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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 期末テストの勉強をしながら夜中小腹が空いたので、ロココの女王の王朝名の付いたお菓子会社のチョコレート菓子を食べた。薄紫色のチョコは齧るとパリパリとしておいしい。軽いのでつい手が止まらなくなっちゃうね。夕食もちゃんと食べたのに。

 最近時々思うんだけど、私、満腹中枢がイカれてるんじゃないかな…。市之倉さんとの食事で胃が大きくなっているのかも…。

 それでも腹が減っては戦が出来ぬ。誰にも気づいてもらえなかったけど、前回のテストで29位になったので、今回もその順位のラインは死守したい。お菓子で脳に栄養を行き渡らせながら、ひたすら暗記、暗記。

 そして暗記は覚えたあと一度寝ると、記憶に保存、定着すると聞いたのでぐっすりと寝たら、朝になって覚えたことをほとんど忘れていた!どういうこと?!

 定着どころかデリートされてしまった暗記を半泣きで一からやり直す。もうダメだ、赤点だ…。あぁ、若葉ちゃんはいったいどんな勉強法を実践しているんだろう。ぜひ教えてもらいたい。

 脳の血行が良ければ暗記もはかどるかもと、お風呂に浸かりながら歴史年表を覚えていたら、のぼせて具合が悪くなった。

 頑張れ、私!



 そうやって頑張った期末テスト。結果は30位だった。うおおっ!順位表に首の皮一枚でなんとか繋がってるぅっ!


「あらっ!麗華様、30位ですわ!」

「麗華様、凄いわ!」


 今回は周りの子達が私の順位に気づいてくれた。嬉しいっ!でもここで露骨に喜ぶようなことはしない。「まぁ本当ね」などと言ってホホホと笑い、裏で必死になって勉強していたなんて、絶対に悟らせない余裕の態度を見せる。芹香ちゃん菊乃ちゃんが「さすがですわ、麗華様!」と褒めたたえてくれたので、「ありがとう。でもむしろ前回より順位は下がってしまったのよ?今回はあまり試験勉強をする時間がなかったから…」と、誰も気づいてくれなかった前回のアピールをチラッとしてみた。「そうだったんですか?!」「30位で下がったなんて、麗華様はやはり違うわ」「勉強しないで30位だなんて!」と益々高まる称賛の声。嬉しすぎて口角がにや~っと上がるのを、慌てて手で隠した。


「みなさん、もうおよしになって。私の順位なんてたいしたものではありませんわ。それよりもほら、鏑木様達のほうが素晴らしいのではなくて?」


 これ以上は嫌味になると思って、話題を逸らした。


「そうですわね!さすがは瑞鸞の皇帝ですわ!」


 今回の期末テストで、鏑木は見事首位の座に返り咲いた。そして円城は2位。若葉ちゃんは3位だ。

 鏑木と円城が1位2位を獲ったので、前回と違い生徒達の空気が明るい。見たか!我々の代表の実力!といった感じだ。

 若葉ちゃんは順位表を見ながら「おおっ!」という口をしていた。若葉ちゃんを良く思っていない子達が「所詮まぐれだったのよ」と聞こえよがしに後ろで言っていた。


「鏑木様と円城様よ!」


 人垣がモーセの十戒のように割れ、そこをふたりが悠々と歩いてきた。生徒達が注目する中、鏑木と円城は順位表を確認した。あ、今一瞬、鏑木の片方の口角がピクッとした。


「鏑木様、1位おめでとうございます!」

「円城様、素晴らしいですわ!」


 賛美の嵐に、円城はありがとうと微笑み、鏑木は当然の結果だといわんばかりの態度で接した。

 誰かの「高道さんなどに負けるわけがないのよ」という言葉に、鏑木の目が若葉ちゃんの姿をとらえた。そして鏑木はふっと笑うと若葉ちゃんに近づき、「まぁ次は頑張れ」と肩を叩いて円城とふたり、颯爽と順位表から立ち去った。

 後に残された若葉ちゃんは、皇帝に声を掛けられ肩まで叩かれたことで、いらぬ嫉妬を買っていた…。


 負けず嫌いの鏑木。あんた今回の試験勉強、相当頑張っただろう。






 市之倉さんからテストが終わったお祝いに食事に誘われた。しかもその時に、紹介したい人がいるという。聞けばどうやら市之倉さんの恋人らしい!

“晴斗兄様の恋人の存在”を全く知らなかった麻央ちゃんは、かなりショックを受けていた。プティのサロンに行くと、若干落ち込み気味で迎えてくれた。今日も麻央ちゃんの隣に悠理君の姿はない。まだ太った?発言が尾をひいているらしい。


「私、晴斗兄様に恋人がいたなんて知りませんでしたわ…」

「そうねぇ。私も初めて聞きましたわ」


 麻央ちゃんからしたら、大好きなお兄様を取られる気分なのかな。ちょっと寂しそうにしていたので、肩に手を回してポンポンと軽く叩いた。

 私もお兄様が恋人を連れてきたら麻央ちゃんみたいにショックを受けるのかなぁ…。


「私、晴斗兄様には麗華お姉様とお付き合いして欲しかったのに…」

「えっ!」


 それはちょっと…。年齢差がありすぎるし。市之倉さんて確か今26歳でしょ。私と付き合ったら犯罪だよ?

 観桜会で初めて会った時には、華奢で折れちゃいそうという殺し文句にときめいちゃったけど、親しくするうちに段々、食の同志という気持ちのほうが強くなっちゃった。市之倉さんもなんでもおいしく食べる麗華さんとの食事は楽しいって言ってくれてたし。優しいし和の空気が癒されるし、お兄様とは違う安心感。彼女がいても、今の関係が続けられるといいなぁ。だってこんなに食べ物の好みが合う人、ほかにいないし。


「麻央ちゃん、市之倉さんが幸せならいいじゃない?祝福してあげましょう?」

「…はい」


 麻央ちゃんがちょこんと頷いた。


「どんなかたなのかしらねぇ。市之倉さんが選んだかたですもの。きっと素敵なかたね」

「晴斗兄様と一緒で、おいしいものが大好きなかただと思いますわ!」


 立ち直った麻央ちゃんが笑いながら言った。うん、私もそう思う。きっと市之倉さんとおいしいものを食べ歩きしているんだろう。


「晴斗兄様の好きなぽっちゃりさんね、きっと」

「私もそう思いますわ」


 あの市之倉さんの恋人だもの、たくさん食べるんだろうなぁ。


「週末に会えるのが楽しみですわね」


 私と麻央ちゃんはにっこり笑って頷き合った。






 休日の昼下がり、私と麻央ちゃんの前に現れた市之倉さんの恋人は、モデルのように華奢で細いひとだった。


 はあああああっっっ?!


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