2006/08/31 (Thu) 最後はデコちんの思惑通り。
■キン肉マン
いやーキン肉マンネタが好きですね俺。
梶原一騎も大好きな俺的にはタイガーマスクとキン肉マンの関係についても一度書いておきたいんだけど、なかなか『タイガーマスク』を読み直す機会がない。というかちゃんと全部読んだことがあるか自信がない。アニメも最後の方は全然違う展開だしね。
『キン肉マン』は、そのストーリー展開から小ネタに至るまでかなり露骨にタイガーマスクの影響下にある部分が多いのですが、キン肉マン直撃世代にはタイガーマスクはちょっと古くて馴染みがない。俺もかろうじて『タイガーマスク2世』のアニメが記憶にあるくらいだしね。あのトラ模様に変わるスポーツカーのオモチャは持ってた(笑。
とにかく、元ネタであるタイガーマスクを知らないと不可解な点が『キン肉マン』には多い。
たとえば、
Q. シマウマって全然強そうな感じがしませんが、なぜ「キン肉マンゼブラ」なんですか?
A. 『タイガーマスク』に登場した覆面レスラー「ザ・グレートゼブラ」(正体はジャイアント馬場)からいただいてます。
これはさらに「ゼブラ・キッド」という当時実在したレスラーがモデルと言われてますが、あえてゼブラというのは虎との対比で「草食動物だけど強い」というキャラクターを馬場さんのイメージにオーバーラップさせた見事な設定だと思います。
でもさ、そういう文脈抜きで「ゼブラ」だけ持ってこられても、それじゃただのシマウマじゃないですか。
なんか白が善玉、黒が悪玉でバランス取ってたのが真っ黒になったら残虐ファイト全開、とかどこが技巧の神なのかわからんし。中の人は「パワフルマン」だし。意味わからん。もちっと考えろ。
ちなみにこのザ・グレートゼブラが登場する「覆面ワールドリーグ」編は、タイガー以外の選手が全員「虎の穴」の刺客で、終盤になって連戦のダメージで窮地に陥ったタイガーの前に突然、正体不明の助っ人として現れて強引にタッグマッチに持ち込み、はじめ彼を味方と信じられないタイガーだが最終的に息の合ったコンビネーションで勝利する、という流れは明らかに「七人の悪魔超人」編後半の原型になっています。あと「十六文キック」を出そうとして正体がバレるのを恐れてやめる、といったシーンもあり、これもキャメルクラッチを躊躇するモンゴルマンまんまです。
もっとも、この「いきなりタッグマッチになる」というパターンはわりといろんなところに踏襲されていて、『アドバンストV.G.2』なんかはシナリオ黒田洋介だしたぶんタイガーを意識してたんじゃないかな。あとは『真島くんすっとばす!』にも陣内流VSテコンドー兄弟のタッグマッチがあった。単に強敵が出るってんじゃなく、必ずしも味方と限らない相手と一蓮托生になってしまいチームワークに苦しむ、という別種の危機を演出できるメリットがある。
閑話休題、上記ゼブラでも明らかなように、キン肉マンには「パクったはいいが、パクり方がヘタなので元ネタの本質が失われて伝わってない」というパターンが非常に多い。
最もわかりやすい例は、キン肉マンソルジャーが強盗超人から人質の子供を助けてチームにスカウトした連中を感動させるエピソードです。
この逸話の原型はかなり古く、講談では伊東一刀齋の話になってたりするようですが、なんといっても『七人の侍』に使われているのが有名で、直接の元ネタはたぶんこれでしょう。
勘兵衛は強盗を油断させるため、坊さんに化け、頭も剃って「子供に食べ物を与えるだけで、捕らえる気はない」と言って近づき、一瞬の隙で強盗を捕らえます。
で、ソルジャーはというと、まず坊主ならぬ牧師に化けるため、上着を脱いで黒い塗料かなんかに浸してからバサッと羽織るとあら不思議、ノースリーブの上着だったはずなのに牧師の長衣になってる(笑。これを見ていたソルジャーチームの面々は「超人にとって命の次に大事なリングコスチュームをあんなことに!」とか驚いてるんですが、まあこれは武士にとっての髪を剃ること、との対比のつもりなんでしょうけど、コスチュームってそんなに大事なんですか? つか、だったらそのイカれたマスクを取れよ! そのツラで牧師とはよくもホザきやがったな。本気で化けるんならキン肉族にとってまさに命同然のマスクを取って素顔になってみろ。それでこそみんな感動するってもんだろ。
ともかく、マスクをしたまま牧師に化けおおせたソルジャーは強盗の立てこもる家に近づくが、即席の服の胸元がはだけて正体がバレる(笑。 その胸板を見た強盗に「へっへっへ……牧師さま、えらく筋肉が発達していらっしゃる。どこで鍛えられたんですかい?」「てめえ超人だなーっ!」とか言われてるんですが、その前にツラ見れば一目でわかるだろ!
このあたりの、「服を黒くしたら一瞬で牧師の服ができあがる」とか、「変なマスクしてようが牧師の服着たら牧師で通る」とか、マンガにおける記号表現を考えるうえで非常に興味深い事例ではあるのですが、それ以前に戸口のところで正体バレてたら化けた意味ねーじゃん。ブロッケンJr.が「何よりもまず子供の命を気遣うとは……優しいやつ!」とか当たり前のことに感動しまくってるのも演出下手の強調みたいなもんですね。
その他に、有名なのはキン肉ドライバーの特訓。これがまた、タイガーマスクの必殺技であるウルトラタイガードロップの特訓まんまです。つか、あの特訓シーン、「体重300kgはあるイノシシ」が襲ってきてキン肉マンとテリーマンがビビるんですが、そもそも超人にとってイノシシがどの程度の脅威なのかよくわからない(笑。野生動物くらい余裕ちゃうの? 超人だろ? ちなみにタイガーマスクでは出てくるのはヒグマで、こっちのが凄そうだよね。タイガーVの特訓なんて走ってくる自動車を投げ飛ばすというもので、さすがに届けられた原作を読んだ作画担当の辻なおき先生も梶原一騎に電話して「ふざけんな」と言ったとか言わないとか。他にもアシュラマンのクモの巣リングだとかサタンクロスの魔法陣リングすら(!)ほとんどそのままタイガーマスクにその原型が見られるし、仮にもプロレスを舞台として実在のレスラーも多数登場するマンガでキン肉マンと同じかそれ以上にムチャクチャなことをやってたタイガーマスクは凄いとしか言いようがない。
一応キン肉マンに話を戻すと、タイガーマスクだけじゃないんですよ! 他に有名どころで一番わかりやすいのは、プラネットマンの人面疽。ウォーズマンの顔をパンチでブチ抜く場面ね。これはデビルマンの魔獣ジンメンです。まんまです。
でもザ・ニンジャの忍法なんかはかなりマイナーな忍者マンガ(『忍法十番勝負』)を元ネタにしてたりして、ちょっと感心した。たまたま手元にあったマンガをパクっただけなのかもしれんが。それもまた一目でわかる丸パクリだし(笑。
ついでに、キン肉マンの色違いが「キン肉マングレート」というのはアニメ版のタイガー・ザ・グレートから取ったんだと思うけど、惜しむらくは「ザ」が抜けたので英語の「名前 the 二つ名」のカタチになってない。まあその後「キン肉マン○○○」が続いたし、II世も「キン肉マンタロウ」だから初期のパロディに立ち戻ってウルトラマンを踏襲したのだといえなくもない。単に「グレート」で後ろから修飾したのだと考えてもそれはそれで乙だ。好意的解釈(笑。
名前といえば、キン肉マンの兄の名前が「アタル」であるのはキン肉スグルが江川卓から取られたからで、「中」というのは江川の弟の名前なのだった。(『ドカベン』で江川をモデルにした(「江川学園」!の)「中」も同じ由来で、下の名前の「二美夫」は江川の父親の名前。)スグルなんて最初は適当に付けたんだろうに、王位争奪編まできて江川つながりが出てくるとは(笑。
ところで俺の長年の疑問として、キン肉マンの「超人絞殺刑」の元ネタが「タイガー縛り首」という技だという説の真偽を調べてるんだけど、誰か知らない?
「縛り首」→「絞殺刑」って言い換えただけやん! というのがいかにも有りそうで信憑性は高いと思うのだが、確認できない。三大必殺技には入ってないとはいえ、「タイガー~」ってついてるしそれなりにメジャーな技じゃないかと思うんだけどググっても出ないってことは違うのかな。一説にはアニメ版でタイガー・ザ・グレートがケン高岡に使った技じゃないかって言うんだけど……知らねーよそんなの(笑。 誰かタイガーマスクに超詳しい人がいたら教えて下さい。
(追記)「虎式縛り首」だった模様。要確認。