統計学の歴史〜古代ローマから現代まで〜

 2016/08/16    2017/07/02    統計学の基礎    

今日、統計学はさまざまな場面で使われ、人間社会の発展に貢献しています。今回はそんな統計学がどのようにして現代のような形に至ったのか、その歴史について見ていきましょう。実は古代ローマ時代から統計学は使われていました。

統計学のはじまり(古代ローマ時代~大正時代)

古代における統計

彫刻

古代ローマで人口調査をしたとされるアウグストゥス(紀元前63年~紀元後14年)

今日における統計学という概念が誕生する前も、古代ローマや中国、バビロニアなどで人口調査が行われていました。人口調査も国家という集まりを数理的に分析するという意味では立派な統計です。その名残は現代の日本にも受け継がれています。

その一つが国税調査です。我が国において、国勢調査は、人口センサスと呼ばれています。このセンサス(Census)の語源は、古代ローマにおいて、市民の調査を担当する職員をラテン語でセンサー(Censere)といい、これが転じてセンサス(Census)となったと言われています。

そもそも、古代の人類はなぜ人口調査を行ったのでしょうか。

それは、国家の繁栄維持のためでした。そのためには、国民から確実な徴兵や徴税を行う必要があるということを、古代の人々も分かっていたのです。だから、子供の数、男女比率を正確に把握しようとしました。

日本における統計学の展望

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このような調査は古代の日本でも行われました。大化の改新では、班田収授法が発令。6年に一度全国的な戸籍調査が行われ、この調査は約360年間続きました。

その後は豊臣秀吉が1592年に発令した人掃令で全国的な戸籍調査を行いました。これは、朝鮮出兵のための兵力把握のために、村ごとの家族構成などをまとめて提出させるための法令でした。

さらにその後、江戸幕府第8代将軍徳川吉宗により、全国人口調査が行われました。キリシタンを取り締まるためでした。しかしこの調査では、武士など対象外の身分の人が多数存在したり、調査方法が統一されていなかったりと、正確なものではありませんでした。

その後、明治時代に入り、”国勢調査ニ関スル法律”が制定されました。日露戦争や第一次世界対戦の影響もあり、第一回目の国勢調査が行われたのは、かなり遅れて大正9年(1920年)になります。この後日本では、原則として5年に1度、国勢調査が行われ現在に至ります。
このように、統計という概念が生まれる前にも国の長が自国の状態を知るために、戸籍調査のようなことが幾度となく行われていました。

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学問としての統計学の誕生(14世紀~19世紀)

さて、いよいよ統計が統計学という学問として確立するまでの流れを見ていきます。現代の統計学について語る上で欠かせないのが確率論の考え方です。しかし、当初は統計学と確率論は別々の方向から研究され、発達してきたのです。

確率論の歴史

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学問としての確率論は賭博から始まりました。数学者として名を残したイタリア人のカルダーノが「数学をなんとか賭博に役立てることが出来ないものか」と、考えたのです。彼は、結論として「ギャンブラーにとっては、全くギャンブルをしないことが最大の利益となる。」という言葉も残しましたが(笑)

何はともあれこれが確率論の始まりだったのです。また、彼は初めて学術的に確率論について論じた「サイコロ遊びについて」を著しました。

その後、パスカルとフェルマーによるサイコロ賭博をテーマにした書簡のやりとりは多くの人々の関心の的でした。広く人々の関心を集めた背景には、富を確実なものにしたいと強く願う商人たちがたくさんいたからです。

さらにその後、ベルヌーイやラグランジュ、ベイズ統計の基礎を築いたベイズなどの有名数学者による研究をまとめたのがラプラスの「確率の解析理論」です。

確率論とは別々に発展した統計学

古代の統計

出典:http://www.dailymail.co.uk

現在でもよく使われている統計学の考え方(推計統計学)の基礎は、17世紀のイギリス人商人のジョングラントという人物によって編み出されました。彼は友人のペティと協力し、教会の資料をもとに”死亡統計表”を作成しました。

その死亡統計表を元に、「死亡表に関する自然的および政治的観察」を発行しました。観察の中には「36パーセントの子供は6歳までに死ぬ」という衝撃的な記述がありました。

当時のロンドンではペストという伝染病が蔓延していたのです。高い死亡率にも関わらず、政府は安定した兵力を欲しがりました。このような状況下での人口の把握は困難を極めました。そこで、グラントはこのような子供の死亡率のみならず、人間の出生・婚姻・死亡など、人口動態にあらわれる数量的規則性を明らかにしました。そして、限られた量のサンプルデータからロンドン全体の状態を把握することを可能にしました。そのため、政府はグラントの研究を非常に重宝しました。

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エドモンド・ハレー(1656〜1742)

グラントに続いて、この「限られたデータから全体を把握する」手法を発展させたのが、ハレー彗星を発見したことで知られるイギリスの学者、エドモンド・ハレーです。ハレーは、ドイツ(現ポーランド)のブレスラウの記録に基づいて、死亡年齢の統計的解析を行ないました。

彼は、それまで「神のみぞ知る」と言われていた「人の死」という現象を初めて集団的に捉えました。そうすると、そこに一定の規則性があることを発見したのです。

これにより、当時はほぼ運試しであった保険事業も、購入者の年齢にあわせた的確な値段で保険を販売し、安定した運営が可能になりました。今日、保険会社が人々の生活に大きく貢献しているのも彼の功績のおかげなのです。現在でも、保険会社の保険金算出・資産管理をするアクチュアリーという立場の人は必ず統計の勉強をしています。

現在にいたるまでの統計学(20世紀~現在)

20世紀までに、統計を取る方法と統計したデータを集める方法は、それぞれ国家と数学者によって確立されました。先ほど記述したグラントやハレーのように、集計したデータから平均分散などを求めるような学問を古典統計学、または記述統計学と呼びます。

推計統計学の登場(20世紀初頭)

ロナルド・フィッシャー

ロナルド・フィッシャー(1890〜1962)

20世紀に入り、統計学は大きな転機を迎えます。”推計統計学”の登場です。

ロナウド・フィッシャーという人物が、集計されたデータは大きな母集団のうちの小さな標本に過ぎないと考えたのです。

この集計された「部分的である」とされたデータから母集団の性質を見極めようとするのが推測統計学、”頻度論”と呼ばれる考え方です。統計学に少し詳しい人なら耳にしたことがある、標本から母集団を推測する”推定”という概念もここで生まれました。我々日本人が、高校や大学で学習する統計学というのは多くがこれに当てはまっています。

ベイズ確率の登場(20世紀中頃)

トーマス・ベイズ(1702年 - 1761)

さらに、20世紀の統計学の進化はこれだけにとどまりません。1950年代には20世紀初頭にフィッシャーの考え方によりねじ伏せられていた、ベイズ統計の概念が再燃しました。

ベイズ確率は現代の人工知能や機械学習の分野でも利用されている重要な理論です。トーマス・ベイズは1700年代にはベイズの定理を提唱していましたが、その理論はくしくも当時の統計学界では軽視されていました。というのも、ベイズの考え方は人間の心理による主観的な部分があったからです。科学者は客観性を重んじる生き物ですから、これに対して嫌悪感があったということです。

そのベイズの考え方がなぜ、再び日の目を見るようになったのでしょうか?理由は大きく分けて2つです。

1つ目は、大戦中の暗号解析で結果を出したことです。第二次世界大戦中、イギリス軍がベイズの考え方を使って、ナチスの暗号解読に成功しました。この業績はしばらくの間、軍事機密でしたが公開が許され注目を浴びたのです。下の写真は当時暗号解析に使われた機械のレプリカです。

出典:wikipedia

出典:wikipedia

2つ目に、この時代から発達し始めたコンピューターとの相性がよかったことなどがあげられます。そのため、現在も人工知能や機械学習の分野で盛んに使われているのです。

しかし、ベイズ論によって頻度論が淘汰されたわけではありません。膨大なデータがあるときは頻度論を、データが少ないときはベイズ論を使うなどして両方の考え方が今もなお使われています。ただ、それぞれの理論は根本から大きく異なっているため、今日に至るまで、ベイズ論派の学者と頻度論派の学者はお互いに対立しています。

 

今日における統計学

ここまで、ざっと統計学の歴史を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?

統計学の概念は大古の昔から使われていましたが、学問としての統計学はまだ登場して日が浅いです。新しい学問であるだけに、新しい概念や活用法が続々と生まれています。ビッグデータや機械学習などはその良い例です。

また、2011年には統計質保証推進協会と日本統計学会による、”統計検定”という資格試験が始まりました。その受験者数は、年々増加を続け、今では開始当初の5倍の人が受験しています。

出典:http://www.toukei-kentei.jp/past/kiroku2/#records_total

出典:http://www.toukei-kentei.jp/past/kiroku2/#records_total

統計学は、人気な学問になりつつあります。今日、統計学は、医療、マーケティング、経営など様々な場面で利用され、社会の発展に貢献しています。これから先も我々の生活と密接に関わりながら、ますます発展していく学問であることでしょう。

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