カナダ・オンタリオ州クイーンズ大学で行われたFPSゲームのディスカッションは予想通り、ゲームの暴力性へと話題を移した。
暴力性の高いゲームには没入感があると言われているが、果たして「没入感」とは一体何を意味しているのだろうか?
学生は没入感には「感情的なもの」と「想像」の両要素があると指摘したが、彼らにとって重要なのは「現実からの逃避と自由」という感覚が得られることなのだという。
ゲームの暴力性に否定的な向きは、ゲームをすると暴力的になると信じている。なぜなら、プレイヤーはゲームの世界の暴力を現実世界でも行おうとするはずだ考える人が多いからだ。
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例えば、アメリカ・ケンタッキー州のマット・ベヴィン知事は最近このような発言をしている。
私は合衆国憲法修正第1条と表現の自由の信奉者だが、どぎつすぎて暴力に関連していることがある……これらにパブリックドメインに対する利点などなく、若い人々の心と手と家庭については言うまでもない……
(ゲームは)人を虐殺することを賞賛する。こうした学生が校舎で行なったことと全く同じことを文字通り再現し、それによってポイントが得られる力を人々に与えるゲームがある。そこでは命乞いをして横たわる人にとどめを刺すと追加ポイントが得られる
暴力的ゲームは実際の暴力の引き金になるのか?
こうしたゲームの多くが悪趣味だとみなされるかもしれない一方、暴力的ゲームが実際の暴力の引き金となるかを調べた研究からは、的確な結果が得られていない。
没入感に関する誤解「没入感の誤謬(ごびゅう)」
プレイヤーがゲームを現実からの逃避と思っているのなら、ゲームが現実と混同されるはずはないのだ。
マサチューセッツ工科大学が出版した『ルールズ・オブ・プレイ』の著者、ケイティ・サレンとエリック・ジマーマンは、ゲームと没入感を構成するものの理解には重大な欠陥があると論じている。
プレイヤーがゲームをプレイしていることをすっかり忘れてしまう状態に達するという見解は、よくある誤解だ。サレンとジマーマンはこれを「没入感の誤謬(immersive fallacy)」と呼ぶ。
つまり、ゲーム内の「現実はあまりにも完全で、それゆえにプレイヤーが想像の世界の一部になっていると信じきっている」という見解は間違っている。
そんなことはなく、プレイヤーは「プレイしている状況の人工性をきちんと認識している」と両氏は論じる。事実、ゲームを面白いものにしているのはこの人工性なのだ。
バトルフィールド1で見る没入感
例を挙げよう。
Battlefield 1 Pigeon Gameplay - Most Speechless Scene Ever
このシーンは、第一次世界大戦を舞台とする2016年作品『バトルフィールド1』のものだが、このゲームではプレイヤーの演じるキャラクターが変化する。
ゲームは戦車の操縦で始まり、敵めがけて砲撃を加えるのだが、泥で立ち往生すると、直ちに敵が迫ってくる。
プレイヤーは戦車に閉じ込められ、不気味かつ不明瞭な音楽が流れる。銃声に圧倒される中、危ういところでキャラクターは仲間の銃に助けられる。
銃声の環境ノイズが静まると、トランペットやトロンボーンの音色が前面に出て、ミリタリー的な雰囲気を演出する。
プレイヤーが伝書鳩を放すとここでキャラクターが変更される。ゲームプレイががらっと変化するために、自分のキャラクターが変更されたことははっきりと分かる。ここでのプレイヤーの役割は鳥の視点で世界を眺めながら鳩を操作して、目的地にたどり着くことだ。
音楽の雰囲気もがらりと変わり、銃弾の命中音が反響する戦車内の狭く暗い雰囲気のブラスやストリングスから、鳥の飛行を表現するピアノによる穏やかな曲調となる。シンプルなハーモニーが自由さを演出する。
しかし鳩が地上に舞い降りると、音楽は再びそれまでの緊迫感溢れるブラスと混沌としたリズムに変わる。
image credit:youtube
バトルフィールド1は没入感溢れるゲームと称された。しかしプレイヤーがゲームは現実であると信じ込むという意味で没入感を捉えると、プレイヤーは自分を第一次世界大戦の兵士であると認識していると解釈すべきことになる。
そのような状況において、鳥の視点に変化することは没入感を阻害するだろう。
プレイヤーは、鳥のキャラに変化した際の音楽の劇的な変化にも気づいている。さらに暗い戦車の内部とのコントラストも、鳥になった時の異質感を強めている。
ゲームのプレイヤーがもつ柔軟性
サレンとジマーマンは、「プレイヤーが常に遊んでいること」を知っており、それゆえに役割の変化にも抵抗がないのだと説明する。
プレイヤーにはこのような柔軟さがあり、没入している瞬間から出入りし、プレイヤーと登場人物との枠を破ることができる。
言い換えると、プレイヤーは自分がフィクションの世界で遊んでおり、フィクションだからこそ現実の人生では不可能な体験や視点を味わえるということを完全に認識しているということだ。
戦争ゲームの真っ最中における視点の変化と不意の鳥への役割の変化は、鳩のシーンをきわめて効果的にする柔軟性であって、劇的なコントラストを生み出し、この場面に強いエモーショナルな反応を引き起こす。
プレイヤーはゲームが現実でないと知っている
一般の人が没入感を混同してることは驚くに当たらない。ゲーマーでさえ”没入感”の意味について一貫した理解はしていないのだから。
部分的な原因は、この言葉が2つの意味で使われることだろう。
ゲーマーはこの用語を使ってしばしばゲーム世界の奥深さや細部の描写について言及するが、口語的にはゲームの中毒性を表す際にも使われる。この曖昧さは没入感を測定する方法について検証した2008年の研究でも取り上げられた。
プレイヤーは『テトリス』を遊んで「完全に没入していた」と表現するかもしれないが、これは彼らがロシア民謡に合わせて4種のブロックが落下してくる世界に入り込んでいたと信じ込んでいるということをこれっぽちも意味しない。
一方、『スカイリム』も世界への没入感が味わえると語られる。こちらは独自の政治、宗教、文学すら存在しつつ、魔法を唱えたり、宝探しをしたり、人間ではない種族でプレイしたりというゲームならではの特徴も体験できる。
The Elder Scrolls V: Skyrim - Official Trailer
プレイヤーのクエストは、定期的にアクセスしてほとんどのアクションを完遂できるテキストメニューによって簡単に行える。
画面上のメニューのコンスタントな視覚的表示は、これが現実ではないことをはっきりと定期的に思い出させる。
現実逃避の為のゲームプレイは現実の暴力行為とは結び付かない
ディスカッションを通じて確信を深めたことは、現実から逃避することが効果的なゲームプレイを生み出しているということだ。
サレンとジマーマンが論じているように、プレイ中に生じる心の重層状態は賞賛すべきもので、抑圧すべきものではないのかもしれない。
観衆に独自の視点を見せてくれる世界のフレームワークをもたらす優れた本や映画とまさに同様に、ゲームもまた確固たるフィクションであり続けながら想像のフレームワークをもたらしてくれる。
ただしゲームにはその素晴らしい世界観が故に中毒性が高く依存症となる場合がある。現実での暴力行為につながらなくても、現実の人間としての営みを行えなくなる可能性があるので注意が必要だ。
References:sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
コレ前々から言われてつけどさ
逆じゃないかと思うんだけどね
そもそもゲームって
ストレス解消の為のものでしょ?
良いガス抜きになってると思うんだけどな
2.
3. 匿名処理班
むしろそんな事言っている奴と、それに感化されるやつを隔離する必要があるだろ
連想ゲーム程度の思考で物事判断するなと