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92歳の橋田壽賀子が語る「わたしの理想の死にかた」

 死期に備え準備、活動する“終活”。近年書籍などではよく論じられるが、家族間で死について語ることはいまだタブー視されがちである。安楽死とは何を指すか、安楽死を悪用させないための仕組みづくりをどうするか。自身も安楽死を望む橋田壽賀子さんの提言。(出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100)

【橋田壽賀子と安楽死】「子どもがいないから可哀そう」と言った友人の可哀そうな最後

自分で判断ができるうちに、死ななければ 

 私が安楽死を望むのには、私なりの理由があります。もうじゅうぶんに生きて、仕事はやり過ぎるほどやったし、世界中の行きたい場所へ行ったし、思い残すことは何もない。夫には30年近く前に先立たれ、子どもはなく、親しい友人もいない。天涯孤独の身だから、長く生きて欲しいと望んでくれる人もなく、あの人のために生きていたいと願う相手もいない。これ以上生きていても、世の中の役に立たない。

 役に立たなくても元気でいて、他人に迷惑をかけないうちはいいのです。ところが私は92歳。いまは自分で生活できていますが、この先いつ、身体の自由が利かなくなるか。気づかないうちに認知症になって、何もわからなくなるかもしれません。食事から下の世話まで人さまの手を煩(わずら)わせるのは、私は嫌なのです。これは、尊厳とプライドの問題です。

 だからそうなる前に、自分で判断ができるうちに、死ななければいけません。自殺はいけないことだし怖いから、死ぬ時期を自分で決めるには、安楽死しかないのです。


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スイスは80万円で死なせてくれる

 死が目前に迫ったとき、延命治療をしないのが尊厳死。安楽死はさらに進んで、積極的に死期を早めることです。尊厳死を法律で決めている国はたくさんありますが、安楽死は、ヨーロッパのいくつかの国とアメリカのいくつかの州でのみ合法です。しかし希望すれば誰でも死ねるわけではなく、治らない病気で耐えがたい痛みがあること、などの条件があります。スイスにだけ外国人を受け入れてくれる団体があって、費用は80万円ほどだそうです。

 正確には、ルールに則(のっと)った自殺幇助(ほうじょ)です。したがって、医師が自ら注射や点滴をするのではなく、処方された致死量の薬を、死ぬ人自身が飲むのです。

 日本では、尊厳死は認められていますが法律はなく、あらかじめ「延命治療はしません」と意思表示をしておくことが必要です。胃瘻(いろう)や人工呼吸器や延命のための点滴など、もちろん私はご免こうむります。けれども尊厳死では、死期を選ぶことができません。やはり安楽死でなければダメなのです。

 いわゆる「終活」は、89歳のときに始めました。88歳から急に体力が落ちたこと。90になったら脚本の仕事から引退する、と決めていたこと。「ママ」と呼んで親しくしてくれる女優の泉ピン子から、「ママはもう、じゅうぶん歳を取ってるんだよ」と言われたことがきっかけです。ドラマの原稿や放送されたビデオテープをはじめ溜め込んだ物を整理して、段ボール10箱分捨てるだけで2年かかりました。

 合わせて、死んでも公表しないと決めました。目立たずにいつの間にかいなくなって、「そういえばあの人、最近見ないわね。あら亡くなったの」というのが理想です。比べるのもおかしいですが、2015年に亡くなった大女優の原節子さんのように。

 葬式も、偲(しの)ぶ会やお別れの会もやらないと決めました。葬式というのは、遺された家族のためのものです。家族のいない私の葬式は、どうせお義理で来る人ばかり。やらないほうがいいのです。

死を選ぶか生き直すかを考えるチャンス

 日本人は、死について語ることを「縁起でもない」と言って避けようとします。しかし、自分が死ぬときや死んだあとにどうして欲しいかをはっきりさせておかないと、家族が判断に困ったり、迷惑したりすることになります。

 そんなことを考えながら、いずれスイスへ行ってひっそり死ぬつもりでした。ところが、私のように安楽死したいと思っている人が、たくさんいることがわかりました。それならばみんなが外国へ行かなくてすむように、日本でも法律を作って、基準やルールを定めればいいと思います。

 私がイメージしているのは、医師や看護師、弁護士、ソーシャルワーカー、心理カウンセラーなど5、6人のチームを組んで、死にたいと申し出た人の希望を叶えるべきかどうかジャッジする制度です。医師は医学的な見地から診断し、カウンセラーは死にたいという申し出が正常な精神状態でなされているかどうか判断し、弁護士はその人の社会生活や家族関係を調べます。借金やら保険金やらの理由で死ぬことを望んでいないか調べ、家族の賛否を確かめるためです。そうやってチーム全員がOKを出した人だけ、めでたく死なせてもらえるのです。

 反対に「あなたは生きなさい」という判定が下された人には、同じチームが引き続き支援します。死なせてあげるべき人には望みを叶えてあげ、生きるべき人には生き直すチャンスとなる制度です。自殺者も減ると思うのですが、どうでしょうか?

親の介護で子どもを犠牲にしてよいのか

 近頃、親の介護のために子どもが仕事を辞めた、という話をよく耳にします。親も子も、それを望むのならかまいません。けれども親がそのことを負担に感じ、重荷になりたくないと悩みながら、なすすべがない場合は、どうすればいいのでしょう?

 老々介護に疲れ果て、妻が夫を殺して無理心中、といったニュースもよく流れます。本当に胸が痛みます。こんな場合、妻の命だけでも救うことはできないのですか? それに、運よく死ねたらいいようなものの、妻だけ生き残ったら夫に対する殺人です。安楽死の法律があれば、こうした悲劇も減らせるのではないでしょうか?

 自殺を推奨したり、障がい者にマイナスとなる恐れがあるなら、高齢者限定の法律にすればいいのです。重い病気で死期が迫っていなくても、ある程度の歳になって「じゅうぶん生きた。もういいわ」と思う人には、自分からおさらばする権利をもらえないものでしょうか?

(橋田 壽賀子)

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