第68回 捏ねて楽しいチベット族の国民食
「タシデレ」とはチベット語で「こんにちは」や「さようなら」といった意味を持つ、挨拶の言葉だという。東京・新宿区にある東日本で唯一というチベット料理店は、この挨拶の言葉を店名に掲げていた。
店内はチベットの五色の祈祷旗「タルチョ」が彩り、異国の情緒たっぷり。ヒマラヤ山脈の北側にあるチベットは中国の自治区だが、主にその地に居住する少数民族のチベット族は独特な文化を持つ。ならば、料理はどうなのだろうとやってきた。さっそく、店主のロサンさんに尋ねる。
「在日チベット人が店にきて必ず食べるのはモモですね」
モモって肉を小麦粉の皮で包んだ蒸し餃子のような料理のことだろうか。それならネパールで食べたことがある。口に入れるとモチモチの皮の中から肉汁がジュワーっと広がって幸せな気分になるんだよねえ。
「モモはもともとチベットの料理です。ネパールとはヒマラヤ山脈を境に隣接しているので様々な文化が行き来しているんです。料理もそうで、モモの他にテントゥクという麺料理などもネパールでよく食べられていますよ」
私の言葉に反応して、ロサンさんが説明してくれた。ただ、チベットのモモとネパールのモモはちょっと違うらしい。まず、使用する肉。ネパールでは水牛がポピュラーなのに対し、チベットはヤクの肉を使うという。味付けもチベットはネパールのように香辛料を使わず、塩ベースだそうだ。日本ではヤクの肉が手に入らないので、牛肉を使ったお店のモモをいただく。