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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 麻央ちゃんはあれからすぐに悠理君と仲直りし、今では元通りラブラブに戻っている。羨ましい。可愛い麻央ちゃんには恋愛ぼっち村とは無縁な生活を送ってもらいたいものだ。

 その麻央ちゃんと私はあの日以来、共通の敵と共通の悩みを持つもの同士、急速に絆を深めた。

 麻央ちゃんは市之倉さんに対し、「もう晴斗兄様とは一緒に食事に行かない!」と怒り心頭で、私もその言葉には同意した。だって恋人のエリカさんに悪いしね。麻央ちゃんは「晴斗兄様の食べ歩きの趣味にはエリカさんが付き合えばいいのよ。だって彼女なんだから。そして太っちゃえ…」と悪い顔でくくくっと笑った。やめてー!可愛い麻央ちゃんの黒い笑顔やめてー!あどけない麻央ちゃんに戻ってー!

 しかしそのあと麻央ちゃんが少し不安そうな顔をして、「晴斗兄様がいなくても、麗華お姉様、私と一緒に出掛けてくれますか?」と尋ねてきたので、あまりの可愛さにぎゅっと抱きしめてしまった。なんて可愛い私の妹!

 あまりに可愛いので、夏休みに我が家へ遊びに来てもらう約束まで取りつけた。夏休みはふたりでたくさん遊ぼうねー。あ、もちろん悠理君も一緒ね。

 市之倉さんは、突然溺愛する姪から嫌われたことにかなりの衝撃を受けたらしく、私に大慌てで連絡してきた。


「麻央がもう一緒にごはん食べないって怒ってるんだけど…」

「あらぁ」

「どうしたらいいかな。麗華さん、麻央を説得してくれないか?」

「申し訳ありませんけど私は市之倉様よりも麻央ちゃんが大事ですから、麻央ちゃんの味方になりますわ」

「麗華さん…」

「大丈夫ですわ。ほとぼりが冷めれば麻央ちゃんも許してくれますわよ。麻央ちゃんは市之倉様が大好きですからね」

「そうかな…。麻央に会いに行ったら、晴斗兄様はお母様の弟だから今日から叔父さんと呼ぶ!って言われちゃって、僕もうショックで…」


 市之倉さんの精神的ダメージが、電話の声からひしひしと伝わってきた。26歳で叔父さんって呼ばれるのはなかなかきついだろうなぁ。しかし乙女心を傷つけた罪だ、甘んじて受けるがよい。うけけけけ。




 今日は麻央ちゃんがピヴォワーヌのサロンに行ってみたいと言ったので、悠理君と一緒に連れて行くことにした。途中で「やっぱりお邪魔じゃないかしら。ほかの方々から迷惑だと思われないかしら…」と麻央ちゃんが心配し始めた。


「平気ですわ。同じピヴォワーヌのメンバーなのですから。それに前にも来たことがありませんでした?」

「そうですけど…」


 確か前に一度お誕生日パーティーのお誘いをしに、わざわざピヴォワーヌへ会いに来てくれたことがあったはず。その時だって誰にも咎められなかったんだから大丈夫大丈夫。

 果たして可愛い麻央ちゃんと悠理君はしっかり歓迎された。


「まぁ!可愛らしい!プティの子達ね?私はピヴォワーヌの現会長の沖島瑤子ですわ。どうぞよろしく」

「はいっ、よろしくお願いいたします!」

「本当に可愛いわねぇ」


 会長に気に入られたので、この学院における麻央ちゃん達の明るい前途は約束された。

 私達が小さなお客様をもてなしていると、鏑木と円城がサロンにやってきた。ふたりはサロンに子供がいたので、あれっ?という顔をした。そして麻央ちゃんは、かの有名な皇帝達が現れたことに動揺してしまった。

 すると円城がそんな麻央ちゃんの気持ちを読み取ったのか、優しく微笑みながら話しかけてきた。


「こんにちは。プティの子達かな?」

「はいっ」

「じゃあ僕の弟は知っているかな?円城雪野というんだけど」

「はい!雪野君とはプティでよくおしゃべりをしています!」

「そう。仲良くしてくれてありがとう。これからも弟のことよろしくね?」

「はいっ!」

「雪野はプティではどんな様子かな」

「えっと…」


 円城のキラキラ笑顔に麻央ちゃんは顔が真っ赤だ。鏑木も「へぇ、雪野の友達?」と珍しく気安く声を掛け、「雪野に迷惑をかけられたら、いつでも言いに来い」と麻央ちゃんの肩を軽く叩いた。麻央ちゃん完全に茹でダコ状態。このままじゃ耳からプシューッと湯気を出すんじゃないか?

 隣の悠理君はそんな麻央ちゃんの態度に、少し面白くなさそうな顔をしていた。可愛いーー!

 円城に、顔を赤くしながらも一生懸命に雪野君の初等科での様子を伝えている麻央ちゃんは、隣の悠理君の不機嫌に全く気づいていないけれど、鏑木がそれに目敏く気づいてしまった。


「なんだお前、妬いてるのか?」


 悠理君は内心を直球で言い当てられてギョッとした顔をした。鏑木!デリカシー!


「なんだよお前ー、しっかりしろよー!秀介なんかに取られてるんじゃねーよ!」


 そう言って鏑木が楽しそうに悠理君の頭をがしがし撫でた。鏑木!力加減!

 悠理君は髪をぐしゃぐしゃにされながら、「そんなんじゃないです!」と必死に抵抗していた。


「よし!俺がお前の恋の悩みを聞いてやろう」


 そう言うと、鏑木は悠理君を強引に引っ張って端のソファーに連れて行った。ちょっと鏑木!悠理君に余計なこと吹き込まないでよね!だいたい麻央ちゃんと両思いの悠理君は、現時点であんたより恋愛ステージは上だ!鏑木こそ教えを請え!若葉ちゃんとまるで進展がないってどういうことだ!

 心配した私が必死で聞き耳をたてていると、案の定鏑木は恋の相談役として全くの役立たずだったようで、すぐにサッカーの話題に変わっていた。良かった…。悠理君に悪影響が出たら大変だもの。

 麻央ちゃんは隣に悠理君がいないことにやっと気づき、慌てて悠理君の元に駆け寄った。悠理君がいなくなって不安になっちゃったのかな?

 鏑木はそんな小さなラブラブカップルを面白そうに眺め、興が乗ったのかピアノで“子犬のワルツ”を弾きだした。それにまた麻央ちゃんが感動してはしゃぐので、悠理君の口がへの字になってしまった──。

 その日鏑木は麻央ちゃんのリクエストに応え、次々にピアノを演奏してくれたので、麻央ちゃんは女子メンバー達から帰りに、「ぜひまたいらして!」と懇願されていた。

 帰り道、麻央ちゃんは胸に手を当て、「夢のような時間でした…」とうっとりしていたけれど、私はいつもそばにいて麻央ちゃんを守り、しかも嘘をつかない悠理君のほうがよっぽど素敵だと思うぞ。

 しかし楽器っていうのは強いな~。ディーテがモテるという噂は聞かないけれど…。


 そして、麻央ちゃん達がピヴォワーヌのサロンに遊びに行ったという話を知った雪野君が少し拗ねていると、次の日苦笑交じりの円城から聞かされた。雪野君、ごめんね!




 家に帰るとお兄様に突然「水族館と動物園、どっちがいい?」と聞かれたので、よくわからないけど夏だし「水族館」と答えておいた。

「今回はあまりダメージ受けていないから日帰りかなぁ…」って、だからなんのこと?

 でも忙しいお兄様が私を水族館に連れて行ってくれるのかな?だったら嬉しい!そうだ!麻央ちゃんも誘おう!お兄様ポジションを取られたら、市之倉さんがまたショックを受けそうだけど。うけけけけ。

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