南アフリカのリンポポ州にある巨大でたくましいバオバブの木。樹齢数千年と言われる幹には洞(ウロ)ができていた。その空間は巨大で、周囲は45メートル。洞の内部にパブまで作られていた。
「サンランド・バオバブ」と呼ばれるこのパブは、20年間観光客にも人気で、木の中でお酒が酌み交わされた。ところが、2016年8月、洞を支える巨大な壁(樹幹の一部)の1つが枯れて壊れ、その8カ月後には別の壁と次々枯れて壊れていった。今では洞を支える壁は半分になってしまっている。
サンランドの木が枯れたのは、洞の中に人が入り込んだためと思う人は多いだろう、でも、実際は違う。同様のことが、アフリカ全土のバオバブの木で起きているからだ。科学者グループが2018年6月11日に学術誌「Nature Plants」に発表した内容によれば、アフリカでは、この12年間で、特に大きく古いバオバブの木が次々に枯れているという。
サンランドの木がたどった運命は、愛すべき変わった風貌のバオバブの将来を暗示しているのかもしれない。バオバブが枯れた原因はまだわかっていないが、科学者たちは気候変動が原因ではないかと考えている。
研究の共著者であるルーマニア、バベス・ボヨイ大学のアドリアン・パトラット氏は、「1000年から2000年の樹齢でもバオバブは元気で、見るたびに驚きます。でも、数年後に、その木が枯れて倒れてしまうかもしれないというのはもっと驚くべきことです」と話している。
「統計的に考えれば、こんな短期間で、ここまで多くの古いバオバブが同時に自然に枯れることなど、ありえません」
バオバブが枯れていく
バオバブの特徴は太い幹とまばらな枝だ。まるで木が逆さに植えられているようにも見えるほどだ。円状に樹幹が増えていくという成長の仕方から、内部に大きな空洞ができることが知られている。空洞は、人が入れるほど大きくなることがある。
バオバブは種子植物としては最古の部類に入り、9つの種がある。さまざまな名前で呼ばれ、伝承や伝説にも数多く登場する。アフリカからアラビア、オーストラリアに分布し、乾燥した落葉樹林、砂漠、サバンナでは貴重な存在だ。(参考記事:「監獄の木」の異名をもつオーストラリアのバオバブ)
パトラット氏は、2000年代初めからバオバブの研究を始め、ここ15年間の大半を費やして、特に大きく古い60本以上の木を特定し、放射年代測定によって樹齢を計測した。というのも、セコイアやオークなどの木とは違い、バオバブは年輪から樹齢を判断できないからだ。成長とともに年輪は消え、また古いバオバブほど内部に巨大な空洞ができているため、従来の方法で樹齢を調べるのが難しいのだ。