【開幕戦】ロシア対サウジアラビア【標準装備の差】
今回のワールドカップの注目点は、各チームの戦術的熟成度をはかろう!となっている。戦術的熟成度をもっと具体的に言うと、プレーモデルがどれだけはっきりしていて、どれくらいの想定のパターンを選手たちに落とし込めているか?みたいな。そして、それらの準備された設計図には、自チームの選手の個性、相手チームの選手の質、チームとしてのルールが反映されているかどうか?
つまり、日向くんと翼くんを並べたら最強に違いない!的なオールスター的な思考のチームは、真っ先においていかれる時代になっているような。育成年代でのアドバンテージも、グローバル化に伴い消えかけている。オランダのみんなー、元気??今回は出場していないけど、近年のイタリア代表の変貌は記憶に新しい。ただ、オールスター的な思考のチームが、クラブチームのような戦術の完成度、幅を手に入れることが最終目標になるんだろうけど。
システムかみ合わせ論
テンションの高い序盤戦を終えたころに、両チームの設計図がピッチに現れるようになってきた。
代表の選手をリーガ・エスパニョーラに派遣していたサウジアラビア。スペイン式のボール保持攻撃を本大会では目指しているようだ。アジアの予選ではしっかりとした守備からのカウンターで前線の選手の能力をフルに活用しながらも、ボールを保持する必要があるなら繋ぎますという姿勢をみせていたと記憶している。だめだ!世界を相手には守りきれないっ!と考えての変更なのかどうかはわからない。
4-3-3でボールを保持しようとするサウジアラビアに対して、4-4-2で迎え撃つロシア。事前の情報では、ロシアは3バックをメインにしていたらしい。これか?!情報を隠すってやつは?!的な衝撃を受ける。ただ、世界の共通語になりつつある4-4-2のゾーン・ディフェンスが本当の正体なんだ!と言われても、驚いて良いのかは正直言って微妙だ。
サウジアラビアのボール保持とロシアの非ボール保持の対決に行く前に、システムかみ合わせ論をみていく。
・ロシアのボール保持は4-5-1。非ボール保持は4-4-2。ジャゴエフが列を上げる役割になってる。なお、スモロフも降りてボールを受けに来るので、役割は固定的ではない。
・サウジアラビアのボール保持は4-3-3。非ボール保持は4-1-4-1を基本として、インサイドハーフが列を上げることで、1トップの数の問題(ロシアの2センターバック対1トップ)をクリアーしようとしている。
両チームの数的優位部分を比較する。
・サウジアラビアは2トップの間にいるべきアンカー(オタイフ)のポジショニングが怪しい。というか、正しい位置にいてもセンターバックがボールを入れられそうな気配がない。さらに、センターバックがフリーでも運ぶドリブルをやらないので、途中から2列目が降りてきて超数的優位を作るようになっていく。
・ロシアは2枚のセンターバックで時間とスペースを得られることがわかっているようだった。よって、相手の1トップを疲れさせることも考慮して横パスが多かった。サウジアラビアのインサイドハーフが出てきたときは、前線にボールを入れられれば入れる。無理なら、アキンフェエフに下げてからのロングボールで前進を試みていた。さらに、2枚のセンターバックで時間とスペースを得られるので、サイドバックを高い位置に送るロシア。サイドバックを上げた位置にラジンスキという場面は何度も見られた。サイドバックを上げる→相手のサイドハーフを連れて行く→そのエリアを使えるという綺麗な流れであった。
相手のシステムを見て、どこに時間とスペースが得やすいかを把握する。次に、どのようにして、相手が得る予定の時間とスペースを消すのか、それとも捨てるのか?をしっかりと観察しながら試合をしているロシアとサウジアラビアの差がくっきりとわかる場面だった。
空中戦優位と仕組まれたプレー再開
困ったときのセットプレーということわざがある。流れのなかから点が入りそうもないときはセットプレーに期待しよう!という意味だ。今回のワールドカップはビデオ判定も導入されているので、特にセットプレーの反則は厳しく判定されるだろう。だからこそ、困ったときのセットプレー。得点が決まらなくても、ビデオ判定が助けてくれるかもしれない。
困ったときのセットプレーということわざの従兄弟に、困ったときのロングボールということわざがある。ショートパスによるビルドアップを志向しているのだけど、相手が同数でプレッシング、なんか今日は繋げない、相手のスピードは超早い!、なんてときに正面衝突をするのは得策とは言えない。そんなときは困ったときのロングボールに限る。
困ったときのロングボールの注意点は、空中戦の的を誰にするかだ。前線がアグエロ、フォルランではロングボールを蹴ってもほとんど意味がない。そんなときは愚直に地上戦をやるか、相手の裏まで蹴っ飛ばすしかない。最近のサッカーの流れでは、ゴールキックを繋ごうとする→相手が繋がせないように前に出てくる→その状態のまま蹴っ飛ばして、裏まで走りまくるか、計算されたポストプレーで一気に速攻を仕掛けるか?という世界になっている。
さて、繋げなそうなサウジアラビアがどうなったか見てみよう。
・サウジアラビアのセンターバックには時間があるといえばあるので、ロングボールを蹴る。ロシアのセンターバックは空中戦が超強い。
・ゴールキックを繋ごうとしても、ロシアのプレッシング隊が迫ってくる。よって、みんなを上げて蹴っ飛ばす→ロシアは空中戦が強い。
ついでに、ロシアの事情も見てみよう。
・ショートパスによるビルドアップをできるときはやる。でも、基本的にはロングボールを蹴る。だって、競り勝てるから。
サウジアラビアからすると、地獄のような状況だ。ビルドアップは相手のプレッシングに止められてしまう。ロングボールで打開しようとしても、競り負けてしまう。だったら、引いて守備を固めたいのだが、ロシアがロングボールをガンガン蹴ってくる。だったら、死なばもろともだべ!と突撃していくが、アキンフェエフまでボールを下げてからのロングボールを蹴られてしまう。そして、空中戦には勝てない。
なお、チェリシェフが決めたロシアの4点目(アウトサイドのシュート)は、ロングボールをジュバが胸トラップで落としてからのチェリシェフであった。空中戦の鬼のジュバと空中戦をしたのがサウジアラビアのサイドバックというのが切ない。なお、サウジアラビアは左サイドバックを執拗に空中戦で狙われてて切ない状況になっていた。空中戦の強いセンターフォワードがサイドに流れて空中戦でサイドバックを狙い撃ちは、ちょっと前に流行っていた。マンジュキッチをサイドで起用することもこの流行から生まれたと思っている。
ロシアのハーフスペースプレッシング
ロシアの非ボール保持について見ていく。
ロシアのプレッシングは4-4-2のゾーン・ディフェンス。ペナ幅で守るような中央圧縮で、ボールがサイドにあるときは逆サイドのスペースは捨てていた。いわゆるアトレチコ・マドリースタイルだ。相手の列を縦に移動する動きに対しては、マンマーク気味に対応していた。そういう意味では完全なゾーン・ディフェンスではない。完全なゾーン・ディフェンスなど存在しないけど。最近の流行は、ボールサイドはマンマークでボールサイドでない選手たちはゾーン・ディフェンス的な。
ボールを保持するチームがまっさきに狙うエリアが、図の四角のエリアだ。誰か名前をつけてください。ぼくはハーフスペースの入り口と呼んでいて、2トップ脇のエリアとも呼ばれている。このエリアで相手にオープンな状況でボールを持たせないようにすることが大事だ。
基本的には2トップに頑張らせる。そのかわりに、アンカー下ろしなどに対しては、2列目の選手のヘルプが入る。なお、大外エリアの管理はサイドバックが行うことが多い。でも、68メートルを2人で管理することは不可能だ。というわけで、相手は絶え間ないサイドチェンジをすることで、相手のスタミナを削っていく狙いを見せるのが普通の流れとなる。
この形はそんなに再現性があったわけではないのだけど、迷いは全く無い様子だった。ボールを保持しようとするサウジアラビアもアンカー下ろしの3バック、片側インサイドハーフ下ろしなどなど色々な抵抗を試みていた。しかし、この場面のように、守備が間に合わないときの準備もきっちりしているロシアの前に何もできない展開が続いていった。なお、ハーフスペースの入り口を頂点とする三角形はボールを奪ったらそのままそのエリアから相手を攻略できるというのがロシアのカウンターのネタであった。
つまり、サウジアラビアはボール保持で破壊され、トランジションでも破壊される。また、ボール保持を目指したことで、アジア予選で見せたような非ボール保持でのプレッシングが全く見られなくなっていた。そもそも、前線の選手があまり帰陣しないし。というわけで、結果は火を見るよりも明らかというやつで、開催国のロシアが無事に勝利しましたとさ。
ひとりごと
色々な事情があったにせよ、ファン・マルワイクで本大会も臨めばよかったのにというサウジアラビア。ボールを繋ぐのはそれはそれで良いけれど、ボールを止めるときの身体の向き、ボール保持者の選択肢をどれだけ持っているか、パススピードなど、まだまだ訓練中の印象を受けた。あれだけ空中戦で勝てないと、ちょっとどうしようもないかもしれないが。
ロシアは守備の幅、対応力を見せつける形となった。後半になると、より撤退モードに切り替えたのも良かった。ウルグアイ、エジプトもボール保持で生きていくチームではないので、ボール非保持の展開に持ち込めれば、いい勝負ができるかもしれない。