【3×8】✱●REC


「お願いがあるんですけどォ…」
「却下」
「まだ何にも言ってないのに…」

金曜日の21時、外はもうとっぷりと夜も更けて、春とはいえ少し肌寒い。
家に来てからというものの、ソファでゴロゴロしながら酒を飲み食べ物をつまみ、床に座るhacchiさんの後頭部とゲーム画面を見ながらだらけていた。
恋仲になってからお互い色々な部分を新たに知りつつ、幸せな日々をそれなりに送っていたわけだけど。

「こんな事ね、言うのもアレなんですけどもね…」

もぞもぞと口篭る俺を余所に、hacchiさんは微動だにせずコントローラー片手にコンテニューを50回以上している。
死にゲー好きもここまで来たらもう性癖なんじゃないかと思うくらいの執念だ。俺が言えたことでもないのだけれど。

「最近ね、夜の方がね、こう…ワンパターンかな…?って…思う訳なんですよ、はい…」

hacchiさんは思いっきりコントローラーを滑り落として、俺の発言と同時に記念すべき51回目の死を迎えた。
ぐりんと振り返るhacchiさんの顔が余りにも人を殺しそうな人相で、思わず俺もツマミの一口チーズを落としてしまう。

「アッ…あのォ、すみませんでした…」

気迫に押され反射的に謝ると、hacchiさんはじっと俺を見詰めて、その後ゆっくりと目を逸らす。
hacchiさんは何か考え込んでいるようで、暫く画面はゲームオーバーのまま止まっていた。
怒らせてしまったと思い謝罪のパターンを何通りかシュミレーションしていると、hacchiさんは「飽きたの」と短く聞いた。

「えっ」
「だから、飽きたの」
「いや、飽きたとか…そういうのでは無くて、今後長く付き合う上で、新しいことにも挑戦したら…もっと、ね。こう…新鮮さが出るかなって、だけです。それだけです」
「…お互いオッサンなんだから、新鮮もクソも無いでしょ」
「ウッ…」

そりゃそうである。hacchiさんは時々至極真っ当な返答をするから、抉られ方が相当キツい。ド正論だ。
でも、hacchiさんがこうして聞いてくることに何となく違和感を覚えた。何時もならこうして一方的に話しても、無視されるか一蹴するかで終わるのだ。
これ、もしかして行けるのか?そんな都合のいい展開を考え、もう一押しをする。

「色んなハッチさん見たいんです、俺が」
「…具体的に、何するの」

少しだけ唇を尖らせながら渋々聞き返すhacchiさんを見て、心の中でガッツポーズをする。コレは行ける説濃厚だ。
俺は落として食べ損ねたチーズを口に放り込んで、意気揚々と言った。

「実況しながらしましょう…!」
「…」
「要するに、実況セックスです…!」

この時hacchiさんの顔ほど、まるで汚物の様に俺を見たことはないだろう。
酷いものだ現実は。



1 / 4

戻る
TOPへ
しおり
カスタマイズ