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 京阪バスは2018年6月15日、東京都内の「富士通デジタルトランスフォーメーションセンター」でITを活用したバス事業の変革をテーマに講演した。不祥事を機にIT活用が進んだとする取り組みに聴講者が耳を傾けた。

 京阪バスは京阪ホールディングス傘下のバス会社で、京都府や大阪府、滋賀県を中心に営業する。約630台の保有バスを早期にオンライン接続して業務活用したり、訪日外国人への対応強化策としてロボットの「Sota(ソータ)」を中国語を話す観光バスガイドとして「乗務」させるなど、積極的にIT活用を進めている。

京阪バスの情報システムの全体像
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 登壇した京阪バスのICT推進部の大久保園明氏は「お客様への情報提供や、人手不足の緩和、事故防止支援などにITを活用する余地は大きい」と強調した。ただ、IT活用のスピードが上がったのはここ数年だという。「それ以前は、IT部門は運行部門に口を出しにくい雰囲気があった」(大久保氏)。この状況を打破したのは「ポケモンGO」だったという。

京阪バスのICT推進部の大久保園明氏
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 京阪バスでは2016年11月に運転手が運行中に私用スマートフォンでポケモンGOを操作していたという不祥事があった。同年12月にも別の運転手が同様の不祥事を起こした。「あってはならない事態だが、『ITで再発を防ごう』という機運が高まった」(大久保氏)。皮肉にも不祥事によって、経営陣や運行部門の間でITの必要性に対する理解が高まった格好だ。大久保氏ら6人が所属するICT推進部は、指導員が乗務態度を評価した記録や、バス車内のドライブレコーダー映像などを細かく管理する仕組みを構築した。

 運行管理強化だけではなく、顧客サービス向けのシステムの拡充も進めた。例えば2017年3月までに、約3000カ所ある全バス停にQRコードを付けて、スマホでQRを読むだけでバスの接近情報が分かるサービスを開始。社内向けには電子会議システムを導入して、役員会を含む主要会議をiPadを使った電子会議方式で実施するように変えたという。

全バス停につけたQRコードで、バスの接近情報がスマホで分かる
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 同社は現在、バス運転手の健康管理強化と事故の未然防止にITを活用するシステムの導入を検討している。富士通が高速バス大手のWILLERに納入したシステムなどを参考に、路線バス3台で実証実験中という。

 バス事業者では運転手の疲労や突発的な発病を原因とする重大事故が後を絶たない。大久保氏は「運転手自身の納得感も得ながら、運行前や運行中の健康状態をきめ細かく把握して安全運行を支援できるようにしたい」と今後の抱負を述べて講演を締めくくっだ。