
ただ、本田が交代で去ってから、特に右サイドのディフェンスが破綻する
この路線で解釈をすれば「呼ばれるためにプレーしてはいけない、勝つためにプレーをしなければならない」もよくわかる。
ハリルホジッチの指示に従ってアタッカーがボールが来ない、チームが機能していない状況なのに裏を狙うのは愚かだと。
それは監督への服従だと、
ここで服従という言葉を使ったのは、監督への反逆というよりは、状況に応じてプレーを変化させることをできないチームへの不満の発露ではないだろうか。
ただ指示に従ってプレーすればいいと思っているんだろうと。
それで勝てなくても、監督の指示を聞いたから、それで呼ばれるから、それでいいと思っているんだろう、と。
それは従順ではなく、服従である、と。
監督がやってほしいプレーをするのは当たり前、それができないときにどうするか。
ならばまずはチームが機能するようにしなければいけないだろう、と。
独断だったのも、戦術の変更という意識がなかった、ということで理解できる。
言いたいことはとても分かる。
そして実際にそうしてチームを作っていくのがベテラン、リーダーの役目だと自負している、その責任感には敬意すら覚える。
だからもう一度言おう。
これは無茶なのだ。
現代のフットボールにおいて、選手がこなさなければいけないタスクは日に日に増えている。
サイドのアタッカーにせよ、より昔はサイドを上下動すればよかった。
しかし今は守備のタスクで4-3-3のウイングであれば、4-1-4-1のサイドハーフに化けることを要求され、さらに4-2-3-1と2枚のセンターを置いて中央を固めたとしても、やはり4-4-1-1のサイドハーフになることが要求される。
攻撃面で言えば、オフザボールでエリア内のセンターフォワードの補助、アンダーラップする別選手の活用、という仕事のほかに、サイドチェンジを受けた後デュエルを制して局面を打開するというまさにウイングというべき仕事もやはりこなさなければならない。
司令塔としてトップ下が君臨することももはやない。
セカンドトップとして前線の補助を担うか、インサイドハーフとして中盤でビルドアップを担うか。
いずれにせよ各ポジションにおいて何かができればOKという時代はもう過ぎ去った。
さらにサイドバックの中盤化、false9と言ったポジションの概念の変化、さらにエリアタスクというその先のステップに世界が突入しようとしている中で。
選手が今自分が必要としていることを感じて、為すべきことを全力でしましょうという姿勢では、あまりにもやることが多くなりすぎてどんな超人でも対応できない。
できるかどうかはやってみないとわからないだろう、本田圭佑ならそう言うだろう。
だが、そういう次元ではないのだ。
既に本田選手も多数のタスクを負っている、それをこなすだけでも十分大変なのだ。
ほかの選手もそうだ。
そうして複数のタスクを担った選手たちがピッチ上でその状況に応じてやらなければいけないことをやりながら絡み合う。
大変大変大変複雑な構造のゲームになってきた現代のフットボールで、ピッチ上の選手が今を感じてタスクを自分で創造して動くことができると言えるのだろうか。
監督、コーチングスタッフの重要性が日に日に増していることの意味の1つの側面はそこにある。
選手に背負わせるには、もはやあまりにも複雑になりすぎたフットボールというゲーム。
本田選手が、チームがうまく行かないことの責任を背負う必要は、全くない。
それどころか、背負われれば当然無理が生じ、そこから新しい歪みがうまれ、それを修正するために誰かが無理をし、と一時的には立ち直ったとしても、無理の連鎖で再び崩れるのは目に見えている。
さらに前線の選手がボールを受けるという行為。
このプレー自体が、日本代表の攻撃を難しくしているというのは想像できるだろう。
誰かが背中向きで受ける、ターンできればもちろんいい、だが相手だってターンはさせようとはしてくれないし、なんならその背中向きで受ける瞬間をインターセプトで狙ってくる。
インターセプトのリスクが高いのに、結局ボールを後ろに戻すことになりがち、という点でリターンが乏しいプレーなのだ。
そしてさらに、そうして時間をかけたところで今時のチームなら守備ブロックを十分に整えてくるだろう。
そこからまたさーどうして崩そうかとえっちらおっちらサイドバックを上げながらパスを回すというのか。
それは試合を支配していると言えるのだろうか。
そういうことをやりたいんじゃないんだろう。
本田選手のメールマガジンからは節々でハリルホジッチの影を感じる。
肉弾戦を恐れないメンタリティを持つ選手を育てたいと言ったとき、本田選手の思想の変化を感じた。
サイドの方が点を取りやすい、と漏らしたときに、ハリルホジッチが本田選手に何を伝えたんだろうというところに思いが行った。
日本代表のカウンターについて「取りたいところで取る、相手が行けると思ったときに取ることが大事」と語ったとき、これは監督と戦術面できちんとコミュニケーションを取ってるなと驚いた。
恐らく、ハリルホジッチのやりたかったことを、理解している選手の1人に入っていただろう。
だからこそ。
自覚している通り、チームの絶対的なリーダーであり、ベテランである本田選手が。
最後の最後で折れてしまったのではないか、というところに思いが至ったときの落胆たるや!
え、勝手に落胆してろって。
それはそうなのだが。
ウクライナ戦、本田選手は僕はあのプレーはたとえチームを機能させるためで、そしてまたそれによってチームが機能したとしてもやるべきではなかったと言いきれる。
日本代表が、本当に成長するために必要な痛み。
この期間、まさにその時期だったのだろうと思う。
痛みとは、負けるということの意味ではない。
できないことと向き合い、そこから逃げずに立ち向かっていくという勇気の時間。
それが痛みの時間だと僕は思う。
たとえ、ボールが来なくて、与えられたタスクをこなせなさそうだとしても。
タスクをこなせる状況ができなかった、という結果は得られる。
テストマッチは結果を積み重ねる場だ。
結果がでれば、改善への道を探せる。
結果に逃げずに向き合い、長期的な目線で改善への道筋を探ることこそが、今の日本にとって最適なテストマッチの在り方じゃなかろうか。
もしかしたら、そうして結果を出せなかったら自身の代表の地位が危ういと思ったのかもしれない。
これまで結果で黙らせてきた本田選手だ。
ウクライナ戦での勝利という結果で、ハリルホジッチの評価を得ようという考えもあっただろう。
そのためには結果だと。なによりも結果だと。
チームを機能させ、勝利に導くことこそが、自身の存在証明になると。
だが甘い。
僕の見立てでは、ハリルホジッチは大島選手が負傷した時点でチームを機能させるということをあきらめている。
ハリルホジッチは間違いなく日本代表での仕事に情熱を持って取り組んでいただろう。
だけれども、その分日本代表というチームの持つ問題にもよりシビアに見ていたと考えている。
マリ戦後、大島選手の代わりはいないとコメントしている。
彼が担えるロールが、ハリルホジッチが考える日本のアイデンティティとなるフットボールの実現には欠かせない、と考えていたのだろう。
では、彼がいなければ。
できないことはやらない。
ハリルホジッチの「今回は結果を求めた」は選手たちへのプレッシャー軽減の言葉だったと考えられる。
内容はいいよ、もうとにかくいい。結果求めたフットボールをしよう。
つまり、ハリルホジッチとしては一旦は機能性を棚上げにしたのに、本田選手は結果のために見かけ上の機能性を優先してしまった。
結果を求めるということのズレ、そして本田選手の最後の最後に見せた「甘さ」は、結果として日本代表の進歩を大きく阻害するものだったと。
パーソナリティも、コミュニケーション能力も、経験も、実績も。
全てにおいて彼は現代表において長谷部と並んで傑出した存在だ。
だからこそ、彼がチームの助けに入ったときチームメイトは大いに安堵し、本田選手のようなプレーがあると助かるとコメントしたのだ。
そこを、突き放さなければならなかったと思う。
そしてもう一つ。
ハリルホジッチは本田選手のシュート技術や、勝負度胸をみてより最終勝負の場面に専念をしてほしかったのではないか、とは思う。
ハリルホジッチ「とにかく勝ちたい」 キリンカップメンバー発表会見 - スポーツナビ
(本田)ケイスケは長年代表にいる。良いシーズンを送ったと思う。彼とはよく話をするし、信頼している。かなり難しいクラブでプレーしている。最近は先発で出続けているが、彼も伸ばすためにディスカッションが必要だ。ミランとA代表では違うポジションでプレーしてもらわなければいけない。代表ではFWとして考えている。そして、われわれにとって一番良いゴールゲッターだ。ポジションにつく、背後に走るといった動き方がミランとは違うので、できるだけ早く考え方を変えてほしい。
ハリル「中島は爆発的なスピードがある」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ
FWはまずは得点を取る、もしくは取らせる。降りてきてボールを足元でもらうのではなく、やはり背後に行ってほしいと思う。そうすれば得点は取れるが、足元でもらうために降りてきてしまうと、得点を取るのは難しくなる。
全くもって普通のことで、むしろ前線の選手に君らの仕事は得点を取ることだよ、とはっきりと援護してくれる監督というのも今時では中々珍しいかとは思うが。
これは本田選手の年齢を考えても合理的なアドバイスだったとは考えている。
より長い距離を走ることは難しくなり、スプリントの爆発力も失われていく。
ベテランになればなるほど、プレーを洗練させていかなければならない。
ポジションを下げる選手もいるし、2列目の選手として生き続ける選手もいる。
ただどちらにせよ、少しずつ自分のできる仕事という物をわきまえたプレー、勘所をさえたプレーともいえるだろうか、そういう物を身に着けていく、そういう段階にあるのは間違いないと思うのだ。
本田選手について難しい時期があったことは耳に入っている。
そうした時期を乗り越え、メキシコでゴール感覚を磨き直すのみならず、無酸素運動持久力とドリブル技術の向上という選択、そして少なからず成果をだしてみせたというプロフェッショナルとしての姿勢は、ハリルホジッチにとっては驚異的に映ったのではなかろうか。
だからこそ3月のベルギー遠征に招集した。
新しい本田圭佑を期待して。
だが、彼は最後の最後でケイスケ・ホンダに戻ることを選んでしまった。
その落胆、怒り、疑問はいかほどであったろうか。
ラモス瑠偉がベテランになったころ、当時の読売クラブの監督であったペペはこう語った。
本当に優れた選手は、生き返るんだよ。フットボールを2度生きるんだ。
本田圭佑が本田圭佑として生き返るための2017年7月からの旅は、最後の最後で、まるで呪文のスペルを一字間違えたかのようなことが起こり、彼はケイスケ・ホンダとして生きることになった。
そうしてその技術を、ディフェンスからのボールを受けるために浪費し、その頭脳を、チームの守備のために浪費し、しかしながらそれだけのタスクをこなす走力がない現実の中で、どうしたって生み出してしまう隙間を非難され、君たちは分かってないんだ、と嘆くだけの存在になり下がる。
そんな結末が、日本のサッカー史に足跡を大きく残した選手に相応しものかと言えばぼくは全くそうは思わない。
だが、選んだのは彼である。
日本のために、日本代表のチームのために、歪でもこの身を捧げる、と。
なれば存分に演じてもらおうではないか。
自由という名の檻でもがくケイスケ・ホンダを。