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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 麻央ちゃんと市之倉さんとのお食事は、麻央ちゃんリクエストのパンケーキだった。

 いつも思うんだけどパンケーキっておやつじゃないの?

 メニューを開くとホイップクリームのタワーの写真がいっぱい。これを主食というハワイの人達の感覚がわからない。朝からこってりホイップクリームって胸焼けしないのかな。慣れなのかしら。

 そう言いながらも割とノリノリで、チョコバナナとホイップクリームのパンケーキを注文した。麻央ちゃんはストロベリー、市之倉さんはホイップクリームのないフルーツパンケーキを選んだ。


「わぁっ!おいしそうっ!」


 運ばれてきたパンケーキに麻央ちゃんが目を輝かせた。パンケーキは思った以上のボリュームだった。


「麗華お姉様のパンケーキもおいしそうですね!」

「麻央ちゃん、こっちも少し食べてみない?」

「いいんですか!だったら私のも食べてください!」


 私達は仲良くパンケーキを分け合った。チョコバナナパンケーキ、おいしーい!私はクレープもチョコバナナ派だ。この甘い食べ物を夕食と言われるのには納得できないけど、おやつとしては最高だ。

 しかしなんでお店のパンケーキはこんなにきれいに焼けるのかなぁ?私が前世でホットケーキを焼いた時は毎回必ずフライパンいっぱいにタネがでろ~と流れて、ホットケーキミックスの写真のように厚みを持たせたいと更にタネの量を増やしたら、最後はお皿からはみだす座布団のようなホットケーキが出来上がってたんだけど。あの量は食べるの大変だったなぁ。表面は焦げてて中は生焼けだったし…。

 きっと家庭ではあんな写真のようにきれいに焼ける人はいないに違いない。誇大広告というやつだな。

 わ、麻央ちゃんのストロベリーもシュガーパウダーがかかってておいしーい!


「市之倉様もチョコバナナいかがですか?おいしいですよ?」

「私のストロベリーも食べて、晴斗兄様!」

「う~ん、僕はいいや」


 おや、前回の釜飯と違って消極的だな。


「市之倉様、もしかして甘いものはあまりお好きではないのですか?」

「そういうわけではないよ。甘いものは割と好きだけど、ただそのクリームの量に圧倒されちゃって」


 市之倉さんはそう言って苦笑いした。気持ちはちょっとわかる。


「晴斗兄様、パンケーキはイヤだった?」


 麻央ちゃんがちょっと哀しそうな顔をした。それを見て市之倉さんが少し慌てた。


「そんなことないよ、麻央。じゃあ少しもらおうかな?」

「本当?」

「本当だよ」


 市之倉さんは麻央ちゃんのストロベリーパンケーキを少し切って食べた。


「うん、おいしい。麻央ありがとう」

「どういたしまして。遠慮しないでもっと食べてもいいのよ?」

「そしたら麻央のぶんがなくなっちゃうよ。僕は自分のがあるから大丈夫。麻央こそ僕のパンケーキ、少し食べてみる?」

「うん!」


 麻央ちゃんはパンケーキにフルーツをたくさん乗せて頬張った。


「おいしい!あ、でもフルーツを取り過ぎちゃった、ごめんなさい。お詫びに私のクリームを分けてあげる!」


 そう言って麻央ちゃんは市之倉さんのパンケーキにホイップクリームをたっぷり乗せた。

 麻央ちゃん…。


「大好きな晴斗兄様と麗華お姉様と一緒に、食べたかったパンケーキを食べに来られて、私とっても嬉しいわ」


 麻央ちゃん、なんて可愛いことを言ってくれるんだ!

 市之倉さんも優しい笑顔を浮かべた。


「麻央は麗華さんが憧れだって言ってたもんね」

「うん、麗華お姉様はきれいで優しくて頭もいいのよ。凄いんだから」


 麻央ちゃん、それはあまりに買い被り過ぎです…。


「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、実際の私は麻央ちゃんが考えるような人間ではありませんわよ。頭も良くありませんし…」

「そんなことありません!先生だって麗華お姉様は昔から成績優秀だったっておっしゃってたもの!それにクラスのために率先して働いていたって」

「先生?」


 聞けば麻央ちゃんの今の担任は、私が初等科時代に運動会の実行委員や学級委員を押し付けられた時の担任だった。いつ私が率先したよ。


「小さい頃から先生にも信頼されていて成績もトップクラス。さすが麗華お姉様ですわ!」

「えっと、麻央ちゃん…」

「へえ。麗華さんは優秀なんだね」

「そうなの!私も麗華お姉様みたいになりたいの!」

「そうか。だったら麻央も勉強頑張らないとな」

「はぁ~い」

「……」


 小心者の私に、麻央ちゃんの描く美化されたイメージが重くのしかかってきた。今度の中間テスト、死ぬ気で頑張らないと…。


「そういえば麗華お姉様のことは、雪野君も優しいお姉さんって言ってましたわ」

「えっ、雪野君が?!」


 天使ちゃんが私を優しいお姉さんとな?!


「雪野君は初等科でも大人気なんですよ。小さな王子様って言われて中等科や高等科からも見にくる人がいたくらい。でも雪野君は体が弱いから、そうやって群がってくる女の子達から雪野君を守るようにって、ピヴォワーヌの会長様から通達がありました」

「そうでしたの」


 確かにそんな話を円城としていたな。


「その雪野君という子はそんなにかっこいいの?」


 市之倉さんが興味を示した。市之倉さん、クリームが減っていませんよ…。


「かっこいいというより、可愛いって感じですよね?麗華お姉様」

「そうね」

「私達の間では天使みたいって言われてるんですよ」


 あぁやっぱりみんな同じように思ってるんだな。まさに天使。

 私はうんうんと頷いた。 


「天使かぁ。僕も一度会ってみたいな」

「雪野君のお兄様もとっても素敵なのよ。前に雪野君を迎えにサロンまでいらしたことがあるんだけど、私達に“弟をよろしくね”って微笑んでくれたの!上級生のお姉様方もうっとりしていたわ。雪野君のお兄様も王子様みたいなのよ」

「それは凄いな」


 王子様?円城が?!やだ大変!私の可愛い麻央ちゃんが騙されてる!


「それに王子様の親友の方もとってもかっこいいの。麗華お姉様はあのおふたりと同級生なんですよね?」

「あー…まぁ」

「いいなぁ。きっとお親しいんですよね?雪野君も麗華お姉さんが僕の兄と仲が良いみたいで嬉しいって言ってましたもの」

「えっ!?」


 雪野君、申し訳ないけどそれはとんでもない誤解だ!でも私がこの前余計なことを言ったせいか?!

 やばい、円城があの女なにを勝手に自分と仲良しなんて大事な弟に吹き込んでんだって思ってたらどうしよう?!


 麻央ちゃんが無邪気に笑う隣で、私の胃は重くなった。





 今回の食事会で、麻央ちゃんが私を才色兼備と大きな誤解をしてしまっているのを知った。そのイメージを壊して可愛い麻央ちゃんに失望されないために、私はそれはもう必死で試験勉強をした。夢の中にまで単語帳が出てきたくらいだ。

 栄養ドリンク一気に2本飲みで脳みそがジンジンするくらい勉強した結果、中間テストの順位表に私の名前が初めて載った。29位だ。

 あれだけ頑張って29位…。ぎりぎりじゃないか…。いや、でも私は頑張った!

 しかし順位表を見るギャラリーの関心は1点だけだった。


 1位 高道若葉

 2位 鏑木雅哉

 3位 円城秀介

 4位 水崎有馬


 とうとう若葉ちゃんが鏑木と円城を押さえて首位に躍り出た──。

 前回若葉ちゃんが1位になった時は、皇帝失恋の巻の時だったから、まぁしょうがないともいえたけど、今回は違う。完全に実力で勝ったんだ。

 2年に上がって最初のテストでこの結果。あたりには不穏な空気が流れていた。

 そこへ鏑木と円城がやってきた。鏑木は順位表の結果を見て片眉をあげた。


「…この高道若葉って秀介のクラスだったか?」

「そうだよ。元気な子」

「ふ~ん」

「あ、噂をすれば。高道さん、1位おめでとう」


 タイミングの悪いことにそこに若葉ちゃんがちょうどやってきてしまった。


「えっ1位?!あ…、ありがとうございます…」


 若葉ちゃんが周囲の目を気にしておどおどしている。前にだいぶチクチク言われたみたいだからな。


「お前が高道か」

「え、はい…」


 鏑木の視線に若葉ちゃんはどんどん小さくなっていっている。

 鏑木は若葉ちゃんを無言でしばらく見つめた後、なにも言わずそのままふらりと校舎に戻って行った。円城は「じゃあね」と若葉ちゃんに手を振って鏑木の後に続いた。

 残された若葉ちゃんは針のむしろ……。




 あの~、ところで、私も高等科に入学して初めて順位表に載ってるんですが、誰も気づいてくれないの?

 29位は吉祥院麗華って書いてありますよ~…。


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